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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A

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狼と狐のち日常
− 『たまには別の道で』 −
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いつもの道じゃ、つまらないしなぁ。
不意にそう思った僕はいつもとは反対側の歩道に移った。
相変わらずの人通り。
車道に寄らないと人混みに突っ込みそうだ。
ただでさえ往復で疲労するのに
人混みに突っ込んで余計に疲れたくはない。
それらを避けて、仕方なく車道側に寄ると
前方の人とぶつかりそうになり、慌てて足を止めた。

「あっ、済みませんっ」
「貴様っ!何処を見て歩いている!」

怒声が鳴り響く。
珍しい銃剣を腰に携え、軽鎧で武装した灰の狼獣人。
眉間に皺を寄せ、右手が銃剣の柄を握る。
まずい、喧嘩早い人だ……
ある程度の護身術は使えるがあまり得意ではない。
それにこんなところで騒ぎになれば
菫がどう出てくるか分からない。

「止さぬか! ヴィクス」
「ぐっ……」

ぶつかりかけた女性の声。
覇気の籠ったその声は狼獣人の行動を制し、僕を圧倒した。
美しい紅の鱗に身を包み、その蒼玉は凛としていた。
艶めいた長髪を優雅に垂らした竜人。
その竜人が只ならぬ者である事はすぐに分かった。

「済まぬな。私の補佐がいらぬ世話を」
「あ、いえ……こちらこそ、不注意で……」
「いや、ぶつかっていないから謝る必要は無い」

竜人は僕に微笑むと補佐に体を向ける。

「さて、ヴィクス? 少し過保護じゃないのか?」
「お嬢様の身に何かあっては、との行動です」
「……剣を抜こうとするのは感心せんな」
「申し訳ありません」

やり取りを見ているとどうも、位の高さを感じさせる。
装備も装飾品も豪華な物に、上質な物ばかり……
どこかの王族かな?

「……迷惑をかけた。申し訳ない」

腰に手を当てた狼獣人……ヴィクスと言うらしい。
ヴィクスは申し訳なさそうな表情で頭を軽く下げた。
普通ならあまりよろしくない謝り方だが
その表情から誠意はひしひしと伝わってくる。

「あ、いえ。ぶつかった訳じゃないので……」

なんだか、こっちが悪者みたいな気になってくる。
慌てて顔を上げてもらう。

「ふぅ……許してやってくれるか?」
「あ、勿論ですよっ、僕のほうが悪いですから」
「悪いな、恩に着るよ」

と、竜人が長髪から髪留めを外し
僕の手を取って、手に乗せた。

「迷惑代だ。受け取ってくれ」

呆気にとられて反応に困り、苦し紛れに髪留めを見る。
金を主軸に作られているらしく重みを感じられる。
さらに驚く事に、大粒の(直径3cm程)のルビーが嵌め込まれている。
非常に高価な筈……

「いえっ!僕は何もっ……」
「私なりのケジメだ。何も言わず受け取ってくれ」

それでも僕は受け取る心は持ち合わせてなかった。
狼狽えて返そうとして、見上げたその表情に衝撃を受けた。
真剣そのものの表情。
サファイアの河の中には揺るぎない信念が燃え盛り
決して彼女は折れない事を悟った。

「……有り難う御座います」

素直に受け取り、頭を下げた。

「私はルーテル。ルーテル=F=レッドマーズだ。今度あった時は喫茶店に連れさせてくれ。ヴィクス……行くぞ」


身を翻し、補佐ヴィクスを背面に従わせその場を去っていく。
僕はその姿に見とれていた……



<2012/03/23 15:17 セイル>消しゴム
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