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【保】動かないからだ − 旧・小説投稿所A

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【保】動かないからだ

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アーボの口が僕の顔をゆっくりと包み込んでいく。
まっくらで息苦しい口の中はぬめぬめと生温かい感触がした。
マヒのせいで力の入らない僕の体が、ズルズルと引きずられるように口の中に吸い寄せられていくのを感じる。


……お願いだ。誰でもいいからこいつを止めて……


けれど僕の切なる願いを叶えてくれる人は誰もいない。
そうしている内に僕の頭はアーボの生暖かい大きな口に覆われてしまった。

乱暴なアーボの食事の御陰で、僕の首はズキズキと痛む。
息苦しさは一層強くなって、アーボの舌に顔を覆われた僕は少しでも空気を吸うために、
自分の舌でコイツの舌を押しのける努力をする。
そうするとどうしても、ドロッとした涎が僕の口の中へと入り込んできた。

その生臭さに僕は噎び……時には喘ぐ……

僕の口の中で広がるネットリとした生臭い味は味わったモノにしか分からない。
このアーボは口の中で苦しむ僕を、どんな気持ちで食べているのだろう。


もし……僕の味が気に入らなければアーボは吐き出してくれるかも。


けれどもアーボは実に美味しそうに僕の頭を啜り、呑み込むことを止めない。
絶望的なことだが、コイツはどうやら僕の味を気に入ったようだ。
心なしか僕を呑み込もうとする口の動きが速くなった気がする。


”ズルル……ッ…ズルッ”


何度も咥え直されて、アーボは口の中に僕の身体を肩口まで引きずり込んでしまった。
頬の内壁にギュッと圧迫されて、凄く苦しい。
上手く息が出来ない……

死を実感し始めた本能が、興奮で僕の身体の芯を熱く熱していく。

すると上手い具合に身体を冷ますようにアーボの涎が僕の肌を伝った。
口から溢れた涎が、まだ呑み込まれていない僕の上半身をじわじわと浸食する。
しかし、ドロッとしたアーボの涎の不快さは熱を冷ますどころか、逆により危機感を煽られる始末だ……
上昇を続ける自分の体温に僕は、より強い脱力感を覚え始めた。

グッタリと脱力したままで、熱い吐息をアーボの口の中で吐き出し続ける。

力の入らない足もそろそろ地面から離れそうだ。
そうなったら、アーボはツルツルした僕の体をつるんっとひと呑みにしてしまうだろう。


……結局、僕が助かろうと想ったら自分でどうにかするしかないのだ。


マヒした体でどこまでやれるか分からないけど……
単なる悪あがきに終わってしまうかも知れないけど……死にたくないから、
精一杯暴れて、藻掻いてやるんだ!

そう思った僕はアーボに抗うため全身に力を入れた。

すると手が足が動いた、尻尾も……マヒが治ったのだ。
さすがのアーボも僕を食べるのに夢中になりすぎて、蛇睨みが解けたに違いない。


見えた希望、まだ助かるかも知れない。


軟らかな肉が凄く気持ち悪いけど、構うものか!
僕は呑み込まれた上半身に力を入れ、アーボの体液で滑る肉壁を前足で必死に押しのける。
アーボの体内はとても柔軟で幾ら押しても広がってしまう。
それでも少しは呼吸が楽になった。

ようやく十分に空気を吸い込むと、噎せ返りそうなアーボの息を吸い込んでしまう。

僕の他にも数多くの生き物を呑み込んできたアーボの体内の匂い。
最初からずっと僕が感じた獣の匂いとは……
今までにコイツの胃袋に溶かされた生き物たちの死が入り交じったものなのだ。


このままじゃ、僕もこの匂いの仲間入り……それは嫌だ!


だから、僕はより激しくアーボの口内で暴れる。
しかし……


”ドクンッ”


ハッキリとそれを感じるほど強く、僕の心臓が波打った。
すると釣り糸が切れた人形のように身体から力が抜けていってしまう。
それに身体の内側が凄く熱い……
マヒしたときとはまったく違う身体の異変に、僕は再び身体の自由を奪われてしまった。

身体の内側が焼け付くような痛みに命を削られていく感覚。
今まで強いマヒに冒されていたせいで忘れていた。

アーボは毒タイプのポケモンで、鋭い牙には毒が……

ここに来て僕が大暴れしたせいで、毒が身体に一気に回り始めたのだろう。
丸呑みにされながら何度も身体に食い込んだ牙から、僕の全身には大量の毒が注がれていたんだ。
どうして気が付かなかったんだろう……
マヒが解けたんじゃない、アーボが単に蛇睨みを解いたんだ。
そうする必要がなくなったから……

結局そう言うことなのだろう。
最初から最後まで……僕はアーボの手の平の上で動かされていただけだった。


<2011/06/10 21:43 F>消しゴム
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