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「あら、可愛い女の子♪」

少女の目の前に現れたもの。
それは竜だった。
曲がり気味の角の根元には沢山の花が咲いている。
体も植物を連想させる若草色。
ドラゴンは人を襲うとよく言われているが、今少女の目の前にいるのは違うようだ。
ニッコリと優しい笑みを浮かべている。

「こんな所にいたら、悪い魔女に食べられちゃうわよ？」

存在しない伝説の生き物だと思い込んでいた為に少女は上手く話せなかった。
軽いパニックを起こしているのだ。
そんな彼女を竜の言葉が現実へと引き戻す。

魔女と言うのもお伽噺の世界にしか存在しないと思ってた彼女はまた言葉を失う。
竜の次に続くそれに、自分は夢でも見ているのではないかという疑問に思い始める。

だが、これは現実。
そして早く抜け出さなければ、魔女に食い殺されるという危機に瀕しているのだ。

「で、出口が…ぁっ…」

その恐怖に少女は耐えきれずに泣いてしまった。
ポロポロと透明な雫が零れていく。

その立て続けに流れていく涙を止めようと、竜が彼女の頬に手を添える。
直接伝わってくる温もりを感じながら彼女が見上げれば、竜は優しい笑みでこう言った。

「大丈夫よ。出口まで案内してあげるわ♪」

そして彼女を優しく撫で回す。
その雰囲気に少女もすぐに心を許した。
自分で涙を拭うと、竜と同じように笑顔を浮かべる。

「疲れてるでしょ？背中に乗せてあげるわ♪」

「うわっ！？」

竜がそう言った直後、地面から蔓が伸びてきた。
それが、少女の体に巻き付く。
パニックに陥る少女に竜は大丈夫よ、と声をかけた。

「その蔓はアタシが出したの
　ふふ、そう言えばまだ自己紹介してなかったわね」

蔓が少女を竜の背中に乗せた。
一瞬どうして良いのか分からなくなった彼女は、小さな手で落ちないように竜の体にしがみつく。
そんな彼女にクスッと笑いながらも竜は自己紹介をした。

「アタシはロゼ。植物を操ることが出来るの」

少女が確認するように彼女の名を呟く。
その言葉にロゼは嬉しそうに頷き、歩き始めた。
飛べばもっと早い話だが、彼女は人に見られる事が嫌らしい。
理由は話さず、人前では飛ぶより歩いて散歩する方が楽しいし健康に良いからと本人は言っている。

どちらにしろ、人間と比べて竜の移動は速い。
人間の倍以上ある歩幅のお陰で、一瞬にして森の中間部分に差し掛かっていた。
夕食に間に合いそうだと少女も安堵する。

だが、小さな出来事が少女の帰宅を遅くする。

「あっ…///」

グギュゥと腹の虫が鳴く。
その音源は少女ではなく、ロゼからだ。
少女から彼女の表情は伺えないが、恥ずかしそうにしているのは分かった。
歩みが止まり、ロゼが軽く振り向く。

「ちょっとお願いがあるんだけど…」

何処か申し訳ないと言った苦笑い。
少女は何？と首を傾げて聞き返した。
お腹が空いたから食べ物を分けて欲しい、あるいは寄り道したいとでも言うのだろうか。
そう予想する少女にロゼはこう言う。

「ちょっとで良いから、それ分けて欲しいなぁって…」

ロゼが言ってるものは、少女が抱えている酒瓶の事だ。
水で空腹を凌ぐのと同じ要領で酒を飲もうとしているらしい。
人間の持つ物に興味を抱く彼女にとって酒瓶も例外ではなかった。
褐色色の瓶の中を流れる液体。
味、匂い、全てが気になるようだ。

「だ、ダメ！」

しかし、それは御使いの大事な品物であり渡す事は出来ない。
少しでも量が少なければ両親は彼女に罰を与えるだろう。
その事もあって少女は酒瓶が入ったを強く抱き、首を振る。

「ほんの一口で良いから…」



分岐
�@「これはお父さんが飲むからダメなの！」
→そのままどうぞ

�A「じゃあ一口だけ…」
→4へどうぞ



「じゃ、じゃあ貴女を食べても良い…？」

「え！？」

頭の中に稲妻が走る。
イマイチ意味が分からない少女は、絶えず形の無い言葉を漏らすばかり。
その様子にロゼは慌てて補足する。

「消化はしないわ！森の外に着いたら絶対吐き出すから！」

一時の空腹凌ぎに胃袋に収まっていて欲しいと言いたいようだ。
命を奪わないと言ってるものの、やはり初対面…しかも竜の言う事を簡単に信じられるわけがない。
背中から降ろされた少女は戸惑っていた。

そんな彼女にロゼは顔を近づけ、上目遣いでクルルと可愛らしく鳴く。
犬のような仕草に、少女は手を伸ばしてロゼの顎を撫でてみた。
気持ち良さそうな表情を浮かべ、またクルル…と声を漏らす。
可愛らしいと思う反面、今撫でている場所の中に自分が収まるのかという恐怖を彼女は感じていた。

ふと溢れてきた涎が、それを更に意識させる。
そうしている内にまたグギュゥ…とロゼの腹が鳴った。
今度は恥ずかしそうにする表情がハッキリと見えた。
若草色の肌が若干赤くなっている。

「た、食べちゃダメかな…？」

再び少女に質問が投げ掛けられた。
空腹のせいで彼女が美味しそうに見えるのか、何度も溜まった唾液を飲み込んでいる。
警戒は解きにくいものだが、ロゼは悪い竜ではない。
そう思った少女は少し間を空けた後、首を縦に振った。
するとロゼは花が咲いたかの様な満面の笑みを浮かべた。
そして少女に指を一本伸ばす。

「前、友達に教えてもらったの
　人間は何か約束する時は、こうやって指を絡めるんでしょ？」

彼女が言っているのは『指切り』の事。
もちろん少女もそれは知っていた。
彼女の誘いにのり、自分の小さな小指を立てる。
大きさの全く違う指を絡め、約束を交わす。

相変わらずロゼは笑顔だが、少女は何処か不安そうである。

「じゃあ動かないでね…」

ゆっくりとロゼが少女に顔を近づけていく。
思わず視線を逸らす少女に生暖かい吐息がかかった。
最初は腕だけ。
ロゼが口を開けていくと、胸、頭…と吐息を浴びる範囲が広くなっていく。
すぐ近くからグチュ、ニチャァ…と生々しい音が聞こえてきた。

やはり怖くて少女は視線を逸らしたままだ。
そんな彼女の頬をロゼがペロリと舐める。

「ひゃっ！？」

思わず声をあげてしまうが、舌はそのまま彼女の体を舐め始めた。


ベロォ…ジュルッ、グチュッ…


体のあちこちに唾液が絡みつく。
粘度の高いそれを吸った服が重くなり、肌にしっかりと密着した。
不快感に襲われながら少女はただ、嬌声に似たか弱い声を漏らすのみ。

けれどその前座はすぐに終わった。
舌が元の位置に戻ると、また大口が開かれる。
唾液でぬるりと光る牙に少女は再び戦慄した。

「んん！」

牙を眺める間もなく、彼女はその暗闇の中へ上半身を入れられてしまう。
生暖かく、彼女の体にまとわりつく唾液の臭いがより一層濃い場所。
ニチャニチャと粘液が掻き回される音やロゼの呼吸音。
それ等を聞きながら下半身が入れられるのを待つ。

ここまで来ると、もう後戻りは出来ない。
そう思いながら少女はその巨大な舌の上に倒れていた。

空腹の為だけあってか、口内の唾液の量は凄まじい。
少し動くだけで大量のそれが絡み、生々しい水音を奏でる。
だが、今回は口内で味を堪能する事はしないようだ。
その証拠に舌に傾斜がつく。

牙に触れなかった事を何処か幸運に思うが、やはり怖いものは怖い。
無意識の内に彼女は舌に掴まり、助かろうとしていた。
けれど、柔らかい舌は唾液でツルツルと滑り、少女の腕はすぐに空へと放り出される。

無我夢中で空気を掴むが、足が奥の肉洞の入り口へと到達する。
ムニュッと舌とは違う肉が一気に腰まで覆う。
少々キツイ抱擁を繰り出しながら、奥へ奥へと彼女を引き込んでいく……


ごくっ


肉壁に力が込められたかと思えば、生々しい嚥下の音が響く。
少女の体は狭い肉の洞窟を落ちていき、広い空間へと放り出された。

「た、食べられた…」

蒸し暑く、ドクン…ドクンと心臓が脈を打つ音が谺している。
彼女がそこが胃袋だと気づくのに数秒もかからなかった。
咄嗟に呟いた言葉はその中へと消えていく。

消化はしないといったものの、やはり恐怖は消えない。
消えるどころか増していた。
胃袋は食べ物を消化する場所という考えが、どうしても離れずに彼女を戦慄させている。

「ひっ！？」

空腹のせいで獲物を求めていた胃壁が少女へと迫っていく。
もちろん逃げれるはずもなく、彼女は肉のプレスを受けてしまう。
柔らかい胃壁は弾力のあるスライムのようで、押せば簡単に体が埋まる程だ。
それが獲物である少女の体を揉み解す。


グチュッ…ムニュッ、クチュ、ムニュッ…


消化液ではない体液が胃壁を伝い、少女に絡む。
生暖かいとろりとした粘液。
しっかり塗り込もうと胃壁が激しく蠢く。
全身をくまなく揉むその動きは次第に彼女へ快楽を与えていく…

「ふふ、気持ち良い？」

胃袋全体に声が響き渡る。
外ではロゼが、少し膨らんだお腹を撫で回していた。
彼女が投げかけたその問いに少女は、譫言（うわごと）のような言葉を並べて返した。
上手く聞き取れないが、雰囲気で感じ取り優しく微笑む。

「ちょっと我慢しててね」

そう言うと彼女は少女が置いていた酒瓶が入った袋を咥え、再び歩き出す。
激しくはないが、歩いた反動で胃袋内が少し揺れる。
その度に少女はムチュッと肉の中へ埋まっていた。
揺られ、埋まり、揉まれの繰り返し。
いつの間にか恐怖心も消え、彼女はその中でゆっくりと目を閉じた……




…ドチャッ


暫くしてロゼが少女を吐き出した。
竜の体液の塊にしか見えないが、ゆっくりと上下に動いていた。

「あら？ふふ…起きてっ」

自分の中が気持ち良かったのか、と彼女はクスッと笑う。
そして眠っている少女をペロリと舐め、軽く揺すった。

「んぅ…っ」

少女は目を覚ますと、ゆっくりと起き上がった。
ぼんやりとした視界を眺め、両手で目を擦る。
そしてハッキリした視界にロゼが写り込むと、また驚いた。
これは夢ではなかったのだと。

ロゼは約束を守り、少女を森の出口まで連れてきた。
少女の背後には、町へ続く道が伸びている。
まだ陽は沈みきっておらず夕食には間に合いそうだ。
夕暮れに染まる道を眺めていると少女がロゼを呼ぶ。
何かと思いながら視線を戻すと、ベタベタな体を見せるように両手を広げていた。
綺麗にして欲しいと言っているようだ。

「そうね、じゃあまたじっとしててね…」

「うん…わっ！？」

ロゼが何かを念じ始める。
すると、少女の周りにピンク色の花が咲き始めた。
同時に彼女にまとわりつく粘液、汚れまでもが消えていく。
染み一つ無い服を見て彼女は口を開けたまま、ロゼを見た。

「植物を操れると言ったでしょ？
　この花はヒソップ。花言葉は“浄化”よ♪」

そう説明した後に一輪だけ摘み取ると、少女の鞄に差した。
ロゼの魔法によって作られた花は枯れる事が無い。
それをお土産にでも、と彼女は少女にプレゼントをした。
少女はありがとう。と頭を下げると袋を受けとった。

「遊びたくなったら、またいらっしゃい♪
　あ、これは二人だけの秘密ねっ」

「約束する！」

互いに笑うと、また指を絡ませ合った。
指切りげんまん。

そして別れを告げた少女は花瓶に花を生けた。
“浄化”という言葉には体の汚れだけでなく、心の汚れも浄化するという意味が込められている。
間違った道を進まず、正しい大人へとなるように…

そんな意味も知らず、少女はまた出掛ける。
優しい植物竜の元へと。

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