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【保】いない − 旧・小説投稿所A

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【保】いない

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黒々とうねる暗黒が、世界を満たしていました。


重く広がる黒は、ただの黒ではありません。
それらは全て、元ポケモンの姿なのです。
たくさんの、数え切れないほどのポケモンが集まっていて、
遠目から見ると黒く見える、ただそれだけなのです。


荒れ果てた足場が、どろどろうずまきの中にぽっかりと浮かんでいました。


どこを見ても果てしなく広がる闇の中に、足場はありました。
赤茶けた岩のような足場は、不安定なようでいて、どっしりと構えています。
ただし、上を見ても下を見ても周囲を見回しても見えるものは、無数の色の黒一色です。


シャワーズはその中央に佇み、今か今かと彼を待っていました。


ふと気が付いてみるとまたこの空間に戻っていた彼女は、
むしろ好都合とばかりに、彼を待ち望んでいます。
今更ながら、なんて恥ずかしいことを言ってしまったものだとは思いますが、
もうやってしまったことなのですから、後悔する意味がありません。
それに、あれは彼女の本当の気持ちだったのでしょう。
今まで押し隠してきた、溜め込まれていた、本当の気持ち。
それらを全て吐き出して、彼女は晴れ晴れとしていました。

彼女はぐぐーっと伸びをして、ちょこんと腰を降ろしました。
不思議とこの空間では、彼女はヘドロの身体ではなく、従来のシャワーズの姿をしていました。
ですから、腰を降ろす、というようなことができるのです。
いつも彼を待っているときのように、
いつもの彼と別れてから残った一日のように、
時間がゆっくりと流れているような気持ちになります。

「もうダイったら、なにやってるんだよ。こんなに人を待たせてさあ。
 のこのこと来てくれちゃったら、どうしようか?」

そっとひとりごちます。
おいおいそりゃねえよ、と苦笑する彼の顔を想像して、
彼女は一人でくすりと笑いました。


彼女は彼を探します。
彼の大きな青い身体を、彼の大きな優しい手のひらを、彼の大きな顔がにこにこと笑う様を。
彼女は彼を探します。
上を見ます。右を見ます。左を見ます。下を見ます。
彼は、そこにいました。



彼女が彼を発見したのは、
真下に広がる深淵を背景とした、断崖絶壁の壁面でした。



「ダイ!!」

彼女は下を覗き込んで、叫びます。
彼は、彼女がいるところから幾分か下のほうに、手をかけてぶら下がっていました。
彼女を見て驚いた様子で、少しぐらつきました。

「何してるんだよ! 離しちゃダメだ!」

彼は崖を掴んで、上を見据えています。呼吸も荒く、辛そうです。
ただでさえ、陸上では巨体を支えるのが大変だ、と言っていた気もします。
壁面に掴まっていることは、どれだけ大変なのでしょうか。

「大丈夫!? もうすぐだから!」

彼女は叫びます。まだ彼女の手の届く範囲にはいない彼へ向かって、ただ叫びます。
それしかできない無力な自分が、とてもとても悔しくてたまりません。

「――――――!」

その時、彼がなにか喋りました。
しかし、彼女の耳に彼の声は届きません。

「なに? 聞こえないよ!」

「――――!! ――!!」

今度は怒鳴ったかのように見えました。
それでも、彼の声は彼女には聞こえてきません。
彼女の声は彼に聞こえているはずでしょうに。

「わかんない! 聞こえないんだ!
 とにかく、そこは危ないから、上がってきて!」

彼は、口を動かしながら、ゆっくりと上ります。
取っ掛かりを見つけて、その安定性を確かめてから、体重を掛けます。
幸いにして、この足場はごつごつと荒れているため、突起には事欠きませんでした。
しかし、どんどん近づいてくるというのに、やはり彼の声は聞こえません。

「ダイ! がんばれ! ダイ!」

彼女には、彼を応援するしかできませんでした。
それでも、何もしないではいられなかったのです。
彼が一歩上がるたびに大きく喜び、ふらつくたびに汗を垂らして慌てます。
彼女の声は彼に届くらしく、時々声に反応して表情が変わりました。

「ダイ! あとちょっと……! ほら、捕まって!!」

彼がもう目前に迫って、彼女はついに自分の右腕を差し出します。
少しでも、彼の力になりたかったのです。彼を、助けたかったのです。
彼は左手を持ち上げ、彼女の手へと伸ばします。


そして、寸前で、その動きが止まりました。


「ダイ!? 何してるんだよ! 早く上がってこいよ! 危ないん――」


そこで、彼女ははっきりと見ました。彼の口が動くのを。
声は聞こえませんでした。届きませんでした。
それでも――










「Soushitara……、――omaeha mata ore wo korosu noka……?」



それでも、何を言っているのか、わかりました。











彼はじっと、彼女を見つめます。

鳶色の瞳で、彼女を見つめます。

心の奥底まで見透かすように、見つめます。

彼女は、身じろぎすらできません。

口から漏れるのは、言葉になり損ねた音だけ。

「……そんな、そんな、つもりじゃ」

途中までは形をなした言葉も、彼の瞳に射抜かれて、落ちていきます。

彼から目を逸らしたいのに、背けることができません。

がっしりと強固に掴まれて、何もすることができません。







そのまま、長い長い時間が――あるいは、たった一瞬の時間が――流れました。

「と、とにかく、まずは、上がらないと、ね、ほら!」

彼女はもう一度、彼へと右腕を突き出します。

差し出された右腕を一瞥して、彼は悲しそうな顔で微笑みました。

そして、彼の左手が伸びて――、

























右腕が、にたりと笑いました。

















「え?」




右腕はぐにゃりと伸び、意地の悪い笑顔をして、こちらを見ました。




「え?」




右腕はぐにゃりと伸び、意地の悪い笑顔をして、彼を見ました。




「え?」




右腕が、彼の右手へと伸びました。




「え?」




右腕が、彼の右手に触れました。




「え?」




彼が、顔を強くしかめて、大きく口を開けました。




「え?」




紫色の右腕が、口元の大きく歪んだ、意地の悪い笑顔を浮かべていました。




「え?」




支えるものを失った、彼の身体が落ちていきます。




「え?」




支えるものを失った、彼の身体が落ちていきます。




支えるものを失った、彼の身体が落ちていきます。




支えるものを失った、彼の身体が落ちていきます?






















「嘘だああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアア!!!!
 うわああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアア!!!!」

















絶叫の向こう側に聞こえた最後の彼の言葉は、

もしかしたら、彼女の妄想だったのでしょうか?






<2011/12/16 21:55 ホシナギ>消しゴム
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