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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常

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※ 東雲

「いい? フラウ」
「はい、マスター」

数日前に傷の癒えた僕は城下町を抜け、城の正門前にフラウと2人でいた。
襲撃の弁解をするためにここを訪れたのだ。
脅威を所持しているだけで捕まる……
正当な理由にならない……とは言いがたいが兵士を動かす分には十分過ぎた。
だからと言って、大人しく捕まる訳にはいかない。

「用件は?」

斧槍を携えた上位らしき衛兵が互いの槍を交差させ、門への道を閉ざす。

「東雲 海羅です。王に謁見をお願いします」

僕の名前を口にすると、衛兵が血相を著しく変化させた。
完全な殺意と敵意を剥き出しに、斧槍を持つその手に力が籠るのが容易に想像できた。

「どの面をしてここに来た?」
「そちらこそ。身も蓋もない根拠を盾に刃を向けた筈では?」

微かな殺気を滲ませ、食い下がった。
僕は手を出すつもりは無い。
寧ろ、衛兵の方が心配になる。
下手に手を出せばその瞬間にフラウの刀が容赦なく、その首を刎ねるだろう。

「全く面識の無い王を討つ理由などありませんし、獣達は居候の身。そんな獣
を武器にするとでも?」

「するだろう! 国を治める事が出来る事に引き換えれば!」

僕から見て、右手の衛兵が声を荒げた。
正義感に溢れ、生真面目で何かと融通の利かない性格をしているのだろう。
悪は絶対悪。良しも悪いもない。とにかく悪は悪なのだろう。

「私は王に成り代わるつもりも、国を治めるつもりも、国民を統制するつもりもない」

菫達が王を殺めるつもりが毛頭ないのは明瞭だ。
無論、僕もフラウも同様。
事象的証拠も、物理的証拠も無い。
ただ、菫達に掛かった誤解を解いてやりたいだけなんだ。

「ここは通さん、こんな極悪人を国王に合わせる訳にはいかない!」

業を煮やした正義の衛兵が僕に向かって斧槍を振り下ろした。

「黙れ!!」

僕は腹から声を張り上げた。
その怒号は辺りに盛大に響き、戦いた衛兵が斧槍を留めた。
槍の切っ先が額で止まるものの、僅かな出血を伴ってしまった。
戦いたのは衛兵だけではなかった。
刀の柄に手を添えたフラウもまた戦き、動きを止めていた。
恐らく僕が声を上げなければ、間違いなくその首は飛んでいただろう。
そんな事になれば誤解を解く事も出来なくなる。

「貴方の正義はそんなものか!? 濡れ衣の青年も容赦なく斬り捨てようとするのが!?」

「っ……」

漸く自分の失態に気付いたのか、斧槍を引き戻すと兜を深く被り俯いた。

「改めて……王に謁見は出来るか?」
「……国王は多忙の身、出来るかは分かりませんがそれでよろしければ……」
「分かった。 謁見をお願いしたい」
「了解しました。では、私の後に……」

右手の衛兵を尻目に左の衛兵が応答し、城門を開き先行する。
その後を僕とフラウは歩いていく。
階段を上がる事、2階……3階……5階。
5階の中央廊下。

「ま、マスター……先程のは?」
「……忘れてフラウ。あまりいい記憶じゃないから」

今は過ぎ去りし戦争の過去。
本当なら軍人であった鱗片も見せたくなかった。
しかし、あの場面ではやむを得なかった。
これ以上、話を大きくする訳にはいかなかった。
殺気を滲ませて上からの威圧的な口調で言葉を吐きかける。
格下の相手を萎縮させ、行動を封じる。
あまり好きではなかった。
そもそも、戦争自体嫌いだったのに。

「東雲。謁見を行う。用件は大丈夫だろうな?」
「はい。問題ありません」

と、手続きを終えた衛兵が王の間へと続く豪贅な重扉に手をかけた。
金に縁取られ、宝石が鏤められた贅沢の極みの扉。
それが、今開かれた。
中央の赤絨毯を挟んで左右に衛兵のエリートが4人ずつ、計8人が配備され
赤絨毯の先、重圧を感じさせる玉座に座する国王。

「東雲 海羅。自ら捕まりに捕まりに来たのか?」
「いえ、国王にお願いがありまして……」

片膝を着き、頭を垂れる。僕の後にフラウも続く。

「私の罪状に対する手配を解いて頂きたいのですが」

国王は態度を急変させた。
がたっ、と荒々しく玉座を立ち、それに合わせエリートらも剣を構える。

「ふざけるな! お前は我の命を狙っているのだろうが!」
「いえ、それは誤解です。獣達を武器にするつもりはありません」

憤怒の表情を貼付けたまま、声さえも荒げる国王。
それを見上げる事無く僕は弁解を述べる。

「出兵させた兵は全員殺したのだろうが! 獣達を使って!」
「それは正当防衛です。国王も根拠も証拠も無い虚実に兵を出したまでです」

兵に対する殺人を蔑ろにするつもりは無いが
今はあくまで菫達の誤解を解く事に専念する。
僕がそう淡々と応答すると、両手に拳を作り顔を震わせ始めた。

「そんなのは知らん!! 誤解を解きたいなら、保証を見せてみろ!」

その言葉に僕は口角を弛ませた。
そして、フラウに目配りを行う。
流石はフラウか。それだけで僕の思案を読み取ってくれたようだ。
刀が鞘から刀身を除かせ。フラウが……離れた。
僕には分かっても、エリートや国王には見えないだろう。
迅速過ぎてその場にいるかの様ー
僕は静かに立ち上がる。

コッ……チン。

鞘が地面で一回跳ね、それは再びフラウの腰に還った。

「!?」

ほぼ同時にエリート達の刀身が地面へと崩れ落ちた。
「もし、獣達が国王を狙うのなら、この者が討伐します」

困惑するエリート達。国王も戸惑いを隠せず、フラウが行った事にも気付いていない。

「現状はこの者が行いました。それと……もう一つ」

僕の示唆で国王はフラウの技量に気付いた。
しかし、エリートらは未だに困惑の渦中。
まともな対応が出来るのは国王のみ。

「もし、ここが攻められることになれば……私らも参戦させて頂きます。どうですか? 悪い話ではないかと」
「うむぅ……分かった」

数十秒もの間唸り続けた国王はすんなりと了承した。
国王がエリート達を鎮め、今の会話内容を伝達する。

「では、これで」

僕は密かに安堵の息を漏らしながら、王の間を去った。
そして、もう一つ……未来の示唆なのだろうか?
シリスの言葉。


ー自ら戦いに身を投じるような真似をしなければなー





<2012/05/25 21:33 セイル>消しゴム
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