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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− 「こいつら……万死に値する!」 −
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私は菫や椛の様に陸を歩く事はできない。
獲物自らこちらに迫るのを待ち伏せするのが専らだ。
しかし、今回はそのような甘ったれた考えは捨て無ければならない。
一瞬のアイコンタクトで割り振られた小隊。
誰一人、失敗は赦されない。
少しでも討ち漏らしがあれば即刻、東雲の負担となる。
なんと幸運な事か、小隊のすぐ側に池があるではないか。
……これを利用すれば!

「全員……鏡世に引きずり込んでやる……」

東雲に用意された手鏡を通じて、鏡世に還る。
薄暗い空間の見えない壁は鏡の様に対するものを写し込む。
それは獲物を引きずり込んだ際の対応。
鏡世の住人である私が還れば、鏡壁は周囲一体の景色を投影し
鏡に近い場所から現世へと異次元の門を開く。
普段はこうして、獲物や東雲の行動を見張る事ができる。
菫、椛、ソル……それぞれの行動さえも手に取る様に分かる。
見とれている訳にはいかない。私は私の仕事をこなすまで。
現世の風景を映す鏡、私の駆ける鏡世は薄暗い。
風も吹かなければ、太陽の温もりも無い。
大地の生気もなければ、月光も無い。
生物もいない。’私’だけの空間。
やっと、やっと繋がりかけた初の’繋がり’。
それを何も知らない輩に切り伏せられる訳にはいかないのだ。
鏡壁の池が現世の池への異次元門を開く。

ぱしゃ……

私はその門を潜り、現世へと還った。
極力気配を消し、池から顔を覗かせた。
池の先の大地。そこには武装した兵士どもが無数に息づいていた。
こいつらを全員鏡世に……それが私の仕事だ。
しかし、鏡世に引きずり込むには私に接触している事が絶対条件だ。
いちいち兵士を捕らえては池に戻ったのでは埒があかない。
……くくっ、あるではないか。私の唾液が。

ずずっ……ごくっ、ごくっ……

池に口吻を突っ込み、水を呑み込んでいく。
流石にその音は消す事は叶わず、兵士が私に気付く。

「!? い、池から狼の生首がっ!」

東雲と言い、どうも私の対応だけ酷く感じられるのは気のせいか?
池の大半の水を貪った所で勢いよく、上体を鏡世より引き出す。
そして、陸の上に顎を預け……飲んだ大量の水を吐き出す。
吐き出された水は波となり、兵士達を容赦なく呑み込んでいく。
これで、準備は整った。
私は先に鏡世に身を潜ませた。
そうして、暫く。

どちゃどちゃ……

水に塗れた一個小隊が鏡世に落ちてきた。

「こ、ここはっ!?」
「ようこそ……鏡世へ」

絶対条件は私が触れている事、鏡と接触している事。
理由は簡単だ。
私の体内に収めた水。
それらは私の粘液と混ざり合い、接触の条件を満たした。
そして、吐き出した水こそが鏡の代用にした。
つまり……吐き出した水が’私’であり、’鏡’でもあったのだ。

「さぁ……貴様らに鏡世を堪能させてやろう♪」



そこでなにがあったのかは
読者の想像に任せよう。



<2012/05/02 22:07 セイル>消しゴム
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