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魔力の聖剣 − 旧・小説投稿所A

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魔力の聖剣
− ドラゴンとの死闘 −
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 「セナよ、お前に東の山に出没し近隣の村を襲うドラゴンの討伐を頼みたいのだが・・・。行ってくれるか?」
 王座に腰をおろしながら神妙な面持ちで国王が尋ねてきた。
 「王よ、もちろんでございます。」
 セナはこの王国でも有数の剣士で、第一騎士団の団長を任されるほど腕の立つ女性である。だからこそ王は討伐を頼んだのだが・・・。
 
 セナのその言葉を聞いて、王はうつむいた。
 「なぜそのようなお顔をなされるのです?」
 セナは驚いて王に尋ねた。
 王は言った。
 「このドラゴンの討伐に行かせた兵士が一人も帰ってきていないことを知っているな?」
 何人もの兵士が討伐に出て行き、そして帰って来なかったことは、他の兵士たちから聞いた噂ですでに知っていた。
 「えぇ、存じております。」
 「だから・・・」
 王は最後まで言うことが出来なかった。だが、セナは王が何を言おうとしたのか簡単に察しがついた。
 「私も戻って来ないかもしれないとお思いなのでございましょう?」
 「あ、あぁ。その通りだ。」
 言いにくそうに王は答えた。
 
 しかし、セナはすでに決心していた。
 生きて帰れるかは分からない・・・でも、王にはこうでも言わなければ討伐には行かせてもらえないだろう・・・。
 「王よ、ご安心ください。私は必ず村人の命を救って・・・生きて・・・生きて帰ります!ですから、私に行かせてください。」
 村人の命がかかっている。自分の命も大切だが、私はこの国の騎士だ。何よりも国民の命を最優先しなければならない。
 
 「そうか・・・行くか。出来ることなら大勢の兵隊をつけたいものだが、このことを知らない国民の混乱は避けたい。だから、少数精鋭の討伐部隊を編成した。お前を含めたった三人だが、すでに優秀な兵士をこのドラゴンの討伐に行かせて何人も失ってしまったのだ・・・。許してくれ。」
 王が申し訳なさそうに言った。
 ドラゴンが現れたことは国家の最重要機密事項となっている。国民がこのことを知れば、そのことに恐怖し、この国から逃げて行かれかねないからである。もしそうなれば税金を納める国民の存在がなくなれば・・・この国は滅びる。
 
 少数精鋭部隊・・・その言葉に、誰が招集されたのか簡単に想像がついた。恐らく、長い間訓練をともにしてきた第一騎士団副団長のカッツとジムだろう。副団長は二人いるのだ。三人ということは、残りはあの二人に違いない。
 
 「他の二人というのは、第一騎士団の副団長二人でございますか?」
 「そうだ、さすがセナだ。頭の回転が早い。」
 「そうでございましょうか?」
 セナ自身意識したことはないのだが、多くの人からそのことでよく褒められる。本当に自分は頭の回転が早いのだろうか。王にまで褒められては、そう思わなければならないような気がしてくる。
 
 


 「では行ってまいります。」
 王から直接作戦の詳細を聞き、作戦の準備をして王にそう伝えた。本来は明日から作戦執行の予定だったが、王の反対を押し切り今すぐ出発することにした。国民の命がかかっているのだ・・・ゆっくりしていられる暇などない。
 「ちょっと待てセナ、最後に渡しておきたいものがある。」
 「なんでしょう?」
 王直々に“渡したいもの”とは何だろうか。
 

 しばらくして、王は布に包まれた何か細長いものを持ってきた。
 「それは・・・なんでございますか?」
 「これは我が王国に古から伝わる聖剣だ。敵の魔力、仲間の力を吸収しそれを放出することが出来る剣・・・。上手く扱えるかは、扱う人間次第であるという。」
 王は聖剣をセナに渡そうとした。
 「そんな大切なもの、私が受け取るわけにはまいりません!」
 「受け取ってくれ・・・これは命令だ。」
 王にそう言われ。セナはその剣を受け取った。
 「ひとつ聞いておきたいことがございます・・・。」
 「なんだ?」
 「先ほど王は“仲間の力を吸収する”とおっしゃいましたよね?ではなぜ敵の力は奪えないのですか?」
 「それは・・・正確には仲間から供給されるエネルギーを吸収できるということだ。仲間が与えようとしなければその剣は力を吸収できない。」
 「そういうことでございますか。」
 
 「ドラゴンは魔法生物だ。もしかすると・・・魔力を奪えば退治できるかもしれん。」
 本当にそうなってくれれば嬉しい。
 「了解しました。」
 王に一礼して。セナは王宮の門を出ようとした。
 「セナ!」
 王に呼び止められ振り向く。
 「生きて帰ってくるんだぞ!お前以外には第一騎士団を任せられないからな!」
 そう言ってもらえるということは。王は団長として自分を信頼してくれているという証拠だ。セナはそれを嬉しく思った。
 その言葉にセナは小さくうなずいた。











 
 町から出る門の横で、カッツとジムは待っていた。
 「一人で行こうって言ったって、そうはさせませんよ!」
 カッツがこちらに歩きながら言った。
 「団長のことはなんでもお見通しですからね!」
 セナの目の前まで来てジムが言った。
 私が今日出発することから一人で行こうと思っていたことまでばれているなんて。
 「なぜ分かった?」
 セナは尋ねた。
 「セナ団長が考えていることぐらい分かりますよ。ねぇカッツ。」
 「あぁ、長い付き合いだもんな。」
 そう言うものなのだろうか。

 「だめですよ団長、王さまの命令無視して一人で行っちゃうなんて。死ぬときは一緒にって約束したじゃないですか!」
 「死ぬときは一緒に」ジムのいつもの口癖だ。団長の死についていくことは騎士として名誉なことかもしれない。が、死ぬのは私だけでいい。
 「分かった、ついてくることは許す。でも、死ぬことは許さない。私が危なくなったら、助けようなどとは思わず逃げてくれ。」
 「えぇ?」
 「ジム、今回は団長の言うことに素直に従えよ。ついて行かせてもらえるだけでもありがたいと思え。」
 「分かったよカッツ。」
 団長思いのいい部下だちだ。
 「じゃあ出発しようか。夜になる前に着かなければ、夜襲の準備が出来ない。」
 「了解!」
 威勢のいい返事が返ってきた。















 東の山は、馬で移動すればそう遠くないところだ。セナたちは日が落ちる前に山に着くことが出来た。
 村人には今回の作戦は伝えられていない。なぜなら、もしこの作戦が失敗したとき・・・国の第一騎士団の団長さえもドラゴンを倒せなかったと知られてしまえば・・・恐れていた出来事が起こりかねない。
 村人はドラゴンの存在を知っているが、村から避難出来ない状況に陥っていた。国から村から逃げ出したものは処刑すると伝えられているからだ。これもドラゴンの存在が国全体に知られてしまうことを防ぐためだ。もはや国家を維持するための苦肉の策と言うべきか。
 

 そのため、村に頼ることはできなかった。
 山のふもとの林で、セナたちは夜襲の準備を始めた。
 夜襲の準備と言っても、松明の準備ぐらいだ。時間はさほどかからない。

 松明の準備を終えたセナがジムの方を見ると、ジムは何やら薬草の調合をしているようだ。
 「それは何の薬だ?」
 「これは強力な毒薬ですよ。」
 ジムは笑いながら言った。
 「使えるか分かりませんがね。持っていると安心するんです。食われそうになったら口に突っ込んでやるんですよ。」
 カッツは簡単げに怖いことを言った。
 「そ、そうか。使えるといいな。その薬。」
 
 「はい!」
 ジムは楽しそうに毒薬の調合を再開した。
 
 一方カッツはというと、愛用の弓をきれいに手入れしている。ドラゴンの鱗は丈夫だと聞くが、はたして矢は刺さるだろうか。
 カッツにそれを尋ねると、
 「大丈夫っですよ。こういうときのために用意していた最も硬い金属と言われているミスリルをギリギリまで尖らせた矢を持ってきたのですから。」
 なんて用意周到なんだ。

 私はと言えば、いつも使っている鋼の剣を手入れすることと、出かける前に王から受け取った聖剣を眺めるだけで他の二人の準備が完了するのを待つばかりであった。









 太陽が沈んだ・・・作戦執行だ。
 ドラゴンはどこにいるか分からないが、村を襲いに来るのは夜だと言う。夜になるとドラゴンが来て村人を数人さらっていくというのだ。
 三人はドラゴンが自分たちの存在に気がつくように、大きな松明に火を灯した。
 


 しばらく歩いて行くと、大きな洞窟を見つけた。
 「あそこにいそうじゃないですか?」
 ジムが囁き。
 「あぁ、確かにそんな雰囲気ではあるな。団長、どうします?」
 カッツが指示を仰いできた。
 「行ってみよう。」



 洞窟を覗いてみると、奥の方に窓から光が漏れる小さな家があった。・・・家!?なぜこんなところに?
 不思議に思って近寄って見ると、その家のドアが開いた。
 三人は一瞬身構えた。
 が、すぐにその警戒心は無くなった。中から出てきたのは、腰の曲がった老婆だったからだ。
 「どちらさまで?」
 しわがれ声でその老婆は尋ねてきた。
 王国の騎士だとは言ない。
 「ちょっと道に迷ってしまって・・・。」
 幸い三人とも身軽な服装だったため怪しまれない服装だった。王からは対ドラゴン用の丈夫な装備で行くよう頼まれたが、そんなものを着ていてはこういうときにばれてしまう。助かった。
 セナがそんなことを思っていると老婆が話しかけてきた。
 「道に迷ったのかい、それは災難だねぇ。家に泊っていかないかい?最近は人食いドラゴンも現れると言うし。」
 「いえ、大丈夫です。ちゃんと武器も携帯しておりますし。お気になさらず。」
 ここで泊めてもらうわけいはいかない。ドラゴンを討伐するという重要な任務を果たさなければならないからだ。
 「遠慮はいらないよ。さぁさ、中へおはいり。」
 老婆に優しそうに手招きされ、入るつもりはなかったセナたちだったが、疲れているのだろうか、足が勝手に家の方へ動いてしまった。
 「いいんですか団長?」
 そう言うジムも引き寄せられるように家へと向かっていた。




 家に入ると、薬品のにおいが鼻を衝いた。
 「薬を作ってらっしゃるんですか?」
 薬に興味があるジムが老婆に尋ねた。
 「そうさね、私は魔法で薬を調合する魔女さ。」
 「魔女なんですか!?」
 カッツが驚くのも無理はない。魔女の存在はこの国で数人ほどしか確認されていないからだ。
 「ねぇ、魔女さん。解毒薬の作り方を教えてもらってもいいかな。」
 ジムが楽しそうに尋ねているが、魔女は「明日教えてあげるよ。」と言って三人を寝室へと促した。
 何か大切なことを忘れているような・・・はて、何だっただろうか。
 セナたちは任務のことを忘れて、魔女の好意に従い眠りに着いた。







 その夜。


 「うわああああああ!」
 セナはジムの叫び声で目を覚ました。
 ゴクンと何かを呑み込むような生々しい音がして、その叫び声は止まった。
 まさか!?
 やっとのことでポケットに入っていたマッチに火をつけ、叫び声のした方向を照らした。
 「やっぱり若い男は美味いねぇ。」
 !?このしわがれた声は・・・あの老婆?
 近くで金属のようなものがマッチの光を反射した。
 「うん?もう起きたのかい、いつものお客さんよりも起きるのが早いねぇ。」
 光る二つの点がこちらを見た。あれは・・・目?3メートルくらいの高さからこちらを見下ろしている。
 「それなら久しぶりに私を楽しませておくれ!」
 老婆がそう言うと辺りが光に照らされた。
 ここは!?
 自分が寝たのは魔女の家だったはずだが、今はそんなものどこにもない。家が無くなっている!?洞窟は周りが松明で囲まれ明るく照らされている。
 さっきまで見ていたのは幻影だったと言うのか・・・。 
 


 目の前には・・・紫色のドラゴンが、腹を膨らませて座っていた。ジムが辺りにいないことと先ほどの叫び声から、ジムはドラゴンに呑み込まれたのだと悟った。
 ドラゴンから老婆の声でしゃべっているということは、あの老婆はドラゴンだったのか!?
 「早く剣をお持ち。私を倒してごらん。」
 諭すように老婆だったドラゴンは言った。
 セナは鋼の剣を引き抜いたかと思うと、ドラゴンの腹に切りかかった。ドラゴンはジムを呑み込んで腹が重くなったせいかセナの機敏な動きを避けられないようだった。
 「ジム!今助けるから、待ってな!」
 そう叫びながらドラゴンの腹を切り裂いた・・・はずだった。
 「!?」
 セナは目の前で起こった出来事が信じられなかった。鋼の剣が・・・何を切っても刃こぼれさえしなかったあの剣が・・・根元から折れた。
 「おやおや、それでおしまいかい?面白くないねぇ。まだまだ物足りないけど頂いちゃうかねぇ。」
 ドラゴンが大きく口を開いて迫ってきた。セナは成す術が無くなったと感じ、目を瞑った。
 

 そのとき!
 

 「ギャン!」
 ドラゴンは悲痛の叫びをあげ翼を折りたたんだ。見るとそこにはミスリルの矢が刺さっている!
 「カッツ!」
 ジムを助けることに集中していたセナは、カッツがどこにいるのか把握していなかった。
 「ジムを吐き出せ!化け物!」
 カッツは次の矢を放った。
 「グガアアアアア!」
 ドラゴンは痛みにもだえるもののジムを吐き出す様子はない。
 「早く吐き出せ!」
 カッツが次の矢をつがえ弓を構えようとした瞬間・・・ドラゴンが猛スピードでカッツに向かって突進した!
 「カッツ!」
 「団長!うわぁぁぁ!」
 カッツは吹っ飛ばされた・・・と思ったが、カッツの姿がない・・・!?ドラゴンの喉が膨らんでいる。
 先ほどのようにゴクリと音がしたあと、ゴロゴロと喉を鳴らして言った。
 「ミスリルの矢を持っているとはねぇ。私の老体に傷をつけるとはいい度胸じゃないか。次はお前さんだよ!」
 ドラゴンは翼に開いた穴を見ながら言った。
 セナは目の前で起こった惨劇にただただ立ち尽くしていた。
 

 




 腹の中

 「おいジム!生きてるか?」
 狭く真っ暗なドラゴンの腹の中で、カッツは叫んだ。
 「叫ばなくても聞こえてるよ。マッチとか持ってない?」
 「あぁ、マッチならポケットに入っている。」
 ドラゴンの胃は年をとっているせいか、さほど粘液に覆われていなかったため、なんとか立ち上がることが出来た。
 ジムはカッツからマッチ棒をもらいそれに火を付けた。
 「唾液で湿気てなくて良かったな。」
 ジムがカッツにマッチの火を移したろうそくを渡し、何かを探し始めた。
 「何探してるんだ?」
 カッツがろうそくを受け取りながら尋ねた。
 「確かこの辺に入れたはずなんだけど・・・あったあった。」
 ジムは肩から下げていた小さなカバンから、粉の入った袋を取り出した。
 「これを胃にばらまいてやるんだ。そしたら俺たちをたまらず吐き出すぜ、きっと。」
 ジムがそう言った途端、胃壁が動き始めた。決してドラゴンが動いたからではない・・・消化が始まったのだ。下の方から胃液と思われる液体があふれ出してきた。
 「まずい!なんだか知らないがその粉を早く胃液に投げ入れろ!」
 「分かった分かった。ドラゴンさん、せいぜい苦しむんだな!」







 その頃外では・・・

 「じゃあ、気を取り直して頂くとするかねぇ。」
 ドラゴンの口が覆いかぶさってきた。滴り落ちる唾液が髪をぬらす。


 口を閉じようとしたドラゴンは、腹に違和感を感じた。そのとたん、激しい痛みを感じセナを食うことも忘れて腹を押さえた。
 「奴ら毒まで持っていたなんて!ハァハァ・・・ングッ・・・昔の私なら何ともなかったのに、この老体じゃちとしんどいねぇ。・・・ハァハァ・・・胃に穴が開きそうだわい。」

 セナはとたんに我に返った。カッツとジムはドラゴンの腹から抜け出そうとしている!?それなのに私はっ・・・!
 何か対抗するすべはないのか?セナは辺りを見回した。


 「せめて魔法を使えるほど魔力に余裕があればねぇ・・・。」
 
 ドラゴンの言葉にセナは反応した。魔法・・・!?そう言えば!
 
 セナは背中に手を伸ばした。あった・・・布に包まれた聖剣が!
 セナは布を払って、鞘に収まった剣を引き抜いた。

 「私はまだ戦える!」
 
 毒薬が本格的に効き始めたのだろうか。腹を押さえて倒れている。相当苦しいようだ・・・荒々しい息遣いが洞窟に響き渡る。
 
 
 なんとかセナの方を向いたドラゴンは驚愕した。なんと剣を持っているではないか!
 「あの小娘・・・ンハァハァ・・・なかなかやりおるわ。」
 ここまで弱ってもさすがドラゴンと言うべきか・・・どんなに苦しくとも腹の中の異物を吐き出そうとせず、のっそりと起き上がってセナの方を向いた。
 「おのれ・・・小娘ぇ・・・お前を・・・必ず・・・食ろうて・・・・・・腹の中でゆっくりいたぶってやる・・・!」
 肩で息をしながら突進してきた。
 
 
 さっきカッツが飲まれた時と同じだ。
 「カッツ!ジム!お願いだ!私に力を!」
 剣を上に掲げると、剣の切先が輝き始めた!
 そしてドラゴンの腹も光を発し始め、その光は剣に集まり始めた。カッツとジムが力を供給してくれている!
 「なんじゃ!?」
 突然腹が光だしたドラゴンは一瞬驚いた様子を見せたが、足を止めようとはしなかった。 
 


 そして・・・セナは呑み込まれた。
 ドラゴンの喉の膨らみがだんだんと下へ降りて行き、ついにその膨らみは腹へと至った。
 
 「ふぅ、今回はちと油断したねぇ。」
 そう言って、未だ毒の苦しみを感じつつも腹の満腹感に満たされて、ドラゴンは横になった。
 




 また腹の中・・・。


 ゴロゴロゴロゴロという音がドラゴンの胃の中で響き渡る。毒の解毒処理に必死なのか、ドラゴンの胃は叫び声をあげているようだ。
 
 「団長!どうなさるおつもりです?」
 力こそ供給したものの、毒をまいてもなお自分たちを吐き出さないドラゴンにカッツは落胆しているようだ。

 「今から剣の力を放出する!」


 セナは自信ありげに言った。
 
 胃壁が消化を急ぐようにセナたちをもみ始めた。胃壁の生温かさは、春の暖かな夜にベッドで寝たときの感覚に似ていた。ここがドラゴンの腹の中だと言う意識さえなければ最高の寝床だろうに。
 「あまり時間はないみたいだ。急ごう!」


 
 ドラゴンは荒れていた呼吸を落ち着かせ、眠ることにした。いくら老体とはいえ、朝になれば毒などすっかり抜けていることだろう。

 ゴロゴロゴロと未だ鳴り続ける腹を抱えてドラゴンは眠りに着いた・・・はずだった。
 
 ヴゥンと下腹の方から音が聞こえた。聞きなれない音である。
 「今度はなんだい?騒がしいねぇ。」
 音のした方を見て、ドラゴンは自分の目を疑った。自分の下腹を囲むようにして、光の輪が浮かび上がっている。それがだんだん下腹を締め付け始めた!
 「ウゥ!苦しい、やめておくれ!この老体をまだいじめようというのかね!」
 誰が作ったかもわからない光の輪に訴えかけたが、聞く耳など持っているはずもなく、強烈な強さで絞めつけながらその光の輪は腹を上ってきた。
 
 「ウッ、ウッ!」
 先ほど食べた人間たちの辺りまでそれが上ってきて、ドラゴンは気持ちが悪くなってきた。
 腹の膨らみは、だんだんと上がってきてドラゴンの喉を膨らませた。
 「久しぶりの獲物、吐き出してたまるものか!」

 ドラゴンは必死に今にも吐き出してしまいそうな獲物を呑み込もうとしたが・・・。

 「ウゥ・・・グヴォエェ!・・・ゼェ・・・ハァ・・。」
 
 吐き出してしまった。締め付けていた光の輪は、どこへともなく消えて行った。

 ドシャ!
 「団長、地面ですよ!地面!やったー!」
 ジムが喜んでいる。

 喜びもつかの間、衰弱しきったドラゴンがこちらを睨みつけた。
 「お前たち・・・良くも私をここまで弱らせてくれたね!」
 ドラゴンは相当怒っている様子。

 「今のうちに・・・カッツ!ジム!下がって!」
 
 「了解!」

 セナは剣を前に構えた。
 「お前の魔力の根源、心臓の位置を特定した!今からお前の魔力を吸収させてもらう!」
 
 「ヤァァァァァ!」
 
 「そんなことをしても無駄なことは分かっているだろうに、そちらから近づいてくるならもう一度食ろうてやるわぁ!」
 
 ドラゴンが大口を開く。
 

 ドシュッ!
 
 ドラゴンの口が閉じる寸前、セナは腹の中から心臓の音が聞こえていたところを突き刺した。
 
 
 肺の奥の心臓まで、剣は届いたようだ。ドラゴンの動きが止まった。
 ドラゴンは喉が揺れるほど激しく息をしている。肺に開いた穴から空気がもれだしているようだ。巨大なポンプで空気を吸うような音が洞窟に反響する。
  
 刺した剣はまたもや光を発し始めた。
 「魔力が・・・吸収されているだってぇ!?」
 セナは強大な魔力が剣に流れ込んでいることが手に取るように分かった。
 「やめてくれぇ、苦しい!苦しい!」
 十分な酸素が供給できないまま生命力を奪われているも同然のドラゴンはもだえ苦しみ、激しく暴れながらも訴えかけてきた。水の中でおぼれる感覚と似ているだろうか。
 いくら暴れても、魔力でつながってしまった聖剣が抜けることはなかった。

 「お前は何人の人間を食った?魔法生物は他の
生物を食わずとも生きていけるのではないのか?」
 「たまには楽しみも必要さね・・・だけど許しておくれ!もう食わないと約束するよぉ!」
 ぐったりと倒れこんでしまったドラゴンはそう叫んだ。
 ドラゴンは出会ったときに感じたような威厳も何も無くなってしまった、このままいくと死んでしまうと悟ったのかもしれない。
 「申し訳ないが、私も王に仕える騎士だ。任務を捨てて帰るわけにはいかない!」
 そう言うが早いか、ドラゴンは白目をむいてもたげていた首を地面に投げ出した。それでもまだドラゴンは呼吸をしている。
 「心臓を刺されてもまだ死なないのか!?なんてしぶとい奴だ!」
 
 セナは、これ以上無抵抗なドラゴンから魔力を奪うのはまるで虐待のようだと感じてしまうたびに、任務のためだ、国民のためなんだと自分に言い聞かせた。
 

 ドラゴンの呼吸は聞こえなくなった。その代わり、巨大な心臓の音だけが聞こえ始めた。
 その音も、やがて人の足音ほどの大きさになり・・・聞こえなくなった。

 
 セナは剣を引き抜くと言った。
 「さぁ、帰ろうか・・・。」







 ドラゴンの魔力を吸いきった聖剣は、王から受け取った時より力強く輝いていた。
 






 



 後日、ドラゴンとセナたちが戦った戦場を確認しに行った村人たちの話によると、ドラゴンの亡骸は跡かたもなく消えていたという・・・。まだ生きていて、どこかに逃げ去ったのだろうか・・・いや、そんなはずはない。
 セナは自分に言い聞かせた。
 
 


どうだったでしょうか。書き終わってみて、ドラゴンさん苛めすぎた感がぱない・・・。続きがもしもあるなら・・・どうなるでしょう。
<2012/08/03 22:41 又人>
消しゴム
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