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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A

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バベルの塔
− 裏返されたキング −
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「とは言ったものの……」

「入れないんですよね…」

「先が思いやられるよ」


怒り心頭のカイオーガが毒づくのも無理はない。
社内はバビロンがばら撒いたウィルスの楽園、迂闊に立ち入れば
こちらが感染してしまう。はっきり言って、開かない指を咥えて
いるしか出来ないのだ。

別に物理的に「入れない」という訳ではない。カイオーガの本気の
ハイドロポンプや、ラティオスの流星群が炸裂すれば、目の前の
強化シャッターなどあって無いようなものだ。

ただ社内に蔓延しているウィルスは、バビロンが作ったとはいえ味方
ではない。触れるだけで感染されるなら、社員との戦闘はできる限り
避けねばならない。



「もしかして送ったウィルスは偽物で、バイオリック社の方が勘違い
してるだけだったりして」

「トロイの木馬? あいつがそんな生易しい手を使うとは思えないけど」

「でもどちらにせよ、社内に侵入する手を考えないと…」


ラティオスがボソッと呟いた瞬間、ロンギヌスとカイオーガの頭を
「ひらめき」という名の閃光が突き抜けた。そして顔を合わせてニ
ヤッと薄ら笑うと、揃ってラティオスに嫌な視線を送る。


「な、何です…? いったい…」

「お前….空飛べちゃうんだよなぁ…」

「えへへ…で、僕らは飛べないの♪」

「だ…だから……?」





「「お背中拝借しまぁーす!!!」」


威勢よくラティオスの背中に飛び乗ろうとする二人。
しかしそれを予期していたのか、ラティオスは俊敏な身のこなし
で回避した。そのお陰でカイオーガは地面にぶっ倒れ、ロンギ
ヌスは彼に耳を摘まれて説教される。


「マスターはともかく、兄さん乗せたら僕の背骨なんて三秒と持ちませんよ。諦めてください」

「うー……じゃあボクが小さくなれば…」

「滑り落ちても生命保険は下りませんけど、いいんですか?」

「えッ……そ、それはちょっとイヤかな…ハハ…」


カイオーガは砂利の付いた顔でごまかし笑いをした後、はぁっと重いため息をつく。


「戦場にすら入れない……これもバビロンの作戦なのかなァ……」

「……それにこの正面ゲート、内側からも外側からも開かないように
できてますね。きっと力押しで壊しても、感染者の社員がなだれ出て
きますよ」

「街が汚染されたらそれこそ一巻の終わり….バビロンもそんな大惨事
は望んでないはずだぞ…」

「立ち往生……ですか……」


バスケットボールのゴールが、50mメートル上空にあるような気分だ。
ボールを投げることすら出来ない。敵に叶う叶わないの以前に、そのステ
ージに到達できないのだ。

三人は篭城と化した高層ビルを前に、ただ悔しさに唇を噛みしめる。
都会ならではのビル風が、ビュウッと虚しくロンギヌスの髪を巻き上げた。







================



一方その頃、一気に静けさの増したリーグでは・・







「勇気が無いのか、意地が無いのか…..」


うす暗い蛍光灯の明かりに照らされて、キラリと金にきらめく王冠のようなリング。

鬱病患者のような雰囲気を匂わせて、ギラティナはリーグで最も使われ
ていない洗面所へとやってきた。そっと蛇口を捻って水を出すと、翼の
先をビシャビシャと濡らす。特に汚れてもいないのに。


「….また引き止められなかった…あいつを護るのが仕事じゃないのか…!?」


今度は器用にも翼で小さな受け皿をつくり、そこに水道水をなみなみ
と満たす。その水を一滴もこぼさない神経質さは持っているのに、カ
イオーガの手を引き止める事はできなかった。


「・・・・・・」
















「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「………プハッ」

「何が面白いのだ?」

「いやぁ? 別になにも」


気が付けば洗面所にいたのは自分だけでは無かった。

空っぽの石鹸置き場。その上に取り付けられている、ムダに巨大な鏡。
そこに「彼」は映っていた。アナザーフォルムの自分の真逆、オリジン
フォルムの自分が。


「….あなたを呼んだ覚えはないのだが….」

「まあまあそう言うなって。どうだい? たまにはこんな余興も」

「や…やめてくれ….!」


『裏』のギラティナはピンク色のザラザラした舌を出すと、狂気の微笑
を浮かべながら鏡にそれを押しつけた。

するとどうだろう、もう一方のギラティナも頬を吊り上げ、向こうのギ
ラティナと同じ位置に舌をペトッと置いたではないか。

まさにこれこそ鏡の絶対的法則。どちらかの「自分」がある動きをすれ
ば、もう一方の「自分」も必ずそれに従う。そしてその主導権は、鏡の
向こうのギラティナが握っていた。


「やめてください……だろ?」

「や、やめてくだ…さい…..」


強制された謝罪を終えるとすぐに、ギラティナは解放された。



「な…何か用でもあるのか?」

「ない…こともないこともないこともないこともないこともない」

「どちらなのだ」


お調子者の「自分」に対して、コトンと首を傾げる。



「フフ…あるさ。そうしなきゃいけない義理は無いけど、あまりに君
が不憫でねぇ….ちょっと手助けしにきたのさ」

「僕ともあろう者が情けないじゃないか….闘いが怖いってだけで、イジけ
て引き篭もってるなんて」

「そ、そんな……別にそういう訳…」

「そういう訳さ。だから僕はこれから、君の肉体を乗っ取る。
その身体を使って、『僕』がカイオーガを助けてくる」


淡々と発せられた占拠宣言。
ギラティナは本物の幽霊を目の当たりにしたように、引きつった表情
で後ずさった。裏ギラティナは鏡の向こうで微笑んでいるだけだが、
その姿は次第に揺らぎ始めていた。


「いっそ僕がずっと、『表』としてカイオーガを守ってようか?」

「違う….お前じゃ….ダメだ…」

「そうビクビクするな……痛みは一瞬かもよ?」

「そういう問題では….ないのだ…!!」



この気持ちを理解できるのは、「自分」だけ。
裏の自分だからといって、感情まで同じなはずはない。

そう切に信じながら、ギラティナは洗面所を飛び出し、振り向く
こともなく廊下を駆け抜けていった。





ーーーー逃げるまで怖いのかい? 争いの世界に踏み出すのが。


「そうだ….怖い…….逃げて悪いとでも言うのか!?」


ーーーフフ….全然悪くないさ。ただ・・・・



















ーーーーかっこ悪いだろ? それじゃ。


「ウッ……あ…!!」


ギラティナは意識という名の糸が、自分の中でプツンと切れるの
を感じた。目は虚ろになり、口を半開きにしながら、氷のように
冷えた廊下に倒れ込む。

まるで「ご自由にお取りください」と言わんばかりに、ギラティ
ナの肉体は無防備だった。





「フフ….それじゃ三時間ほど、拝借させてもらおうか」


次に口から飛び出したのは、同じ声なのにいつもより明るめの声だった。
と同時に姿もニョキニョキと本来の姿、即ちオリジンフォルムへと還って
いき、どす黒い血色だった瞳も色鮮やかなライトグリーンへと変貌する。




「さぁ……出発するかな」







<2011/10/22 23:56 ロンギヌス>消しゴム
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