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友達以上、それ未満。 − 旧・小説投稿所A

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友達以上、それ未満。
− 因縁のともだち −
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そして、ギラティナ決戦の日。
カイオーガは既にリーグの外で、彼の身支度ができるのを待っていた。


「遅いなぁ〜….もう二十分経つのに」

「待たせたな….そろそろ出発しようか」

「えっ…ギ、ギラティナ!? どうしたのその格好!!!」


カイオーガが驚愕するのも無理はない。
あのギラティナ独特の、翼に刻まれた目の模様が消えていた
のだ。すっかり、まるで何事もなかったかのように・・


「マスターが専用のメモリを貸してくれて….五時間だけ
消せたんだ。あれで行くのは…ちょっと問題ありだからな…」

「え〜、カッコよかったのに?」

「ば…馬鹿をいうな….行くぞ…」

「はぁーい♪」


「通常」の姿を取り戻したギラティナ。アナザーフォルムの
背中にはしゃぎ回るカイオーガを乗せ、二日連続の青空へと舞い
あがった。近くの草木が、さわさわと突風に揺れる。




ーーーーー離陸してから十分。
歩いていくなら最低でも一時間はかかる距離だが、彼の飛行
能力を持ってすれば散歩のようなものだった。ただデメリット
として、空に慣れないカイオーガの目を回させてしまったのだが。


「うぅ〜ん…お星様ってキレイ…」

「カ、カイオーガ目を覚ませ!! 少しとばし過ぎたか…」


結局、カイオーガの復活にもう十分。リーグを飛び立ってから
二十分、彼らはようやく世界有数のテーマパーク、『モンスター
アリーナ』へと到着した。
羅生門のような入口の両脇には、気楽そうな係員が立っている。パー
クに入場していくポケモン達はみな、彼らにチケットを渡しながら
入っていく。


「あれー? ここ無料だったような…」

「ポケモンはタダだ。
だが竜などは料金を支払ってからじゃないと入れない」

「えっ…!? ポケモン以外もOKなの!?」

「ポケモンアリーナじゃなく、モンスターアリーナだからな。
人間以外なら誰でも入れるさ」


ギラティナは空間の裂け目から、招待券をサッと引き抜い
た。カイオーガがそのプチマジックにパチパチと拍手して
くれたので、思わず声が裏返ってしまう。


「と、とにかく私達も入場しよう….五時間経ってしまう…」

「えへへ….終了時刻まで一緒にいよっ?」

「・・・・/////」



==================



「うわぁ〜!! ひろーーーい!!!」

「と、東京ドーム17個分らしいからな。アトラクションも100を超えてるらしい…」

「へぇ〜っ….どこから行こうか」


自分のすぐ隣でマップを眺めるカイオーガ。期待にあふれたその
横顔に、ますます好感がわき出てくるのを感じた。この顔に
「退屈」の色を浮かばせないよう、ギラティナは闘志を燃やしていた。


「じゃあここ行こう? 『セントラルパーク・BATTLE of アルカノイド』」

「よし行こう! すぐ行こう!」

「な、何か雰囲気変わったね….」


カイオーガの手をむんずと掴み、新幹線のようなスピードで場内
を駆けぬける。
そして50mほど先に『BATTLE of アルカノイド』の看板を
見つけた時、近くにいたキルリアが甲高い悲鳴を上げた。


「キャァァァアアアアアアッ!!!!!! ど、泥棒!!!!!」

「ど、泥棒だと?」

「あ〜…もしかしてあの人かな….って人!? 人間がなんでいるの!?」


カイオーガが指差した方向にいたのは、夏にも関わらず、灰色
のジャンパーを着た小柄な男だった。ギラティナは驚異の瞬発力
で飛びあがり、五秒と経たずにひったくり犯の元へ追いつく。
そして鋭い牙で、容赦なく犯人の脚に食らい付いた。


「うぎゃぁああああっ!!! く、苦しい…っ…!!!」

「(く、苦しい?)」


男の叫び声を聞いた途端、頭に「?」が浮かんだ。確かに牙は
ズプリと食い込んでいるが、「痛い」ではなく「苦しい」と叫ぶ
だろうか?

ギラティナが恐る恐る口を離してみると、男の上半身には
エメラルド色の竜が大蛇のように巻きついていた。
天空ポケモン、レックウザだ。


「く…くるひいっ….は、離じで…!!」

「女性のバッグを盗るだなんて…失礼だと思わない?」

「お、思ぶ…思うがらた、助けでっ…!!!」


男はたまらず泣き叫び、ギラティナに貫かれた脚をバタバタと
振った。むちむちした身体に全身の血が止まるほど締め上げられ、
命乞いと謝罪の言葉を並べる。その甲斐あってか、レックウザは
一分程度で男を解放した。


「ぐぅ…がはっ、がはっ!!」

「理解できた? 女はナメると怖いのよ?」

「お、お前は確か….」


ギラティナも会った事がある。八年間までカイオーガの彼女
であり、それ以降は行方をくらましていたレックウザだ。

「お前」という言葉に反応したのか、
レックウザはじろっとギラティナの方を睨んだ。


「あなた…久しぶりね、ギラティナじゃない。
女性に対するマナーは相変わらずだけど」

「な、なに….」


皮肉った笑顔で冷やかされる。ギラティナは感情を押さえて
冷静になろうとするが、カイオーガが後ろから走ってきたので
そうもいかない。


「いったいどうしたの……ってああああああっ!!!!!」

「ふふ…八年ぶりねカイオーガ」


舌が見えるほどあんぐり口を開けて驚くカイオーガ。昔と何ら
変わらない元・彼女を前に、流石に彼も能天気にはいられないようだ。


「前は毎日ニッコリ顔を見せてくれたわね….
今のびっくり顔も可愛いけど♪」

「・・・ぅぅ・・/////」


一度は別れても、やっぱり気が無い訳ではないのか。
ギラティナは槍で心臓を射抜かれたような感覚に陥った。

しかしその時、カイオーガが地面に倒れていたはずの男がいない
事に気づいた。三匹が慌てて辺りを見回すと、男はさりげなく
バッグを取り戻し、人混みの中に紛れ込もうとしていた。


「あら逃げる気?」
「させるかっ…!!」

レックウザとギラティナが同時にスタートし、男を獲物と見なして
追いかけた。もう新幹線を超えて、二匹ともジェット機に変身しそうだ。


ガブッ!! ぎゅるるっ…

「ひやぁあああっ!!! ち、畜生めぇ…っ!!!」

「やっぱり貴方は….女の敵ね」

「身を持って分からせてやる….」


ギラティナが肩に噛み付き、レックウザは男の首に尾を巻きつけ
た。男はすぐさま命乞いモードに入るが、残念ながら二回目は無い。

ギラティナもレックウザも、自分が喰らってやろうと牙を光ら
せた。だが二匹が男を捕まえていては、どちらも食べる体勢に
なれない。二匹の鋭い視線が、間の空気を震わせながら衝突した。


「離せレックウザ….この男は私が処刑する…」

「ふふ…レディーファーストって言葉、知らないの?」


お互いに一歩も譲らず、男を自分の口に持っていこうと引っ
りあう。男の体が千切れそうになってもお構いなし、激しい
睨み合いが続いた。

ーーーーーーそして・・・・



「そ〜れ、こちょこちょこちょ♪」


カイオーガが舌先で二匹の敏感な部分を、慣れた手つきで
くすぐった。緊張感があっという間に壊れ、男は笑い転げる
二匹の拘束から助けだされた。

だが当然・・・あのカイオーガが、
何の狙いもなく人助けなど地球が割れてもありえない。
男の首根っこをがっちり掴むと、3mほど伸ば
した舌を戻してこう言った。



「それじゃあ間を取ってボクが食べちゃうね?
いっただっきまぁーす…♪」

「お、おい…待てっ…!!」


いくら二回も罪を犯したからとはいえ、まさか自分が餌になる
など完全に予想外の事態らしい。だがカイオーガにそんな御託を
並べても、ありの行列に砂糖を置くようなもの。全く意味はない。


「さぁ〜て….死がお待ちかねの胃袋と、お仕置きの舌袋。どっちか選んでね♪」


まるでプリクラのフレーム選びのような口調だ。男は案の定
答えられるはずもなく、カイオーガにも命乞いを繰り返すだけ
だった。自分の質問を無視され、カイオーガのニコニコ顔にも
怒マークが浮かび上がる。


「質問に答えてっていったのに….ボクは蚊帳の外なんだ。」

「ひっ…た、食べないで…すぐここから出て行くから…!!」

「……ふぅーん。すっごぉ〜くいい度胸だねえっ!?」

「あひゃぁあっ!! や、やめて…」


カイオーガがわざと大声で脅すと、男は体操座りになるまで
身を縮めた。よっぽど誰かの腹に収まるのが恐ろしいのだろう。



「そっかぁ……そんなに嫌なんだ…」

「お願いだ….だ、誰か助けて…」

「…僕ね、君のこと大っ嫌い。」





<2011/07/31 22:20 ロンギヌス>消しゴム
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