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光を広げる輝き − 旧・小説投稿所A

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光を広げる輝き

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「バンギラス! どこだー!」

風が強くなり、体毛をなびかせながらイーブイたちは叫んでいた。
辺りはランタンがないと何も見えないほどに真っ暗だ。

「やばいよ、バクフーン。もしかしたらバンギラス」

「今はとにかく見つけることが最優先だ!」

青ざめた顔をしたイーブイをなだめるようにバクフーンは叫んだ。
実際、バクフーンも不安でたまらない。

(くそっ、どこに行ったんだあのバカは)

ランタンを振り回しながら、歯を食い締める。
あいつがそう簡単にくたばるはずはないが、ここまで音沙汰がないと……まさか。

(いや、そんなわけはない。なに考えてる)

頭を振って嫌な考えを追い払う。
そんな子どもじみたことでもしていないと不安に押し潰されそうだ。

「バンギラァァァス!」

そう叫んだとき、ふと照らした光の隅に、緑色の何か横たわっていることに気がついた。

(あれは……まさか)

「バンギラス!」

間違いない、バンギラスだ。イーブイを手招きで呼んで近づくと、その体はいつかのゾロアみたいに傷だらけだった。

「バンギラス! しっかりしろ! 目を開けるんだ」

「うぅ…………」

うめき声をあげながら、バンギラスが薄目を開ける。
刹那、彼の目が見開かれたと思うと、勢いよくバクフーンを張り倒した。
ランタンが地面に落ちて割れた。

「うぐ! な、なんだよ」

「てめぇ、どういうつもりだ!」

バンギラスの怒声が夜の闇にこだまする。
近くにいたカラスがビックリしたかのように飛び立っていった。

「ゾロアをどうするつもりだ!」

「ま、待て、俺はなにも知らねぇ――」

「しらばっくれてんじゃねぇ!」

爪を突き立て、今にも突き刺さりそうなほどにそれはバクフーンの喉元に食い込んでいた。

「バンギラス待って! ホントに何があったか知らないんだ! バクフーンを離して!」

「こいつがゾロアを拐ったんだよ!」

今まで見たことないほどに息を張り上げ、目を血張らせてイーブイを睨むバンギラス。
明らかに我を忘れている表情だ。怒りにとりつかれて何も見えなくなっている。

「ご、誤解だよ! だってバクフーンは僕とずっと一緒にいたんだから!」

「じゃあオレが見たのは何だって言うんだ!」

「バンギラス……」

イーブイは落胆した。
どうすればバンギラスを落ち着けさせる事が出来るのか分からない。
言葉に詰まっていたその時だった。

「バンギラス」

バクフーンが口を開いた。

「お前に何があったのかは知らない、だけでこれだけは言える。俺はやってない」

「お前っ……この世に及んで――」

「俺を殺すことはいつでも出来る。今はゾロアを助けることが最優先じゃないのか?」

「くっ……」

突きつけていた爪に込められた力が抜けていく。
バクフーンは安堵の息を吐いた。

「オレだって目を疑ったよ。まさかお前のはずがないってな。でも見えたのはお前の顔だった。間違いない」

「バンギラス!」

イーブイが止めようとしたとき、バンギラスは突きつけていた爪をバクフーンから外した。

「この件は保留だ。もしほんとにお前がやったんなら、その時は容赦しない」

「あぁ、それでいい」

土埃をはたきながらバクフーンは立ち上がった。

「んで? どうするつもりだ?」

割れたランタンを気にしながら、バクフーンはそう問うた。

「すぐにでも後を追いたいところだがこの暗さだ、下手に動けば帰れなくなる。今日はここで野宿だな」

「お前にしては冷静な判断じゃないか」

「ククク、お前が知らないだけだ」

「雨は大丈夫かな」

空を仰ぎながら、イーブイは心配そうにそう呟いた。

「まぁ今日は持つだろう。降り始めたら、その時はその時だ」

辺りに散らかった枝に火を移しながらバクフーンは天の匂いを嗅いだ。
微かに湿ってはいるが、まだ大丈夫そうである。

「……少し冷えるか」

「ゾロアを早く助け出そうな」

「あぁ、一人がいつもより寂しいな」

体を丸めながら横になるバンギラスはどこか寂しげだった。

他の二匹も、バクフーンが起こした火に寄り添って眠りについた。
不思議と空腹は気にならなかった。












一行は目覚めるや直ぐに行動を起こした。――特にバンギラスは。

「霧が深いな、あまり離れるなよ?」

昨夜にかわって、今度は深い霧が視界を立ちきる。
辺り一面真っ白だ。

「おいバンギラス、慌てるな」

「今頃一人で怯えてるんだ、もたもたしてられるかってんだ」

「だからって、取り乱したら本も子もないぞ」

「うるせぇ、オレはオレだ! おおーい、ゾロア! どこだぁ!」

バクフーンの忠告も無視して、バンギラスは走り出す。
その後を走って追うバクフーン。
……やけに静かだ。

「…………イーブイ?」

振り返ると、そこにいるはずのイーブイがいないことに気づいた。

(しまった! バンギラスに気をとられて……)

冷や汗が背中に広がる。
一旦立ち止まって辺りを見渡す。
探すにも、霧のせいで何も見えない。

「イーブイ!」

三匹は、離れ離れになってしまっていた。







「バクフーン! どこぉ!」

ハアハアと息を荒げながらイーブイは焦っていた。
一番離れてはいけないバクフーンと離れてしまったのだから。

「バクフーン! ……バクフーン!」
いくら叫んでも返ってくるのは恐ろしいほどの静寂だけ。
それがイーブイの心を侵し始める。

(このままじゃ僕は……)

“死”

「う、うわぁぁぁぁぁっ!」

顔を押さえ込み、地べたにひれ伏す。
いつか感じた死の恐怖とはまた違った感覚。

「イーブイ?」

聞き覚えのある優しく暖かい声が聞こえた気がした。
幻聴? いやでもたしかに。

「イーブイ!」

そうだこの声は。

「バクフーン!」

顔をあげれば、自分のもとに走り寄るバクフーンの姿が見えた。

「あぁよかったイーブイ。急にいなくなるもんだからビックリしたぞ」

「ごめん、バクフーン」

バクフーンに抱きつき、涙声で謝るイーブイ。
正しく感動の再会である。
「イーブイ」

「ん? なに、バクフーン」

「…………おやすみ」

ガツンと後頭部に走った凄まじい衝撃。
「ぐっ」とカエルが潰れるときに鳴くような音をたてて、イーブイは力なくだらりと垂れた。

「ククク。バァーカ」

バクフーンの顔が、歪んでいた。












「イーブイ……どこだ……」

喘ぎながら、バクフーンは呟く。
いくら叫んでも返事はおろか気配すら感じない。
バンギラスとも完全にはぐれた。

あまりの無惨さに膝を屈して地面に手をつく。

(くそっ、何してるんだ俺は…………あの時と何も変わっていないじゃないか)

何も出来ない自分に腹がたった。
乱暴に地面を叩く。

(結局、俺は……)

「おやおや、そこで何をしてるのかな?」

はっとして顔を上げると、そこには見慣れないポケモンが宙に浮いていた。

「あなたらしくないですよ? バクフーンはもっと凶暴でなくてはね」

「……誰だ、あんた」

「うふふ、名乗るほどの者じゃありませんが、どうしてもとおっしゃるのなら名乗らなくもありません」

軽い動きでふわりと地面に着地したそいつは顔をマントで隠した怪しげなやつだった。

「それより、みれば誰かを探しているご様子で」

「……あんたには関係ない」

ぎろりと睨んでそう言うと、奴は奇妙に笑った。

「あははは、怖い怖い。さすがはバクフーンの種族でありますな」

「……失せろ」

「まぁまぁおちついて。私も意味もなくあなたに近づいたわけではありませんから」

マントに手をかけながら、そいつは言う。

「あなたが探しているのは――」

次の瞬間、そいつが顔のマントを外すと、信じられない光景があった。

「僕じゃない? バクフーン」

「イーブイ!?」

「うふふ、そんなに驚かないでよ」

いや、違う。イーブイの顔はしているがこいつはイーブイじゃない。
とにかく、確かめないといけない。

「すまない、イーブイ」

「え? な、なに? バクフーン」

体内で作り出したガスを口に送り込む。
それを牙を弾いたときに出る火花で引火させるのだ。

「ちょ、ちょっと待ってバクフーン。話が違う!」

「…………分かってくれ、イーブイ」

そう呟かれた一瞬の後、バクフーンから放たれた業火が辺りを包み込んだ。

「うぎゃああぁあぁあ!」

やはりそうだった。
明らかにイーブイの声とは違った下品な声が響き渡る。

「てっめぇ! あちぃじゃねぇかぁぁぁ!」

燃え盛るローブから赤く鋭い爪が飛びだす。
不意だったが、なんとかかすり傷ですませたバクフーンはその手をつかんで引き寄せた。

「うっわ!」

そのままの勢いで、バクフーンは頭突きを喰らわした。
ゴッと骨と骨がぶつかる音が鈍く鳴る。

「ぎっ! ……いてぇ」

「いい加減にイーブイの居場所を吐け」

「く、くふふ。いい気になるなよ……」

燃えて真っ黒に焦げたローブを裂いて現れたのは、バンギラスだった。

「なんだ、また物真似か」

「グルルッ!」

「悪いな、その姿を見てると無性にいらいらすんだよ」

バクフーンは上半身をひねり、まわし蹴りを繰り出した。

「ぐっ、ちょこまかちょこまかと……」

左腕でまわし蹴りに耐えたバンギラスもどきは、巨体に似合わない俊敏な動きで後方に引き下がった。

「くっ、逃げる気か!」

「ふん、オレサマはそんなにビビりじゃねぇんだな」

走り寄るバクフーンに、そいつは余裕の顔で嘲笑うかのように目を細める。

「これが何かわかるかなぁ?」

やつが片手でつまんでいるそれ、茶色い子狐みたいなポケモン。

「イーブイ!」

間違いない。イーブイだ。

よく見れば、同じくやつの足元にはゾロアが横たわっていた。

「それ以上近づくとコイツ殺っちゃうよ?」

「くっ!」

仕方なく急停止するバクフーンをみて、奴はニヤニヤしている。

「いい子だ。せっかくだから、オレサマの姿見せてやるよ」

黒い霧がやつの周りに集まり始める。
やがてそれは渦を巻き始めた。

「グッヴァアアアァ!」

その黒い霧を吹き飛ばし現れたのは、紫色の化け狐だった。

「オレサマはゾロアーク! よーく覚えとけ」

ゾロアークの張り上げた声が森のなかに反響する。
それほど大きな音をあげれば、気を失っているものが起きるのは当然であった。

びくりとイーブイとゾロアの体が跳ねた。

「う……うぅ」

「イーブイ!」

「こ……ここは? バクフーン?」

自分のおかれている状況を理解できないまま、イーブイは目を泳がせていた。

「殺すつもりはなかったが、気分が変わった。やっぱしお前の親友を食い殺してやるよ」

「なっ! 待て、話が違う!」

「ククク、お前がさっきオレサマに言わせた言葉だ」

イーブイを救うために走り出すバクフーン。
そんな彼よりも早く、小さな影がゾロアークめがけて突っ込んだ。

「兄ちゃんもうやめて!」

そう叫んでその小さな影――ゾロア――は、兄と呼ぶゾロアークの腕に噛みついた。

「っ! ゾロア!」

一瞬、力が緩んだその瞬間をバクフーンは見逃さなかった。
電光石火の如くゾロアークに走り寄り、口を大きく開く。

「しま――っ!」

ゾロアの噛みつく攻撃が可愛らしく感じるほどに、バクフーンはその巨大な鋭い牙をゾロアークの首もとに突き刺した。
口の中に、生臭い味か広がる。

「がっ!」

激痛に耐えられなかったのか、ゾロアークはイーブイを離した。
力なく落ちたイーブイに逃げるように目を配る。
それに気づいたイーブイは震える足でゾロアと一緒に離れた。

「喰らえ……」

首もとに噛みついたまま、バクフーンは呟いた。

つかの間の静寂。

「ま、待て! 話を――」

次の瞬間、空気が震えたかと思うほどの業火がバクフーンの口から吹き出た。

“大文字”

彼が覚えている技で一番威力のあるそれは、ゾロアークの体に巨大な『大』の文字を焼き付けた。

「あああぁぁあっ!」

目の前で燃えるゾロアークから口を離して後方へ下がる。
そして、化け狐の体が地面に倒れこんだ。

「ハァ……ハッ。イーブイ」

「だ、大丈夫? バクフーン」

「それはこっちの台詞だ。お前こそ……大丈夫なのか」

「僕は大丈夫。でもゾロアが……」

見れば、ゾロアは短い呼吸を繰り返していた。
腹部にできた切り傷からは絶え間なく血が溢れだし、手先はぶるぶると震えている。
恐らく離れ際にゾロアークに切りつけられたのだろう。

「ゾロア!」

突如背後から聞こえた図太く聞き慣れた声。
バンギラスだった。

「バン……ギラス?」

バンギラスはバクフーンを押し退けて、ゾロアを抱き上げる。
ポタリと赤い血が地面に滴った。

「あぁ、ゾロア……すまない。オレがもっとしっかりしていれば」

バンギラスはゾロアの体に顔をうずめながらそう言った。
彼の顔が、ゾロアの血で赤く染まる。

「バン、ギラ……ス。お願いが……」

「な、何だって? ゾロア」

「オイラを……食べて」

「っ! 何を言うんだ! お前を食えるわけがないだろ!」

「オイラ、もう助からない。それは……バンギラスもよくわかってるでしょ?」

「いや、お前は助かる! 助けてみせる。だから逝くな、オレを置いて逝くな!」

バンギラスの目から涙が、口から悲痛な声が絞り出される。
それら全てが、闇に溶けていく。

「バンギラスがオイラを食べてくれれば、ずっとそばにいられるじゃない。だから……ね?」

「ゾロア……ゾロア」

徐々にゾロアの命の灯火が小さくなっていく。
もう、迷っている時間はなかった。

「ごめんな、ゾロア……」

涙を拭い、バンギラスは一呼吸おいて、小さく口を開いた。
戸惑いながらも、その口を開いていく。
そして、バンギラスはゾロアの足を口に入れた。

「……バンギラス。オイラね、バンギラスを殺すために君に近づいたんだ」

「…………」

「兄ちゃんが、言ったんだ。“あいつは俺ら一族を破滅に追い込む奴だ”って」

黙ったまま、バンギラスはゾロアを滑らしていく。
既に腹の部分までが口に吸い込まれていた。
バンギラスの口の端からゾロアの血が滴る。

「でも、あの満月の日に思ったんだ。君がそんなことをする訳がないって」

首もとまで飲み込んだバンギラスは、改めてゾロアの目を見た。
すまなさそうな、それでいて穏やかな目だった。

「ごめんなさい。本当に」

「ゾロ、ア」

そんなことない。お前は悪くない。
そう言いたいのに、声が出ない。
涙も枯れて、胸が苦しい。

「あり……が、とう」

最後に口をさっきまでの倍開き、一気にゾロアを滑らした。

そのままバンギラスは“ごくり”と嚥下の音を鳴らして、初めての親友とも呼べるようなゾロアを飲み下した。

「ガァァァァァ!」

夜空に輝く月に向かって、バンギラスは野獣のように吠えた。












いつもの場所、いつもの夜空に輝く真ん丸な月をバンギラスは一人で眺めていた。
小さく膨らんだお腹を押せば、中にはまだ固いものが入っているのが手のひらに感じられる。

口元にこびりつき、黒く固まった血を拭い、ため息を吐き出す。

「もう一度、お前とこの場所で空を見たかったな」

じわりと滲んだ涙をぐっと堪えて、鼻を啜る。
いつもより寂しい気がした。
ごろりとその場に寝転がり、目を閉じる。

『バンギラス』

ゾロアの声がはっきりと聞こえたような気がした。

『ずっと、オイラはバンギラスを見てるよ。ずっと。ず〜っと……』

「…………あぁ」

つぶった目から一筋の涙を気にすることもなく、バンギラスは微笑んだ。

月がバンギラスを、大地を冷たく、しかし穏やかに照らしていた。



続き一気に投稿w
まさかの6千文字越え(;一_一) 長くてすいません(>_<)
……合作したいなぁ……(ボソッ
<2012/10/15 21:30 ミカ>
消しゴム
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