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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− 一応、皆に報告しておこうか −
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「みんなー……って」
リビングは意外にも静かだった。
誰もいない。まぁ、面倒な椛やソルが居ないのは有り難いが。
しかし……何かしらの気配を感じる事はできる。

……ばしゃっ。

「あっ……くぅ」

背面から唐突に何かを掛けられた。
粘っこく、やや生暖かい謎の粘液。
掛けられた数秒後には凄まじい倦怠感に襲われ
下半身は自らの体を支える事すら困難になり
思わず、床に膝をついてしまう。

「が、ガレイドっ」
「ふふん。油断していたお前が悪い♪」

この類いの特殊な粘液を所持しているのはガレイド以外にはあり得ない。
獲物の生気や精神を融解させる、特異奇質な胃液。
それを掛けられた獲物は最早、抵抗一つすらさせて貰えない。
思考を張り巡らせるのにすら億劫に感じられる体に鞭を打ち、体を翻す。
部屋を区切る為の扉。その扉に施された小さな硝子。
そんな予想だにしない場所からガレイドは状態を乗り出していた。

「菫の看病で疲れただろう? 良い寝床を提供してやろう♪」
「えー、ガレイドの胃袋微妙だもん」
「なっ!?」

どうやら ’食べないで’ とでも言う様子思い浮かべていたのだろうか。
完全に虚を突かれたようで口をポカンと開き、暫くはその調子で居た。
その後、僅かに紅潮したガレイドは目線を外した。

「ふぅ……僕を食べたいんでしょ?」
「勿論だ。少し、腹が物足りないんでな」

僕は肩を落として、溜息をついた。
どちらにしろ補食される状況は揃ってしまった。
胃液を掛けられてしまった状態では、自分一人では何もできない。
十分な睡眠を取って、失った生気等を補うまでは歩く事すらできない。

「では、頂くぞ♪」
「ささっと食べてよね、もぅ」

ガレイドがべろり、と頬を舐め上げた。
先程とは違う質感の粘液 唾液だ。
胃液とは違った生暖かさにどろぉ……と音が立ちそうな粘性。
普通の獣よりも粘性に富んだそれらは
被食者により喰われると言う実感を味わわせ、精神的に体力を削るだろう。

「ん? 今日は味が違うな」
「……食べ過ぎだからでしょ」
「お前、疲れてるな?」
「まあね、ガレイドが胃液を掛けるから!」

疲れているのは当然だ。
終日菫に尽きっきりだったのだ。
精神的な気疲れは、相当な疲労を齎した。
大した運動もしていないと言うのに、体は倦怠感を酷く訴えている。

「それなら、すぐ胃袋に……なっ!」

ばくっ、ごくり♪

まさにそれは神速だった。
一瞬で視界が闇に包まれ、喰われたと言う事実を肯定する頃には
すでに顔が喉肉に埋まっていた。
まだ呑み込まれていない下半身をバタバタさせようとするも
舌で押さえ込まれたうえに、疲弊しきった体は上手く動かなかった。
ずぶっ、と体がさらに喉に引き込まれる。
その後、何度も蠕動運動が繰り返され僕の体はすぐに呑み込まれてしまい
食道を嚥下され、胃袋へと落ち込んでしまう。

「はぁ……疲れた」
「ずいぶんと重く感じるぞ?」
「ガレイドに食べられるとか、ツいてないなぁ……」
「それは、どう言う意味だっ」
「言葉のままだよ」

と、胃袋の膜が僕を包み込む様に形を変えた。
ぴったりと密着し命の温もりを僕に与えてくれる。

「まぁ、そんなお前を労るのも私たちの仕事でもあるがな……」

そのままゆったりと胃袋内は振動し、心地よさを与えられる。
ガレイドの胃液の効果は絶大で、すぐに睡魔に襲われてしまう。
そして、その揺籠のような胃袋のお陰で睡魔は数瞬で莫大になる。
あまり重さを感じられなかった瞼が掌を返した様に重くなる。

「ふぁ〜、お休み、ガレイド」

遂には欠伸が自然と零れ、知らぬ間に僕は微睡みに落ちていたー




「ゆっくり眠るが良い。私が揺籠になってやるからな」





<2012/04/30 23:55 セイル>消しゴム
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