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魔女にかかれば − 旧・小説投稿所A

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魔女にかかれば

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真っ赤な鮮血が吹き上がる。
それはカレンの衣服に赤い染みをつくった。

「シャドウ!」

地面に崩れ落ちるシャドウ。その間にも切りつけられた部分からは血が流れ出る。

「魔女よ、地獄へおちろ!」

再び鈍く光る剣が、今度はカレンに向かって振り下ろされる。
しかし、彼女はその剣を冷たい目で見つめていた。

「何が魔女よ……」

次の瞬間、剣は空気中で固まったかのように動きを止めた。

「なっ、け、剣が動かなっ!」

「覚悟は出来ているのでしょうね」

ただならぬ殺気を放つカレン。
その目は、真っ赤に燃えていた。

「そこまでだ、北の森の魔女!」

耳障りな大声が森に響き渡る。
近くにいた小鳥たちが一斉に飛び立った。

気がつけば、四方をあの騎士団に囲まれていた。
みな、剣をこちらに向けていつでも殺れるといった様子だ。

「くっ……いつの間に!?」

「大人しく降伏しろ!」

魔力を弱めて、止めていた剣を元に戻す。
そのまま彼女はシャドウを引きながら後ずさった。

「お……じょ……」

口から血を吹き出しながらシャドウは必死に言葉を紡ぐ。
致命的な傷なのは間違いない。早く手当てをしなければ。

「大丈夫、きっとなんとかなるから、だから……ね」

「…………っ! うっ!」

シャドウがゆっくりと頷いたその刹那、更に血の塊が彼の口から流れ出た。
見れば、切りつけられた腹部の傷が更に深く開こうとしている。

恐らく、先ほどシャドウが飲み込んだあの騎士がもがいているせいであろう。

「このっ!」

微量ながらも、魔力を消費して傷口を塞ぐ。しかし、また開くのも時間の問題だ。

とにかく時間がない。
トレゾアがこの惨事に気づいてくれるとはかぎらない。
自分でどうにかしなくてはいけないのだ。

「どうすれば……」

この状況を免れる方法はなくはない。
だが、それにはかなりのリスクを伴う。

「お……嬢……に、げ……」

徐々に狭まる騎士との距離。
シャドウの状態。
このまま何もしなければ、カレンは投獄、処刑。
シャドウは衰弱死。

選択肢など無い、もう迷ってなどいられなかった。

「シャドウ、ここからは私も……命をかけるわ」

その言葉に、シャドウは目を丸くした。

「っ! だ、駄目です! お――」

必死なシャドウの言葉を無視して、カレンは気を高める。
その凄まじいオーラで、風など吹いていないというのに、彼女の長い銀色の髪はなびいていた。

徐々に彼女の体は、黒い影に包まれていく。
途端にすさまじい風圧が、騎士団を襲う。

「くっ! これは、いったい!?」

「お嬢!」

シャドウの悲痛な叫び声を聞いて、カレンは振り返る。
とても落ち着いていて、寂しそうな目をしていた。

「シャドウ、今度は私が……』

次の瞬間、彼女の姿は消えた。
代わりに現れたのは、飲み込まれてしまいそうなほどに漆黒の鱗で覆われた、巨大な竜〈ドラゴン〉だった。

『今度は私があなたをまもる』

竜の咆哮が、この世界に響き渡った。












「う、うわああああああぁぁああ!」

一人がそう叫んだのがきっかけだった。
あれほど強気だった騎士団は途端に四方八方へと逃げ出した。
その背中に向かって、竜は軽く息を吐く。

吐き出された息は、瞬く間に空気中で反応を起こし、巨大な火の玉になった。
それがその騎士を焼く。

燃える音もしないほどにあっさりと消えた騎士。
“蒸発”と言えばいいのか。

「ひぃっ!」

腰を抜かした騎士団を冷たい目で睨み付ける竜。

『まさか、逃げられるとは思ってないでしょうね?』
そう言うと、竜は巨大な手で騎士の一人を押さえつけた。

「ふぎっ!」

巨大な手で押さえつける。
小さな体がミシミシと悲鳴をあげていた。

竜はそのままその巨大な顔を近づけて生暖かい息を吹き付ける。
騎士の目には涙が浮かんでいた。

竜はそのままその騎士をくわえ込んだ。
恐怖のあまり、騎士はびくりともしなかった。

そして、一飲みでその騎士を嚥下した。
生々しい音がはっきりと聞こえた。

喉に落ち込むそれを感じながら、竜は口を大きく開けてもう一人の騎士に息を吹き付けた。

もう限界だったのだろう。
その騎士は白目をむき、泡をふいて倒れた。

『さて、覚悟はいいかしら』

「あ……あぁ……」

腹に力をいれて先ほど飲み下したものを逆流させる。
そして、勢いよくそれをその騎士めがけて吐き出した。

体液でベタベタのそれを受けて、彼は倒れた。
すかさず竜は彼の体を押し潰す。

「がはっ!」

めりめりと骨が軋む音が手のひらを伝わって聞こえてくる。
それでも彼女の怒りは消えなかった。

『このまま、押し潰してやる』

「や、やめっ!」

騎士の救済の声も聞かずに竜は力を容赦なくかけていく。

声など出るわけもなく、ただただかすれた呼吸の音が漏れるように聞こえるだけであった。

ついに内蔵が圧迫される音が聞こえてきた。
あともう一歩、力を込めれば……。

「もう止めてください! お嬢!」

絞り出せる限りのシャドウの叫び声。
不思議とその声で力が抜けた。

よく見れば、踏み潰そうとしていた騎士は既に気を失っていた。

『シャ、ドウ……』

ゆっくりと振り向き、その名前を口にする。
真っ赤に燃えていた瞳に、理性が戻ってきた。

押さえつけていた手をどかして、シャドウのもとへと歩み寄る。

『シャドウ……私たち、助かっ……」

光が弾けるような音と共に、カレンは目映い光に包まれた。

「お、お嬢!」

もう限界だった。
意識が遠くなっていく。
人の形に戻った瞬間、彼女は地面に倒れ込んだ。

「しゃ……どう…わた、し」

いやだ、まだ死にたくない。
大切なことをまだ彼に言ってない。
私は……あなたのことが……。

「す…………」

伸ばした手は、力なく地面に落ちた。
シャドウの腕まで、あと数センチであった。












目を開けたとき、視界に写ったのは見慣れた天井だった。
はっきりとしない意識の中で、カレンはぼんやりとそれを見ていた。

(私は……)

「バウッ!」

突如、耳元で聞こえた音。
聞いたことはなかったけど、どこか落ち着くその音。
そこでカレンははっとした。

「シャドウ!」

勢いよく起き上がると、途端に目眩に襲われてベッドに倒れ込む。

「無理をするな、一度とはいえ、魔力を使い果たしたのだから」

「トレ……ゾア?」

顔を転がして横を見れば、そこには腕を組んでこちらを見るトレゾアと大人しく鎮座しているシャドウがいた。

「シャドウ! よかった、助かったのね!」

「バウッ! ワウ!」

「――? シャドウ、あなた言葉はどうしたの?」

いつまでも鳴き声しかあげないシャドウに、カレンは驚いていた。

「カレン。言いづらいが、それが後遺症というものだ」

トレゾアから言い放たれた言葉。
嫌な予感がする。
まさか……。

「お前はもう、魔女ではないのだ……」

頭を金づちで打たれたかのような衝撃が、カレンに走った。


書いてて一番苦しかったところp(´⌒`q)
<2012/11/28 18:20 ミカ×どんぐり>
消しゴム
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