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草の根かきわけて − 旧・小説投稿所A
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草の根かきわけて
− 初めての・・・・・ −
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※消化描写があります







 静かだ。不気味なくらいに。

 俺達の目の前には一羽の小鳥がいる。親とはぐれちまったのか、ぴいぴいと悲しそうに鳴いている。その様子を見ていると、心が締め付けられるな。これはキツイぜ。

 「ほら、あれなら簡単でしょ。できないとは言わせないわ」

 俺はオオカミ、そして今からあの健気な子鳥を





 喰らう





 「さあ」

 この姿が変えられない以上、俺の生きていく道は一つしかねえ。もう、これまでの常識・道徳は通用しねえ。退路は断たれた。

 そうだ。難しい事じゃ無い。ちょちょいと出て行って、あの首筋をガブッとやればいいだけの話だ。この姿になってから、焦点がやけにはっきりする。これなら大丈夫だな。

 ん? こっちを振り向いたぞ。気付かれたか?

 「今よ!」



 言われるがままに、俺は飛び出した。逃げる間も与えずに・・・逃げられたほうが楽だったかも知れねえけどよ。

 口にばくりと含むと、羽をばたつかせて、俺の口の中を傷つける。早くなんとかしないと、俺は必死にそいつを飲みこんだ。一瞬吐きそうになったのは、喉につまらせたからかそれとも別の理由だったかは俺にも分からねえ。





 「喰っちまった」





 情けねえな。俺がここまで決心の鈍いやつだったとは。後悔と自責の念で押しつぶされそうだぜ。

 「全く、丸飲みだなんてするから。大方、お腹の中がきつくなったんでしょ」

 俺の表情が歪んだのを見て、勝手に間違った解釈をしていた。



 だけど、確かに旨かったと本能が言っている。それに嘘はつけねえ。どうやら、感覚も完全にオオカミのものになってるらしい。ちっ、ますます厄介だぜ。いいや、今の俺にはそのほうが幸せなのか?

 だけど、俺のせいで1つの命が消えた。その事に違いはねえ。あいつの親はどんな顔をするだろうか? やっぱり悲しんじまうのかな? そりゃそうだよな。もう、二度と会えねえんだからよ。あいつがもし生きてたら、将来どうなっただろう? 空を飛べるようになったかも知れねえ。俺は未来を全て奪ったんだ。



 「見ての通り、この辺りには獲物がたくさんいるわ。大きな獲物は無理でも、さっきみたいなのを探しなさい」

 「なあ」

 俺にはどうしても聞いておかなきゃいけねえ事があった。

 「何よ? まだ用があるの? ここまでつきあってやったんだから、手っ取り早くね」

 不機嫌そうなのを無視して、俺は言う。

 「命を奪う事に、何も思わねえのか? こう、胸がぞわりとするというか・・・なんというか・・・・・・ああ、もう分からねえ!」

 そいつは、不敵な笑みを浮かべると、こう言った。

 「あんた、やっぱり変わり者だわ。そうね。思う事があるからこそ、考えないようにしてるってとこかしらね」

 考えないようにしてる・・・・・か。

 「余計な事を考えていたらこの先、生きていけないわ。覚えておきなさい」

 それを聞いて、俺は今日何度目かの現実をつきつけられた気分になった。

 「あ、ああ。ありがとう、えっと・・・」

 そういや、まだ名前を聞いていなかったな。俺を殺した、元凶の名前を。

 「ルウよ。じゃあねルンバ」

 「あ、ちょ・・・・・」

 それだけ言い残すと、そいつは自分の森のほうへ駆けていく。嵐の様な速さだ。もう見えなくなっちまった。まあ、森なんだし元々そう遠くまでは見えねえけどよ。

 ん? そういや、なんであいつ俺の名前を知っていたんだ?





 問題は、ここからだった。ルウと別れて、すぐに俺は違和感に気が付いた。

 「動いてる!?」

 そう、鳥はまだ死んじゃいなかった。どこで生きてるのかって? 止めろ、止めてくれ、言わせんな。

 ばたばたと羽ばたきを感じる。蠢く。その表現がぴったりだ。

 そして、しばらくすると自分の胃でこぽこぽと何かが湧き上がるのが分かった。鳥の動きは狂ったように大きくなった。

 考えたくもねえ。だけど、考えちまう。そうだ、今この瞬間にも鳥は体を溶かされる激痛に悶えているんだ。俺のせいで・・・俺のせいで!

 「早く終わってくれ・・・早く・・・頼む・・・」

 俺は鳥が動いている間、ずっと一匹で呟いていた。





 それも、やがて止まる。もう、動きは感じない。生命が確かにここで途絶えた。最悪の最期をかみしめながら、だろうな。

 すっかり溶けちまったらしく、腹もいくらか楽になった。今頃肉のジュースに・・・うう、気持ち悪いや。想像するのは止めておこう。

 「これから、毎食こうなんだよな」

 これからの生活に、俺は不安を隠しきれなかった。





<2013/01/27 03:44 ぶちマーブル模様>消しゴム
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