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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− 『思い切って裏通り……』  −
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人混み通るのも嫌だし、車道に寄るのもなぁ……
よし、裏通りだ!
そう考えた僕は門からすぐ横の道にそれ、裏通りに入る。
そこは午後だと言うのに裏通りは薄暗く
異様な雰囲気を醸していた。
危険で、どこか近寄りがたい雰囲気。
裏通りに一歩踏み込んだだけで空気が冷徹になり
肌に纏わりつくような嫌らしい空気に感じられた。

「そっちに行ったぞ! 今日こそ捕らえろ!」

前方から張り上げられた声が飛ぶ。
恐らく衛兵の声のようだ。
声が聴こえて数秒、黒法衣に身を包んだ何者かが現れる。
一瞬、その何者かと目線が合う。
……今、笑ったような
次の瞬間、僕はその黒法衣に身柄を押さえられてしまう。

「止まれ。そこを動けばこいつの命は無い」

低く重たい声。殺気を剥き出しにした他者を圧する声。
袖から鋭爪がぬっ、と現れ首筋に当てられる。

「全員止まれ……その人を離すんだ!」

武装した衛兵は完全に手足を止め、この状況を打破しようとする。
しかし、無関係の人の命がかかっている為に、ふざけた真似は出来ない。

(このままいてくれれば良い。危害は加えない)

「えっ……」

それが黒法衣の囁きだと理解するのに数瞬を要した。
この獣人は……殺す気が無い?
獣人だと分かったのは首の鋭爪が作り物ではなく
自然体であるのと
獣人独自の匂いを漂わせていたからだった。

「お前はもう逃げられない……大人しく縄につけ……」

そのとき、ごそっと小さな音が零れた。
人質になっている僕にしか聞けないような音。

「フッ……」

笑った……? この状況で……?
と、視界の隅で何かが黒光った。
……銃だった。
乾いた銃声が辺りに響いた。

「全員ふ……」

瞬きの瞬間に閃光が煌めいた。
それに続く、衛兵の断末魔。
そして、外れる黒法衣の外套。
銀色の体毛に包まれた、狼獣人。
その口元がは密かに緩んでいた。
もう……衛兵は追ってこない。
それが分かった獣人は約束通り、僕を解放した。

「……魔術」
「ほう、魔術の心得があるのか?」

先程の閃光は魔術ー
と、言う事は魔術師ー

「悪かったな。巻き込んで……しかし、もう止めるんだな、ここを通るのは」
「人喰い狼魔女、フローラさん……ですか?」
「……そうだが?」

過去にここで指名手配の張り紙でこの顔を見た覚えがあった。
まさか、当の本人だとは思わなかったが。

「なぜ、追われる身に?」
「何故教える必要が?」

人は見かけに寄らないとは言うが……
理由は一つ。人質に取られた際の言葉。
あの言葉が手配犯には出せる物ではない。

「貴方は……何もしていないんじゃないんですか……?」
「……私の気が変わらないうちにさっさと行け」

……答えを隠して、背を向けた……?
これは近い問い掛けだった……?
恐らく、この人は犯罪は何も犯していない……
今の殺人を除けばの話だが。

「もしや……貴方は……」
「黙れ……」

身を翻したと思った瞬間、銃口が僕に向けられた。
その構造……
今や、出回っていない激レアの魔銃……
魔術媒体を打ち出す特殊な拳銃。
先程の衛兵も打ち出した魔術媒体での遠隔魔術。

「他人の罪を被っている……そうですね?」

正確とは言えない。
今の状態で頭をフル回転させて導いた答えがそれだ。
所詮、他人事で僕が関わる必要性は全くない。
にもかかわらず、何故か関わる必要性を感じられた。

「黙れ……罪を被ってなどいない……私自身の罪だ!」

銃声が響き、耳元で閃光が煌めいた。
皮が爆ぜ、鈍い痛みと共に少量の血が散る。

「くっ……」
「次は心臓を狙うぞ? さぁ、去れ」

言葉に嘘、偽りは無い。
次弾魔術は容赦なく心臓を貫くだろう。
それでも退く気が湧かなかった。

「いえ……貴方は罪を被っている……違いますか?」
「…………」

フローラさんは無言を貫いた。
僅かだが魔銃の銃口が震えていた。
そして……魔銃が降ろされた。

「今は話せない……次逢ったときにでも話す、だから、今は去ってくれ」

その表情は長髪に隠れて窺う事は出来なかった。
突然、調子を失う声。
まるで、過去に縛られた自分を見つけてしまったような
そんな感じ……

「……分かりました」

異様な落胆ぶりに戸惑いを隠せず、心配まで生じてしまう。
だが、これ以上フローラさんを気付ける訳にはいかないので
仕方なく、僕はその場から消える様に去った……



<2012/03/23 15:20 セイル>消しゴム
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