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表裏一体 光の頂 − 旧・小説投稿所A
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表裏一体 光の頂
− 邂逅 −
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「よい・・しょ・・」
神窟の頂き。
日の出を控えた空はまだ暗い。
「花梨」
私は恐怖するその存在の名を口にしながらそれに身を翻す。
決して開く事の無い片眸のままもう片方の黒眼が私を優しく見つめ返す。
汚れなき純白の天竜の片翼を携えて。
「私はお前が恐い。お前は私が・・・恐くないか?」
花梨は人間ではなくなった。
神獣王である天竜様の半身を継ぐ神獣なのだ。
半身なために隻眼になってしまっている。
「ううん。恐くない。楓様は私の親だから」
今思えば花梨はここ最近成長し、少し大人びて見える。
すっかり長くなった髪を自由に垂らしている。
もし私が人間ならばきっと頬を紅くしている所だろう。
が、その存在は私にとって恐怖。
「私を怨んでないのか?そんな姿にしてしまった私が」
声を、体を震わせてでも問いたかった。
天竜様の通り、私は現実から逃げるのを止めた。
花梨が私をどう思っているのか、どうあって欲しいのか。
それを知る必要があった。
もし・・・もし、花梨がそうであるならば私は躊躇い無くこの身を宙に投げ出す覚悟はある。
「私はあの時・・・親はいなかった」
初めて私が花梨と出会った時、花梨はそのような事は言ってなかった筈だ。
私への低信仰の事実が分かった時に親の名は出ていた筈だ。
親がいない。そんな事がある筈が無い。
「違う。お前には親がいただろう?」
「ううん。あれは本当の親じゃなかった・・・私は拾われたの」
「拾われた?あの村で生まれではなかったのか?」
私は心配そうにそう尋ねると花梨は静かに首を縦に振る。
「正直・・・あんな親がいなくなってよかった。あんな親に育てられるなら死んだ方がマシだと思った。あの時の家出は耐えられなかったから」
「そうか・・・」
私は過去を思い返す。
初めて花梨が私に訪れた時その体は虐待を受けていたボロボロの体だったのだ。
「最初は厳しかったけれど、拾い子だった私に初めて心にまで接してくれたのが楓様でした・・・」
「私はそんなつもりはなかったのだが・・・成り行きでこんな事になってしまったがな・・・花梨、お前をそんな姿にしてしまった・・・」
「ですが・・・私は楓様を怨んではいません」
花梨のその目は潤んでいる。
彼女にも私に似た感情を溜め込んでいたのだ。
私と同じ。
私が花梨に捨てられる。
花梨が私に捨てられる。
互いに互いが捨てられるのを恐れているのだ。
「楓様がいなければ私は世界を知らなかった・・・何も知らないままこの命を過ごしてした・・・私は楓様に何も出来ません。だから・・・だからっ」
堪え切れなくなったらしい花梨は大粒の涙を零しつつ私の胸に寄り添う。
「花梨・・・」
何時の日から忘れかけてた温もり。
そのぬくもりはすぐそばにある。
「私を捨てないで・・・お願いっ」
「花梨・・・私こそ神獣でありながらお前に何もしてやれないのだぞ?」
今回の一件さえ、私が花梨の風邪を治してやればこんな大事にはならなかった。
ただの風邪で人間であった花梨は天竜様の半身を継ぐ事になってしまったのだ。
これではもう人間の道は歩けない。
私らと同じ神獣の道を歩かざるを得ない。
「風邪で苦しむお前を指を銜えて見ている事しか出来なかったのだぞ?」
「それでも構いません・・・私には楓様しか・・・」
毛を掴む花梨の手に力が籠る。
捨てられる事を恐れて体が小刻みに震えている。
「花梨・・・私はここにいるからな」
私はなぜ花梨に怯えていたのだろうか?
花梨はこんなにもか弱くて、他者の支えがないと自分の足で立てもしない。
ところがそれは私も似たようなものだ。
花梨がいないと不安になる。
ただの獸(けだもの)である私を抑えられなくなりそうで恐怖を覚える。
「楓様・・・」
私は花梨を両前足で抱きしめ、まだ足りなかったために尾も重ねた。
「花梨。私を許してくれ」
「はい・・・」
「そして、誓ってくれ」
できるだけ優しい表情を作り花梨を見つめる。
「もう、離れないと。私と共に生きてくれると」
花梨も私を優しげな顔で見上げると口を静かに開いた。
「はい。楓様」

今日の空に日が昇る。
薄暗い頂が太陽の光に照らされる。
楓はここで、光の頂で契りを交わす。
堕神と神獣。表裏一体の存在。
影の深淵。光の頂。
柔らかな朝日が彼らを優しく照らしていた―――





「おい。この話ってここで終わりか?」
「そうみたいだぜ?それ以上は発掘されていないみたいだし」
パタリと古文史を閉じる。
「そろそろ飯だぞ。いくか?」
「そうだな」
と二人はそこを後にする。
静寂に包まれる部屋と二つの古文史。
この物語はここで途切れているが、
ひょっとしたらどこかに続きがあるのかもしれない。


「この辺りでいいか?」
「そうですね・・・」
コトっ・・・
再び一冊の本が床に置かれる・・・


<2011/07/14 09:31 セイル>消しゴム
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