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忌々しき存在 − 旧・小説投稿所A
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忌々しき存在

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「調子はどうだ?」

戸惑っている様子の緑竜にそう話しかけた。
それにしても、我とよく似て立派な竜である。がっしりと構えた影のある緑の巨躯、睨みの利いた碧色の眼、妖しく白色に輝いている鋭い牙や爪、どのパーツを見ても、元は人間だったことなど信じられないであろう。真新しいそれらのパーツは、我の仲間として全く恥ずかしくない姿であった。
あの方法を使うと、大体の人は竜の出来損ないのようになるらしい。立派な竜になれるのは、ほんの一握りだ。他の動物は出来損ないになることすら許されない。こいつは幸せ者だな、と我は思った。
今回たまたま昔の我と似ていただけでこんな事をしたのだが、それで上手く行った。緑竜の前で冷静に振る舞っているように見えていても、我も心の中では幾分か驚いているのだ。

「…何をした、俺に。」

まだ現実が受け入れられていないようだ。無理もない。我もこの姿になったとき、随分混乱していたのを微かに覚えている。

「そのままだ。」

我は淡々と答えた。

「何で……何で、竜にした…!!」

「理由は無い。」

「無い?なら戻してくれよ!俺は元の生活に戻りたいんだ!!」

「ククッ それは不可能だ。」

「何で?何でなんだよ!」

「我は竜化させる方法は知っておるが、それを元に戻す手立ては全く知らぬ。つまりお前は“一生”その姿のままだ。」

「え…」

矢継ぎ早に質問していた緑竜の動きが、一瞬にして固まった。まさか人間に戻る方法があるとでも思っていたのか。
我はそんな様子を鼻で笑うと、ドスッドスッと足音を立てて緑竜に近づいていく。

「近づくな!」

緑竜は我を突き飛ばした。
勢いに身を任せると、我はドシンと大きく音を立てて尻餅をついた。わざとだ。

「だが、お前は大きな力を手に入れたのだぞ。我をたやすく押し倒せるだけでなく、…この島を消せる程のな。」

膝を立てて、立ち上がりながらそう低い声で言いながら、口角を上げてニヤリとした。

「なっ…」

緑竜は動揺しているのか、揺れ動く眼で我の顔やら自分の手やらを、せわしなく見ていた。

「まぁ良い。慌てなくとも時間はある。だが、腹が減っては何も考えられないだろう?ククッ」

「…要らない」

その声は微かに震えていた。緑竜は我と眼を合わそうとしなかった。我はフンと鼻息を吐くと、こう続けた。

「喰わねば、飢え死にしてしまうぞ。今日はお前の為に極上の獲物を持って来てやる。」

「獲物って…」

緑竜は漸く顔を上げ、我の眼を見ながらそう呟いた。その眼から不安や恐怖、そのような類の表情が伺える。

「ククッ お前が一番よく分かっておろう。獲物を捕ってくるまでの間、ゆっくりと休んでおくが良い。」

我は更にこう付け足した。

「逃げ出しても、人間には戻れぬ。人間と出会ったとしても、その姿では皆逃げ出すだろうな。クククッ」

まだ事態を飲み込めていない緑竜を一瞥すると、翼を広げて新鮮な獲物を捜しに飛び立った。

さて、どうなるか。

ぐるりと空中で一回転すると、眼下の地上に目を向けた。




--------------




「おーい!…全く…あいつは何処に行ったんだ?ちょっと目を離した隙に…」

空を飛んでいると、広場へ通じる道から若い男の声と共に、旨そうな人間の匂いが漂ってきた。自然と口内に唾液が溜まっていく。やはり人間は喰わずにはいられぬようだな。

「ククッ あの人間もまた旨そうだ。」

我はまずあの人間を狙うことにした。
そう決めると、一旦その場でホバリングをし、ジュルリと舌舐めずりをすると、狙いを定めてそのまま獲物の方へと急降下していった。

「うわぁっ!」

ガシッ
驚きのあまり固まっている獲物はその刹那、我の手中に閉じこめられていた。
脆弱な人間を潰さぬように手加減するのには、もうすっかり慣れてしまっていた。

「まずは一人…」

さてと、次は…ククッ
口元から漏れ出そうになる唾液をジュルリと啜り、次なる獲物を捜しに町の方に向かって飛んでいった。




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<2013/02/23 23:46 イオン×長引>
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