楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル
【保】いない − 旧・小説投稿所A

RSS | 感想 | TOP
【保】いない

|<< < 3 / 10 >>|

森の中を流れる渓流などどこにもありませんでした。
足元を染める深緑すら存在しませんでした。
けれども、彼女は”そこ”にいて、目を覚ましました。

「…………よーし、ちょっと落ち着こうか」

とりあえずあたり一面を見わたします。

”そこ”には、何もありませんでした。
ただ真っ暗、いえ、真っ黒な世界です。
真っ暗だから真っ黒なのかと思えますが、それは違いました。
彼女自身の姿は見えますし、足元は赤茶けた岩となっているのが見えます。
真っ黒だから、黒しか見えないのです。

その黒でさえ、一概に黒、といえるものではなく、
全ての色をまぜこぜにしてぶちこんだような、そんな複雑怪奇な黒でした。
ときどき、その黒はどろどろとうずまき、うねっていました。

「さあボク、ここに見覚えは? ……あったらボクは君をボクだと認めないよ?」

”そこ”は、この世界中のどこにも存在するとは思えない場所でした。
足場となっている岩場は、そこまで広いともいえず、すぐそばに端が見て取れます。
恐らく、端から端まで、三十歩ほどなのではないでしょうか。
足場のふちから下を覗いてみると、下のほうにも延々と黒が続いています。
恐る恐る手を伸ばしてみても、やはり足場からこぼれれば、落っこちてしまいそうです。

「とりあえずまずは状況確認が先決、かな?」

全く訳のわからない状況で、シャワーズはひとり呟いていきます。
たった一人で、黒く塗りつぶされてしまいそうだからこそ、
彼女は声を出しているのです。

「まずボクは今日も今日とてのんびりゆったり適当に散歩を楽しんでいた。
 これはどうしようもない事実たりえるだろうね。
 まあ、あわよくばダイ――友人のオーダイルだ――に会えるかもしれないしね?
 それで、今日は天気がいいから川を歩くことにしたんだよ。
 あそこはいいよ? 風は気持ちいいし、水はきれいだし。
 それから、奥の方まで行けばこれが案外人がいない。
 あんなにきれいな場所なのにどうしてだろうね?
 まあ、人だらけになっても困るけどさ。
 やっぱり、ヒミツの場所ってのはいいもんだよ、うん。
 それで、そのヒミツ中のヒミツ、小さな滝に差し掛かったところで、
 まあ、その……、無警戒にもうたたねをしてしまったわけだ。
 だって、仕方がないじゃないか! あんなにも気持ちがいいんだもの……。
 まだ太陽が南中すらしていないってのに、我ながらなんていう怠惰だ、ってのは確かに思うよ?
 でも、あんなにも穏やかで落ち着いてたら、誰だって昼寝のひとつくらい、
 嗜みたくなるだろう? なるんだよ! ボクは!
 とにかく、ボクが少々睡魔に負けているとだな、
 なんだかいやーな臭いが漂ってきて、それで目を覚ましたワケ。
 そうしたら、川の中からベトベトンがコンニチハ、と相成りました、ってな感じだ。
 ああああああああああ! そんな近くにくるまで気付かなかったなんて、なんていう体たらく!
 それにしても、なんであいつに気付けなかったんだろう?
 川を流れてきたから? でもそれだとすると、必ず滝に引っ掛かるよね。
 あそこの滝は素直じゃないからね、段々の岩を段々にだんだん流れてくるんだよ。
 それに、臭いで気付いたんだから、もっと川の上流のうちから漂ってきてもおかしくないよね?
 うーん……。なぜだろう……?
 ヘドロ? 地面に染み込んできたとか? 川の下の。
 ……なんかもうそういうことでいいか。起こってしまったことは変えられないよ。
 それから、ボクはそのベトベトンに狙われそうになって、
 ボクは”とけ”てからあいつの目を盗んだり、攻撃を受け流したりして、
 川に流れて泳ぎながら逃げる作戦を立てた。
 で、見事ボクが”とけ”たところで、あいつも”とけ”て……。
 以上、これがここまでのあらすじ、もとい、ボクの記憶」

一呼吸。

「さて、問題です。ボクとは一体、誰なんでしょう。
 ……ボクの記憶によれば、ボクはシャワーズのはずなんだけど、間違ってないよね?
 間違ってたら大問題だよ。先述の記憶って一体なんだったのさ」

彼女は自分の身体を見回します。
水色の毛並みに、ひれのついた尻尾。襟飾りも、頭のひれも、全部いつもと変わらない、彼女のものでした。

「間違っちゃあいないね。
 じゃあ、いったいこれはどういうわけなんだ?
 どこかに、連れ去られたとか? ない、よねえ。
 だって足場がここにしかなさそうだもの。
 ベトベトンは空を飛べない。宙にも浮けない。ボクもしかり。
 こんな孤島、あはっ、まさしく孤島だね!
 これが海だったりしたらまだ泳いで逃げられそうなんだけどな、
 さすがにこんなわけのわからないどろどろうずまきの中に突撃する勇気はないや」

そう言って彼女はきょろきょろと眺め回します。
辺りは変わらず、やはり全ての色という色を内包したかのような、
入り混じってぐちゃぐちゃで濁りきった、黒。
そうして時々揺らいで歪んで、どよめいていました。

「なんなんだろうねえ、もう」

ダイ、君ならこの状況はなんなんだと思う?
なんとなく呟いてみるものの、答えはもちろんありません。
そのまま、呟きは黒々とした闇に吸い込まれていきました。

「まずボクは、ベトベトンに巻き込まれちゃったんだろ?
 となると、ここはベトベトンの体内とか?
 ……どう考えても広すぎるよなあ。それになにより、臭くない。
 うーん、意味がわからないよ。
 ……死後の世界とかそういうジョーク? まったくもって笑えないよそんなの。
 んー、……ん?」

とぐろをまく暗黒の中に、なんだか赤みを帯びた箇所がありました。
わずかに、ほんのわずかに、周囲より赤っぽく見えなくもありません。
じっと目を凝らして見てみました。
なんだか……、赤っぽい……、点がある?
点が、集まってる?
そうやって見てみると、他にもどことなく青っぽい部分や、緑っぽい部分など、
ところどころ色が強い部分もありました。
そして、得てしてその部分は、色の点が集まっているように見えます。

「点、かなあ……? 色の点?
 色の点が集まって、黒く見えてるのか?
 赤い、色の点……。揺らいで? 炎!?」

シャワーズは崖のふちから下を覗き込みました。
ねっとりと広がる黒の中を、覗き込みます。
目を凝らして、じっと見つめて、もっと、良く見るんだ……!



「ポケモン、だ……」



”そこ”は、ポケモンがひしめく空間でした。
たくさんの、数え切れない、那由他の彼方へも及ぶ数のポケモンが、
上にも、下にも、右も左も全部全部を占めているのです。
色とりどりのポケモンたちが、集まる事によって、真っ黒に見えていたのです。

そして。










「わかったよ、”ここ”がどこだか」



「”ここ”は、おまえの精神世界。違う?」


シャワーズは後ろに語り掛けました。
より正確を期すなら、後ろから漂う異臭に話し掛けました。







はたしてそこには、例のベトベトンがいて。

















「原理は知らない。まったくもってオカルティックだとは思う。
 けれども、ゴーストポケモンもエスパーポケモンもいるのに、
 オカルトを信じないのはナンセンスだ。
 だからボクは信じよう。信じるさ。
 ボクたちは互いに”とけ”て液状になった。
 それで、ボクはお前の波に攫われたんだ。

 ボクたちは、そこで入り混じったんだ。

 液体と液体が混じって、一体となった。
 だから、ボクは”ここ”にきたんじゃないか?
 なんといっても、大きさとか、いろいろ圧倒的に優位だったのはお前だろう?
 だから、お前の”精神世界”――それとも、”心象世界”だったりするのかな――にきてしまったんだろう」


ベトベトンはにやにや笑顔を崩さずに、シャワーズに迫ります。


「それでは、この周りにいるポケモンたちはなんなんだろう。
 そんなもの、決まっているだろう。
 みんな、お前が喰った、融かした、取り込んだ、ポケモンたちだ!
 お前に吸収されたら、”この世界”を形成する”黒”の十把百把万把兆把那由他把一絡げの
 色の点となるんじゃないのか? まあ憶測にはすぎないんだけどね。
 ボクも本来なら、こうなるはずだったんじゃないかなあ?
 だけどボクは、運が良かったのか悪かったのか、ここにいる。
 それはやっぱり、”とけ”合ったからなのだろうね。
 おまえの一方的な吸収でなく、細胞どうしが入り混じった状態なのだろう」


ベトベトンは迫って。迫って。迫る!


「わかるかな。要するにね、こう言いたいんだよ。
 ”世界”の黒は、全てお前が殺したポケモンたちによるもの。
 ボクは、その一端を担っている状況では、ない」




つまりだ。




「ボクはまだ、喰われてない! ボクはまだ、生きてる!!」




とうとうベトベトンは、シャワーズのもとに辿り着きました。
にやにや笑顔は、依然としてそのまま。
だからなに? とでも言うように、ヘドロの腕をシャワーズへと伸ばします。


「ボクを呑みこもうっていうのか?」


シャワーズは、きっ、とベトベトンを睨めつけます。
ベトベトンの手がもう目前にありました。
にやにや笑顔は、いっそう大きく歪んでいます。










「ボクは、ボクを、お前には渡さない!!」









ベトベトンの腕が、ひいては体が、彼女に触れました。
顔に触れて、首を、胸を、足を、腹を、全身を撫ぜます。掴みます。這いまわります。


けれども、シャワーズは決して目を閉じることなく、ベトベトンをきつくきつく睨みつけます。





<2011/12/16 21:52 ホシナギ>消しゴム
|<< < 3 / 10 >>|

TOP | 感想 | RSS
まろやか投稿小説すまーと Ver1.00b