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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A

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バベルの塔
− 三匹の守護者 −
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バビロンは身が捩れるような吐き気と格闘しながら、唇に押し付けられたコラッタをひたすら呑み続けた。臨界点まで膨れあがったお腹を抱え、今にも嘔吐しそうな表情を見せる。





「君などの嘔吐物で床を汚されたくはないのでね。吐くようならすぐにでも死んでもらうぞ?」

「グッ…..くそ……」


流石にもう、限界ラインの上に立っている。あと一匹でも胃に流し込めば、たちまち盛大な逆流が始まるに違いない。

それはつまり、バビロンの死を表していた。餌責めという残酷な罰まで考えついたブースが、自社の床を汚すような竜に容赦するとは考えられない。

ーーーしかしブースが79匹目を口に運ぼうとしたとき、事は起こってしまった。



「グゥ….ウプッ……ガハッ…!!」


彼の胃液にまみれ、体温であたたまったコラッタが、口から数匹飛び出した。ビチャッという生々しい音を立てて、部屋の床に転がり落ちる。

未消化の獲物を吐き出すという屈辱を、バビロンは宿敵の目の前で味わった。




「フフ….終了、か」

「いや…おかげ様で少し楽になった。この際もっと吐いてやろうか?」


答えを聞くまでもなく、床に十匹以上のコラッタを吐き散らす。ブースは顔を一瞬しかめ、そして憐れむような面でバビロンを見下ろした。



「最後の悪あがきか…..フフ、まあそれもこれで終わる…」


エクサからボムメモリ、すなわちバビロンを殺す鍵を受け取ると、ブースは直々に彼の正面に移動した。鋭いキバで噛み付かれるのを恐れてか、少し距離は置いている。


「それでは……さようなら、蛆虫君」

「……………………どうも」


徐々に迫ってくるメモリと、死。
爆発に巻き込まれて死ぬのか、自らが爆弾となってしまうのか。いすれにせよ、死へのタイトロープはもう完成しているのだ。メモリの端子部分が、ついに自分の触れる……






「ファイトぉぉぉぉぉッ!!!」
「いっぱぁぁぁぁぁつ!!!」

「…!?」


メモリが触れるか触れないかのタイミングで、窓から飛び込んでくる喝声。

次の瞬間、窓ガラスは甲高い悲鳴をあげて砕け散り、雨となって降りそそぐ。ギラティナが頭突きで窓を破壊し、さらにその上から、ロンギヌスとカイオーガが襲い掛かってきたのだ。


「うぉりゃッ!!!!」
「いっただき〜♪」

「マ、マス、ター……?」


ロンギヌスはメモリで強化した腕で、バビロンの拘束具をたやすく吹き飛ばす。その隣でカイオーガはボムメモリを、エクサと一緒に舌で絡めとってしまった。そのまま事態が理解できないままの彼を、何の躊躇もなく口に放りこんで呑み下す。


ゴクン……ギュゥ….ぅぷっ…

「えへへ….まずは一人かな?」

「次から次へと侵入者……我が社もナメられたものだな」

「・・・・・」


バビロンは今しがた起こった事が把握できず、棒立ちになってロンギヌス達を見つめていた。フラフラと重いお腹によろけ、苦しみを押さえてうずくまる。


多少の胃液を吐き散らし、唸り声を漏らすバビロン。その無防備な様子を狙った裏カイオーガが、天井まで届く渦潮を作って放った。


「…!!」

「危ない…!!」


ロンギヌスが叫んだが、渦潮の勢いは収まるところを知らない。水流が水流を巻きこみ、一直線にバビロンの肉体を捕らえたかに思われた。開けっぱなしの窓から、凍えるような風が飛び込んでこなければ。




ヒュゴォォォォ….ピキ….パチッ…コチ…..

「ちっ…」

「ラ、ラティオス!?」

「相変わらず、『君いたの?』みたいな言い草ですね」


ラティオスが影の薄い自分に絶望しながら、割れたガラスの破片の海を飛び越えて入ってくる。

彼が外から撃った「冷凍ビーム」は、水の竜巻を完膚なきまで凍りつけ、ただの氷のアートに変えていた。




「…….とんだ邪魔が入った…全員ついて来い!!」


ロンギヌスの耳に、ブースの叫びが飛び込んできた。
逃げられる。とっさにそう悟ったが、この距離ではどうしようも無い。

裏カイオーガ、アルセウス、ゲーチス、そして幹部男も、素早い逃げ足で彼の後に続いた。幹部男がしんがりを務め、ドアを閉じようとした……その時。



「逃げんなッ…!!」

「う、うわぁあああ!!」


カイオーガ同様、肉厚な舌がギラティナの口から這い出る。踝にシュルッと巻き付かれ、幹部男はバランスを失った。無残にも顔を床に打ちつけ、ギラティナの元へと引きずられていく。


「ちょっやッ……た、助けろ…おい!!」

「……………すまぬ…」


彼の前を走っていたアルセウスは、生みの親のSOSを土壇場で拒絶した。その上ドアをぴしゃりと閉め、外から念力で鍵を掛ける。いや….というよりグチャッという奇妙な音とともに密閉された。



「お、お前達……なぜ私をぉ…!!」

「さぁ…君に飽きたんじゃないかな?」


ギラティナの鋭い眼光が不敵にほほえむ。幹部はズルズルと蛇のような舌に足を引っ張られ、いつの間にか彼の目の前に連れてこられていた。ぶにぶにした舌先が、細い踝にきつく張り付いている。



「ねぇ….僕のために逝ってくれるよね…?」

「あ…ぁぁぁッ!!! ヤメテ……」


脚を押さえられ、効果的な抵抗は何ひとつ出来ない。幹部男は舌の力だけで、高い位置にある彼の口へと引っ張られていた。視界が反転する中で、ラーメンのように啜り上げられる感覚に酔う。


「なぁ……なんなんだよお前は…!!!!」

「ギラティナ……それ以外の名前は持ってないよ」

「やめろ……は、離してくれぇ…!!」


足先から膝にかけてが、妙に温もりに覆われた。舌肉の背筋が寒くなるような熱が、下半身のあちこちを這い回っている。足裏をコチョコチョと蹂躙され、着実に呑み込まれていく自分の体。



「あああ……ぁぁぁぁ……」

「いいねぇ…君の断末魔。ますます食べたくなっちゃうよ…」


しかし今さら、絶叫を起こすような気力はなかった。味方や社長に捨てられた気持が、負担となってのし掛かっていたのだ。そうして躊躇している間に、すっかり胸まで彼の口の中………布団から顔を出したような気分だ。


アムッ……にゅりゅ….

「フフ….もういいかい?」

「ぅだ……い、いやだ……いやだッ…!!」


もはや宙吊り状態で食われているので、次第に頭に血が下りてくる。目が合い、命乞いの視線を送るが、カッと見開いている瞳孔が、それを受け付けることはなかった。




…ゴクン……………♪

「……ぎゃゃ……」


軽快にすら聴こえる嚥下の響き。ギラティナはバビロンが大苦戦した相手(正確には違うが)を、あっさり胃袋送りにしてまった。彼の胸に走っている赤と黒のラインが、交互に膨らみながら腹へと向かう。













「…ぅぶッ……何だこれ……」


突然ギラティナが顔をしかめる。胃袋からこみ上げてくる「何か」に、吐き気を催しているようだった。唾液の糸がタラ〜ッと床に落ちた後、彼の口から異物が吐き出された。


ガチャン….コロコロ………

「な、なんだ……こりゃ?」


彼の胃袋から出てきたという事は、呑み込んだ幹部男の持ち物らしい。胃液がねっとりと絡みついたそれらは、メモリと、星型のアイテムだった。


「バビロン……これ、何だか分かる?」


破壊された窓から射しこむ太陽を受けて、胃液まみれのそれらはギラギラと光っていた。高級感すら感じられるため、ロンギヌスはアクセサリーではないかと推察した。



「フフ….それは『星』だ。海外企業と共同開発したらしい。
病原菌からコンピュータウィルスまで…..ウィルスと名の付くもの、全てを跳ね返す鉄壁のガードだ」


「…ワクチン?」


「万能のな。これさえ付けていれば、私のウィルスに侵される事もない。貰っておいた方が得策じゃないか?」


「あ……まあね…」


他人の物を頂戴するのが気が引けたが、この状況でそんなことを気にしていては生き残れる気がしない。ロンギヌスは星をかがんで拾い上げると、カイオーガの胸にペタッと貼り付けた。当然、胃液はきちんと服で拭きとる。


「えっ……いいの? マスター」

「いいも悪いも……感染したら狂っちまうんだろ? どう考えてもお前が暴れ出すのが一番コワイ」

「えへへ……それもそっか」

「ただ問題はこっちだよな……」



ーーーーカメラメモリ。ロンギヌスもこれについては博識だった。
対象者の記憶に秘められている生物を、まるで写真を現像するかのように召喚できるのだ。例え、その生物が既にこの世に居なくとも・・・



「まさか……死者を蘇らせることが出来るんですか?」

「まあそうなんだけど……その効果は一時的だった気がする。確か……一週間……?」

「つまりあのゲーチスやアルセウス達は……一週間で消えてしまう、と」

「そういう事になるな」


カメラメモリがこちらにある以上、一週間もすれば彼らは消え失せ、敵はブースだけとなる。しかし一週間もこの部屋で暮らすなど、非現実的すぎる。

そもそもブースが、そんな長時間ここに居させてくれる筈がない。闘いは、避けられないということだ。








「…じゃあさ、僕らもこれ使っちゃわない?」

「「……は?」」

「戦力の増強だよ。味方はいっぱいいた方がいいでしょ?」


カイオーガの素朴な提案に、思わずバビロンも吹き出してしまう。不機嫌そうに頬を膨らませるカイオーガだったが、目は笑っていた。


「もう….いちいち笑わないでよ!」

「いや、済まない……いい考えだが、いったい誰を呼び戻す気だ?」

「う、うん……出来ることなら….その….」


カイオーガは目を伏せ、哀しみの込もった笑顔でまごつく。
ロンギヌスにはカイオーガが何を言いたいか理解できた。彼はまた「逢いたい」と願っているのだ。彼とギラティナの記憶の中で永遠の眠りについている、二匹のポケモンに。



「カイオーガ……使えよ、それ」

「…いいの?」

「どっちみち、戦力が足りてないのは明らかなんだ。ここに入ったら最後、勝って出るしかないだろ」

「……うん…」


ロンギヌスに背中を押され、カイオーガは沈黙したままメモリを拾った。震えるヒレでスイッチを押すとともに、ゴクリと生唾を飲み込む。




キチッ…『CAMERA(カメラ)!!』





目も眩むような閃光と突風だった。ロンギヌスの長い髪が巻き上がり、ラティオスも空中で多少よろめいた。しかしカイオーガは棒のように立ち尽くし、目線はメモリから現れた二つの光球に注がれている。



「…あれが死霊だね……彼らの….」


部屋の中央に浮かんでいる光球を前に、ギラティナは顔を綻ばせた。それらは徐々に高度を落とし、やがて床に触れるか触れないかの位置で破裂した。バンバンという連続した爆発音。それがカイオーガの耳に届いたとき、彼は下唇を噛み締めて泣いていた。





「・・おかえり・・・!!」


壮大な銀の翼と、流水のように滑らかな首筋。
黒光りの肉体を駆け抜けて光る、青白い電流。
紛れもない、ルギアとゼクロムの姿がそこにあった。


「……久し振りだな。カイオーガ。」

「ぜんっぜん変わってないなお前ww 相変わらずチビだしよw」

「あ……あっ……!」




ロンギヌスも知らない。ギラティナも知らない。
しかし冗談を飛ばすルギア達と同じくらい、『彼』の顔は不器用な笑顔に包まれていた。

その影はルギアやゼクロムより、遥かに小柄で頼りない。










「……よぉ!」



馴れ馴れしく、カッターナイフのような刃が付いた腕を振ってくる。
十年前と同じ姿で、彼は微笑みかけていた。








<2011/11/04 07:09 ロンギヌス>消しゴム
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