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【保】研究の章 -命の代価- − 旧・小説投稿所A
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【保】研究の章 -命の代価-

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サリゼイア研究所 山岳支部 実地検測員 ーリュートー 及び ーフォルアー 研究報告

研究対象名
ードラゴンー


【リュート、そろそろ見えてくる筈だから警戒して進んでね。】
肩に付いている無線機から声がする。 どうやら女性の声らしい。

『あぁ、了解した。』
かなりの荷物を担ぎながら、山道を登っている男性らしき人間。
そう返事をしながら辺りを警戒して、何かを探しているようだった。
『・・・っ!』
そして、少し開けた場所に出ようとした瞬間に突然身を隠して物陰からそっと様子を窺う。

左右に生えた一対の翼、太陽の光に煌めく全身を覆う鱗。
顔は聡明としていて、じっと遠くを見ている。
そして長い尻尾。 10mはあるだろうと思われる巨体。

『此方リュート。 対象(ターゲット)を視認した。』
物陰に隠れながら、無線に向かって小声で語りかける。
【やっぱり、ドラゴンが居るのは本当だったのね・・・。 リュート、夜になるまで待って、寝静まった時を狙いましょう。】
『分かった。 さっき見つけた小さな洞窟の中で準備を整えて、夜まで待機する。』
そう言って、来た道を少し戻った場所にある洞窟にテントを設置、機材を準備し始める。

【必要最低限の物はこっちから指示するから、それ以外のモノは余り携帯しないようにしてね。】

無線機からは女性がテキパキと必要最低限のモノを言って、それに従うように服のポケットに小さな音声映像記録・及び送信用の装置、懐中電灯。
『っ・・・ふう。』
無線機からは的確なアドバイスが聞こえてくる。
【準備が終わったら、夜になるまで体力を温存しておいて。・・・この報告で、私達は本部勤務が可能になる・・・頑張ってね。】
『あぁ。 俺達の未来の為の第一歩を、失敗するわけにはいかないからな。』
そんな会話をして、そのまま眠りにつく。




そして夜になる。 今日は新月と言う事もあって、月光で照らされる事は無いと思いながらも、先程ドラゴンを見た場所まで移動する。

『フォルア、ドラゴンはもう寝静まっている・・・これから接近を開始、記録も随時送信する。』
【了解。・・・リュート、油断しちゃ駄目よ・・・。】
『分かった。 通信は切るぞ。』

通信を切断し、足音をたてないようにドラゴンに接近していく。
完全に寝静まっているのか、呼吸をする度に身体が小さく動いている。
『後、数mか・・・』
ゆっくり接近しながら、その身体の側面に回り込む。
ドラゴンは起きている時、基本的に二足歩行で寝るときは獣のように身体を倒して丸まりながら寝ると言う情報は世界各地で発表されているが、

今回、この2人が挑むのは

ドラゴンの生態、そして観察結果を報告すること。
実際に寝ている姿を観察しているのは世界でも希少な観察結果である。
ドラゴンの眠っている姿を観察し、接近して映像と音声を記録、発表をするのが本部勤務の条件として2人に提示されたのである。

『鱗はかなりの硬度を・・・翼は、折りたためるのか。』
そう呟きながら、顔の真っ正面まで移動する。
牙が口の中に所狭しと並び、その巨大な口からは突風のような寝息が出ている。
『興味深いが・・・ まあこれぐらいあれば、十分だろう。』

数十分に及んだ観察結果を送信し終わり、ドラゴンから少し離れた場所でしゃがみ、無線機に手を伸ばす。
『観察を終わった。これから研究所にもど・・・』

ひゅんっ! シュルゥッ!!

『!? グァァァァッ!!』
【リュート!?】

−オロカモノメ、キヅイテイナイトデモオモッタカ。−
低く、そして威圧感のある声が聞こえ始める。
『っ・・・ぁぁぁあぁぁあぁぁ!』
叫びながら暴れるものの、ドラゴンの尻尾は逃げる事を許さないと言わんばかりに締め上げ続ける。
−キサマハワレノリョウイキヲオカシタ。 ソノツミ、バンシニアタイスル・・・−

【リュート、逃げて!】
『グァアァァァアッ!!・・・ハァッ・・・ハァッ・・・?』

尻尾が締め上げるのを止め、リュートは必死に空気を吸い込み、落ち着いた所で疑問が浮かんだ。
『何故、殺さない・・・?』
そう問いただしてみる。
−キサマハタダコロスダケデハアキタラン。ワタシノリョウイキヲオカシタツミダ、ウマレテキタコトヲコウカイサセテヤロウ−

【リュート?!・・駄目、逃げ・・・】
バキイッ!
無線機を尻尾で軽々と破壊し、そのままリュートを見据え、不気味な笑いを浮かべる。
その直後、ドラゴンはその巨大な口を開けてリュートに迫る。

『なっ・・・や、やめろ! 離せ、離せぇ!!』
恐怖を与えるようにして、ゆっくりと自分を捕食しようとする口が迫ってくるのを見て、リュートは必死に暴れる。
だが、ビクともしないドラゴンの尻尾に抑えられて逃げることが出来ないまま、

シュルッ ・・・ バクン・・・

リュートに舌を巻きつけ、口の中に引きずり込んでから口を閉じる。
『んぐっ・・ぅぐっ・・・うがぁっ!!!』

必死に暴れながらも、口の中の舌に弄ばれて身動きがとれないのと、牙で数度噛まれてかなりのダメージを受けて、すぐに弱り切ってしまう。

『っ・・・ぅ・・・』
−ニンゲンハモロイナ、クク・・・−
そんなリュートを嘲笑うかのように、舌を巧みに動かしてリュートの服、素肌までもを唾液塗れにする。
『ぅっ・・・ぅ・・・』
−モロク、ヨワイニンゲン・・・オマエハ、ワレノチニクトナレルコトヲコウエイニオモウノダナ・・・ククク・・・−



〔研究所内部〕
「リュート!!」
フォルアは席を立ち、リュートの居る場所まで行こうとドアを開ける。

「どうしたのかね、フォルア。」
ドアを開けた直後にドラゴンとは違う威圧感を持った人間が立っていた。
「な・・・キーア本部長!?」
この研究所の本部、しかもその場所のトップである人物が辺境の研究所に来ると言う、通常では有り得ない事態に頭が混乱し始めたフォルアであったが、

「そこをどいて下さい!友人が・・・仲間が、ドラゴンに食べられているの!助けにいかないと!!」

必死で訴えるフォルアに対し、本部長は
「キミはあの椅子に戻るのだ。 まだ終わった訳ではあるまい。」
「嫌です!リュートが・・・死んじゃう! だから、どいて下さ・・・?!」

突然、武装した兵士がフォルアの顔に銃を突きつける。

「研究に戻れ。 これは命令だ。」

冷酷に言い放つ本部長。 戻らねば殺されるのは目に見えている。

フォルアは苦渋の決断をして、送られてくるデータを見守るだけになった。
銃を突きつける兵士と、本部長の前で。


〔山岳地帯〕


口の中でぐったりとしながら時折弄ばれ、苦しみの声を出す度にドラゴンは不気味に笑う。
そして永遠とも錯覚した口内での数分間が過ぎ、突然ドラゴンが

−クク・・・イタダキマス・・・−
と、わざとらしくその言葉を発してリュートを口の奥へと誘う。
『・・・ぁ・・・ぅぐ・・・』

・・・ゴクン・・・

『ぅぁ・・・ぁあぁ・・・・!』
頭から喉に入り、数秒もしない内に全身が喉に入って、胃に向かって滑り落ちていく。
肉壁がリュートの身体を弄び、弱々しい叫び声を出す度、更に強く肉壁がリュートの身体を圧迫して、苦痛の声が弱々しく聞こえてくる。


−ククク・・・ドウシタ? アバレテミロ・・・デキルナラナァ!−



挑発するようにそう言い放つが、リュートは肉壁に弄ばれて応える事も叶わずに喉を下り、



『ぅ・・・ぐっ!』
そして、喉を通り抜けると少し広い空間に出た。
生暖かく、そして壁から地面もゆっくりと蠢いている。

『ここは・・・』
−ワレノイブクロノナカハキモチイイダロウ・・・オマエハソコデワレノチニクトナルノダ・・・−

胃袋。
食べたものを溶かし、栄養に変える場所。
つまり、此処で消化されてドラゴンの血肉となると言うことだ。

『や・・・だ・・・』
拒否の言葉を発する。

−キサマニケッテイケンハナイ・・・クク・・・−


消化液が胃壁から垂れてくる。
それが服に当たり、ゆっくりと溶かして素肌に触れた瞬間

『ぅがぁぁぁああっ!!』
激痛が襲い、叫び声を上げる。
逃げる事を許されない空間の中で、激痛に悶える。
そして消化液は胃袋の中の食物を消化しようと更に分泌を早め、胃壁もそれを促進するようにリュートの身体を弄んでいる。

『ッガァァァアッ!!』
−クク・・・ヨワイセイブツハコウヤッテクワレルウンメイナノダ・・・−
『うがぁぁぁあっ!!!! っぎぃいぃぃっ!!』

叫び声で聞こえていないが、消化液の触れた部分が

ジュワァァ・・・

と、音を立てて溶けて行っている。
『ぅぐぁあ・・・・・・・』
叫び声を出す体力も無くなったのか、小さく呻きながら溶かされていく。

『・・・・・・・・・・・・・・・』

言葉が聞こえなくなり、沈黙が続いた後に

−ゴチソウサマ・・・ククク・・・−

送信データは、それで途絶えた。




「リュート・・・リュート!!」
何も映らなくなった画面に向かって叫び続けるフォルア。

「これは発表すれば君は一躍有名人になれるぞ、良くやったな。」
フォルアの肩を叩きながら、そう言った本部長は兵士を連れてその部屋を去っていった。



その次の日、このデータだけが研究所に残っており、フォルア本人が何処に行ったのか、誰も知らない。



−オマエモ・・・ワレノチニクトナリニキタノカ・・・クク・・・−


<2011/05/23 22:34 醒龍>消しゴム
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