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草の根かきわけてU − 旧・小説投稿所A

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草の根かきわけてU
− 月夜 −
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 俺はまた、目を閉じて感じる。与えられた命を。

 「ふう、喰った喰った」

 「狩りもずいぶんと板についてきたじゃないの」

 一匹の雌オオカミ、ルウが感心したように言う。



 俺がオオカミに姿を変えた日、鹿としての俺が死んだ日、あれからどれだけ経ったんだか。

 最近になってようやくこの暮らしにも慣れてきた。オオカミってのは警戒心が強いらしく、残念だがまだルウ以外のオオカミからは仲間認められてねえ。

 そういや無意識に仲間っていってやがる。俺も少しは本物のオオカミに近づけたって事かな。



 「なあ、ルウ」

 俺はルウに声を掛ける。今ではたった一匹の俺の仲間であり、ほんの少し昔の俺を殺した元凶であるオオカミに。

 「何よ?」

 相変わらずこいつはそっけないな。まあ、いつもの事だけどよ。もうちょっと何とかならねえのか? っと話が逸れたな。前から一つ気になっていた事があるんだ。

 「ルウはなんで俺にここまで付き合ってくれるんだ」

 「悪い?」

 「いや、そんな事はねえけどよ」

 俺は答えに困ってしまう。

 「ほら、他のみんなはなんだか俺の事良く思ってくれいないだろ?」

 一応俺がここにいる事。それだけは認めてくれたが、少しでも群れの縄張りって奴に入れば途端に追い返される。前に知らずに入ってひでえ目に会ったもんだ。

 だけどそれがオオカミとしての、いや野生動物としてのごく自然な反応だ。外敵から自分を、群れを、大切な仲間を守るための術ってもんだ。

 「さあ、どうだか?」

 いや、どうだかって。俺を気にしてオブラートに包んでくれるつもりなのか? ってんな訳ないよな。

 「私は私、他は他よ。ただ単にあなたが面白いからついてきているだけなの。誰にも指図される覚えはないわ」

 「そうでした。すんません」

 ルウが少しムキになって言っただけに、俺はあわてて誤魔化した。



 それにしても、本当にいいのか? オオカミってのは序列の厳しい生き物だって風の噂で聞いたんだけどな。意外とルウは上位のオオカミなのか?

 まっ、俺にとっちゃ関係の無い話だけどよ。



 「そういや、おめえは餌喰わねえのか?」

 そういや出会ってから、一度もルウが食事しているのを見たことねえな。

 「私はさっき食べてきたからいいの。それとも、レディーの食事シーンでも見たい?」

 「いらん」

 やっぱり、俺は、こいつが、苦手だ!





 「ふう・・・」

 ルウと別れた後、俺は巣穴からゆっくりと半分ほど欠けた月を見上げていた。俺は月が嫌いだ。月って野郎は、どうあがいても感傷的な気分にさせやがる。

 「俺ってば、何者なんだろうな」

 この姿にもずいぶんと馴染んだ。それは良い事なんだけどよ、馴染むのが早すぎるんだ。まだあれからそんなに経っていないってのに、時々ずっと前からオオカミだったかのような錯覚に陥ったりしやがる。

 この姿で生きていくのはもう決めたことだ。それについてはぜってーに後悔はしてねえ。でもよぅ、怖いんだ。鹿だった時の自分が、俺自身の積み上げてきた歴史が消えていくようで。

 「おっといけねえや。んな事考えても仕方ねえってんだ。そんな事より、明日のために寝よう。明日もまた1日、生き抜くためにな」

 俺は熱い思いをぎゅっと押しこんで、月明かりの静けさに包まれながら瞼を閉じた。少しばかり空気が寒い。そろそろ冬も近づいてきたみてえだな。





 凍てつく白い季節。動物にとっては死の季節。その時は、確実に近付いている。





<2013/02/16 12:29 ぶちマーブル模様>消しゴム
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