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【保】神々の戯れ〜神様、街へ行く〜 − 旧・小説投稿所A

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【保】神々の戯れ〜神様、街へ行く〜

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「――なるほど。よく分かったよ、長谷川くん」

月夜兎はその青年、長谷川省吾からセルモスとの関係を聞き出した。

「何というか、かなりインパクトのある“不思議な体験”をしたんだな」

「はい。まあでもセルモスのおかげでこっちの世界に戻れましたからね」

省吾は曇りのない笑顔を見せる。

「うん、さりげなく宣伝しておかないとな」

「何の話です?」

「いや、何でもないよ。ところでドラゴンであるセルモスくんとの暮らしはどうなんだい?やっぱりいろいろ苦労があるんじゃないのかな?」

月夜兎の質問を受けて、省吾はチラッとケーキを取りに行っているセルモスのことを見た。

「う〜ん、そんなことないですよ。なんだかセルモスって見た目は確かにドラゴンなんですけど、中身はホント人間っぽいんですよね。この世界に来てから短時間で順応しちゃいましたし。まあ強いて言えば、たまに俺のことを呑み込んじゃうことぐらいですかね」

「そこは大きなポイントだと思うんだけどな。まあ、いいか。実は私もよく水神に呑み込まれるんだよ。胃壁って意外に気持ちいいんだよなぁ。まあこれを言ったら絶対に水神は調子に乗って冗談抜きで毎日私のことを食べそうだからオフレコにしてね。いくら不死身っても私の体が保たないよ」

月夜兎は苦笑いをして省吾に念を押す。

「さりげなくすごい単語が聞こえたような気がするんですが……」

さすがは神様、と省吾は思った。

「それにしても両方とも遅いな。いつまでケーキを取りに行ってるんだ?」

「確かにそうですね」

「しかも厨房も何だか騒がしいな。嫌な予感がする。ちょっと見てくるか」

月夜兎と省吾は、二頭の様子を見に席から離れた。


「艦長、じゃなくて店長!先ほど出したケーキ2ホールが消失(ロスト)しました!」

「何かの間違いじゃないのか!?」

「ああ!またケーキが3ホール、いや4ホール食われたぞ!」

「非番の店員を全員呼び出せ!非常事態宣言だ」

「店長ォ!スポンジケーキの在庫がもうありません!あと料理長が負傷(ケーキの作りすぎで腱鞘炎)し、戦線を離脱しました!」

「何ということだ……。近隣の系列店舗に支援要請をしろ!」

これは決して攻撃を受けた軍艦の艦内の様子ではない。
ケーキバイキングの店の厨房の様子である。

「ねえ、省吾くん。私さ、そっちを見たくないんだ。どうなってるかだけ教えてくれる?」

厨房を覗き込んでいる月夜兎の顔はもはや無表情になっていた。

「えっとですね、手短に言うとセルモスと水神さんがケーキを食べています。ただしホールごと。どうやら大食い競争しちゃってるみたいです。いやぁ、ケーキをホールごと丸呑みだなんてドラゴンじゃなきゃ出来ませんよねぇ」

省吾はもう笑うしかないといった感じであった。

「どうしましょうか、月夜兎さん?」

「なんとかやめさせないとな。君も協力してくれるよな?」

「そりゃもちろん協力しますよ」

月夜兎の申し出に、省吾は力強く頷く。
だが省吾は気付かなかった。
月夜兎が心の中でほくそ笑んだことを。

「グルル、負けるもんか」

セルモスは空っぽになった皿を静かに置き、水神のことを見据えた。

「それはこっちの台詞だよ。店員さ〜ん、ケーキまだ〜?」

一方の水神もセルモスのことを見つめかえし、皿をカチャカチャ鳴らしてケーキを催促する。

「おい、そこまでにしとけ」

そこに月夜兎が仲裁に入った。

「えー、まだ食べ足りないよ〜」

水神は頬を膨らませて不満を顕にする。

「まあそう言うなって。実はだな――」

月夜兎は何やら水神に耳打ちした。

「それホント!?やったー!」

水神は大喜びすると、セルモスの手を取った。

「今回の勝負は引き分けにしない?月夜兎がもっと美味しいものを食べさせてくれるんだって」

「引き分け?なんだかなぁ。でももっと美味しいものを食べさせてくれるのか。……それなら引き分けでいいや」

かくしてケーキバイキングの店は救われたのだった。



<2011/12/05 23:03 とんこつ>消しゴム
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