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草の根かきわけてU − 旧・小説投稿所A

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草の根かきわけてU
− 目覚めた本能 −
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 「ではタイミングを見計らって僕が遠吠えをするので、それが合図です」

 ボスが草むらから飛び出していった。



 ついに引き返せないとこまで来ちまったなおい。今では獲物を狩るのにもそれほど嫌悪感を感じなくなっていたけど、鹿となれば話は別だ。

 しかも、よりによって俺が前暮らしていた山なんだなこれが。何年も共に過ごした仲間を狩るなんて、俺にはできねえぞ?

 だけど、この機を逃せば二度とチャンスが巡ってこないのは明白だ。冬を一匹で越すのは不可能に近い。俺、進退窮まったな。



 「ん、どうした? 怖気づいたか?」

 「るせえよ・・・・・」



 からかうオオカミをあしらう。たく、こっちの気も知らねえで。



 「わおーーーーーーーーーーーーん!」



 その時、遠くから遠吠えが聞こえてきた。合図だ! 周りのオオカミが飛び出したのにつられて、俺も飛び出す。この体になったから分かる、覚えのある匂いもいくつか混じっている。

 「ちっ、頼むから俺達の方へは来ないでくれよ」

 心からそう願う。

 そんな俺の意志に反して、一斉に鹿のみんなはこちらへ逃げてくる。当然と言えば当然なんだけどよ。そういう算段で計画された狩りなんだから。

 オオカミ側から見ると、いかに前の俺が無防備だったのかよく分かる。むしろ今まで大した被害が出ていなかったのが不思議なくらいだ。そもそもこれまで肉食獣は居なかったってのもあるけどよ。



 「ちょっと君! よそ見するんじゃない! 危ないから!」

 「へ?」



 よそ見をしていた俺は次の瞬間、ポフッという音と共に俺は何か柔らかい物にぶつかって、顔をうずめるはめになった。



 「うわっ、何だ?」

 毛を逆立たせて跳びくと、ひるんだ鹿が目の前にいた。どうやら、突っ込んできた奴と正面衝突したみてえだな。



 それにしてもだ。今ぶつかった瞬間に、やけにいい匂いがしやがったな。それにあの柔らかい感覚、牙を喰い込ませたらどんなに爽快だろうな。おっと、俺は何考えてんだ。

 けど・・・・・・・・・・

 今あいつは俺とぶつかった衝撃で目を回している。今襲えば簡単に・・・

 本能が俺をつき動かす。理性がすっとどこかへ遠のいていく。喰いたい、胃袋を満たしたい。あの美味い肉の味を楽しみたい。

 俺は、無意識のうちに脚を踏み出していた。





 全く、あの子たちは大丈夫なんでしょうね? せっかく私が全力で威嚇してやったんだから、ちゃんと獲物を回収してよね。餌が無いのは嫌よ?

 私は太陽を背にして走る。作戦が上手くいっていれば、私たちが追い込んだたくさんの獲物が捕まっているはずだけど・・・・・心配ね。信用できないわ。

 だから、こうして援軍に行くんだけどね。うん? あれは



 「グガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」



 ルンバ! 凄い、たった一匹で次々と獲物を倒していくわ! 私でも鹿なんて大きな獲物、二匹ペアで狩らないと難しいのに。

 圧倒的な力、それを感じるわね。つい近づくのをためらっちゃうくらい。

 「ルンバ、やるじゃない。頑張れー」

 今日はごちそうね。楽しみだわ。





 「という訳で、ルンバ君は仲間って事でいいですよね?」

 『さんせーい』

 どうやら無事に俺は群れの仲間入りができたみてえだ。なんだかなあ。

 「どうしたのよ? 元気ないじゃない。今日はかっこよかったわよ?」

 ルウが尻尾を振ってこっちへやってきた。



 さっきのは何だったんだ。突然、俺という存在が消えたようにすら思えてきやがる。一言で言えば血が騒いだんだろう。正気に戻った時、俺の周りはそれはそれは大惨事だった。

 さっき見たけど、何匹か見覚えのある奴らもいた。親しい間柄って訳じゃねえが、知り合いとは言える連中だった。俺はもうかつての仲間も餌としか見る事ができなくなっちまったのか?



 (それでいいじゃねえか。今日はごちそうだ。楽しもうぜ?)



 「誰だ!?」

 突然語りかけてきた声に俺は怯える。

 「な、何よ突然大声だして。びっくりするじゃない」

 「うん、ああ、ルウか。悪い」

 空耳・・・なのか。

 「もういいわよ」

 あーあ、怒らせちまったかな。後が面倒だぜこりゃ。







 本当は分かってたさ、さっきの声の正体は。俺の事は、俺が一番良く知っているんだからよ。





次回はお待ちかねの捕食回です。

ボリューム倍増でお届けさせて頂きます。
<2013/02/19 01:19 ぶちマーブル模様>
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