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交錯する証 − 旧・小説投稿所A

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交錯する証

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祓われる筈の妖である妖虎が何故、敵にも等しい巫女が行使する破魔術に精通している。
上位の巫女ならば悟る事もできたが
凛にはそのような”裏”の都合など理解できる筈も無い。
大妖である妖虎になると討伐対象に抜擢されるのは珍しい事ではない。
その度に巫女らと牙を交え、踏み躙ってきた妖虎に破魔術を分析する機会は山ほどあった。
妖の中には頭の切れる者もおり、弱点属性とする破魔術も行使する者も珍しくなかった。
しかしながら、妖虎ほど破魔術の根幹から詳細な知識を持つ妖は少数かつ類稀な妖であった。

「私が贖罪しきったとき、君は孤独になってしまうだろう? それに君は巫女
だ。術を高めておくほうが何かと生きるのに役立つだろう?」

凛が妖虎に保護されているのは、妖虎が凛の居場所を奪ったからであり
その償いとして凛の面倒を看ているのである。
当然ながらその贖罪が終えれば凛に帰る場所は無い。
……孤独になるのだ。
その時でも”巫女”という肩書きは見習いでも拭われない。
それに気付いた何者かが縋り付いてくる可能性もゼロとは言えない。
それを逆手に新たな居場所を得る、という思考を妖虎は抱いていた。
新たな住居の可能性を確実なものにする為、術を洗練させる事がベストだと
凛の事を思っての事だった。

「何、そんな難しい表情をするな。君でも分かる様に優しく教えてやるからな」
「……虎さん」

頭部を愛撫したまま、妖虎は笑みを絶やさず優しく言の葉を紡いでいた。
凛も嬉しさを絶やす事無くその片方の前肢に抱き寄った。

「だから、ちゃんと訊いてくれるな?」
「……うん」

凛が確かに頷いた。
物心ついた頃には両親の記憶は全くなかった。
女一色の巫女達では決して感じる事のできない
母親とは違う、父親の様な優しさを感じながら。



<2012/05/15 22:05 セイル>消しゴム
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