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魔女にかかれば − 旧・小説投稿所A

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魔女にかかれば

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「子拐いの魔女なんて…」

少女は何やら呟いていた
その呟きも賑やかな町の音に混じり、消えていく

歩いている間、彼女は誰とも会話を交わさなかった
交わすどころか目を合わせるつもりも無い
ただひたすら街から出る為に早足で歩いている

「酷いですこと」

町から出た彼女はそう呟き、森へと向かい出す
いや、帰って行くと言った方が正しいだろう

賑やかな町とは正反対に静寂に包まれた場所
薄暗く、気味が悪い
そこを彼女は歩いて行った

「カレンお嬢様、お帰りなさい」

森の奥には、可愛らしい家が建っていた
赤い屋根に煉瓦で出来た壁
いかにもお伽噺に出てきそうな家だ

その前に狼がいた
漆黒の体毛に深紅の瞳をもつそれは、少女――カレンに頭を下げる
見たところ、その狼は彼女の従者らしい
そんな彼の頭を彼女は無言で撫でた

「…何かあったんですか?」

その態度に狼は問う
長年付き添っている彼は、彼女の仕草だけで感情が読み取れるようだ

「噂が流れていて…」

そう言った後に彼女は、はぁ…と重い溜め息を零す
噂の内容を軽く説明しながら、扉を開けて中へと入る
狼も彼女の後をついて行き、中へと入った

フローリングの床に豪華そうな家具が並ぶ部屋
整ったその場所にあるテーブルと椅子
カレンは椅子に座ると、チーズが入った袋をテーブルの上に置く

「今日の夕食の材料、これで揃ったわね」

「はい。お嬢様の手料理はどれも美味しいです」

「ありがとう、でも誉めても何も出ないわよ?」

椅子に深く座ると凭れ掛かり、一息つく

そして被っていたフードを外し、銀色の髪を露にした
部屋の光のせいなのか、それは美しく、妖艶に輝いている
更にその双桙の色は、どちらも違う
それ等が彼女の不思議な雰囲気を作り出していた

そう、魔女らしい雰囲気を

カレンは狼の言葉にクスッと笑う
だが、その表情はすぐに曇ってしまった
よほど例の噂が気になるようだ

「確かに人は襲うけど、拐いはしないわ」

「お嬢ならやり…」

「何か言ったシャドウ?」

小声で言ったつもりの言葉を彼女の言葉が遮る
シャドウと呼ばれた狼は、焦りの表情を浮かべたまま、目を逸らした
何でもないです。と答えながら耳だけを彼女に傾けている

「噂はまだそんなに気にならないけどね
 気になるのは、町の人の行動よ」

紅茶の入ったポットを宙に浮かせながら、また溜め息を零す
異様な光景だが、ここでは普通のようだ
白いカップに褐色色の紅茶が注がれ、そこに砂糖が入れられる

「魔女狩り…ですか?」

漂ってくる香ばしい香りにシャドウも、うっとりとする
お座りの状態で彼女を見据え、話を聞いていた

「私は魔女ではないのに…
 もしかしたら、ここへ人間が来るかもね」

「では、その時は私めが追い返し…」

「シャドウ」

またもや言葉が遮られてしまう
今度の声は何処か不安が混じっていた
背中を向けようとしていたシャドウが、ゆっくりと振り向く

「い、いや何でもない…」

カレンは何か言いかけたが、その言葉を飲み込んだ
膝の上で、ちょこちょこ動く手
頬は僅かに紅く染まっていた

視線は別の場所に注がれており、表情が先程より曇っている
彼女のあまり見ない仕草
その様子にシャドウは首を傾げる

「私に仕えてるのだから…しくじらないでね」

声のトーンも何処か低め
何時もの強気な彼女とは、全く逆だ

急にどうしたのだろうか
深く追求はしない方が良いだろう
彼はそう考えると彼女に頭を下げた

「分かりました」

そう言葉を発した後に扉へと向かい出す
見回りという大事な仕事の為に
背後からカレンの視線を感じながら器用に扉を開けて出て行った

扉が閉まる音と時計の音が響く静かな部屋
カレンは紅茶を口に含むと、また小さく溜め息を零した


知る人ぞ知るカレンさんとシャドウさんw
<2012/11/12 21:52 ミカ×どんぐり>
消しゴム
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