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狼と狐のち日常 − 旧・小説投稿所A
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狼と狐のち日常

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「菫〜行くよ〜」
「む、もう行くのかえ?」
「準備できてないなら早くして〜」

朝食を終えて、冷蔵庫が空。
と言う訳で急遽、買い出しにいく事になった。
いつもは徒歩で城下町に向かうのだが
今回は菫が送ってくれるそうだった。
無論、往復だ。
それなりの私服に着替え、玄関で菫を呼ぶ。
何を準備しているのか分からないがまぁ、良いか。

「ほれ、待たせたの♪」

ぬっ、と家陰から黒狼が姿を現し
腰を降ろして、姿勢を低くする。

「じゃあ、行ってくるね、フラウ」
「はい、お気を付けて。ベッドはしっかりとしておきますね」
「……ごめんね、椛には言っておくよ」

唾液の染み込んだベッドは漸く洗濯が終わり
天日に晒して、乾燥中である。
’行ってらっしゃいませ’と礼儀正しく頭を下げたのを確認して
菫が大地を蹴った。
物凄い浮遊感が僕を襲い、思わず黒毛を握りしめて体をそこに留めようとした。

「掴んでおれ、拾うのも面倒じゃからの」

広大な緑の大地の中で目指す城下町は矮小に映った。
家から城下町までは下りが続く。
菫は軽く飛んだつもりでも、着地側が下がっていく。
結果、長距離飛んだ事と変わりはない。

「ちいとばかし来るかもしれぬ♪」

しかし、菫は綺麗に着地した。
衝撃を完全に強靭な足腰で吸収し、体に負担をかけない。
無論、僕にも衝撃は皆無。

「大丈夫?」
「ふっ、儂を舐めるでない♪」
「時間あるから、ゆっくりでいいよ」
「うむ、分かった」

綺麗に着地した事で、スピードが緩む事はなかった。
そのままのスピードで城下町に進行しそうだったので
取り敢えず、制する。
菫はスピード次第に緩め、歩行に移る。

「しかし、まだ距離はあるのぅ……大変じゃろ? 徒歩では」
「うん、大変だよ」
「帰りは荷物あるしね……」

徒歩で向かうと片道2時間はかかる。
帰りになると大量の食材を持っての帰路のため
溜まる疲労は相当なものになってしまう。
いつもは桜華郷という運送屋(タクシーのようなもの)に帰路を頼むのだが
前回は臨時休業で休みだったのだ。
……桜華さん、体調崩してたのかな?
今度、お見舞いにでもいこうかな

「運送屋……ふむ、そんなものまであるのかえ?」
「桜華さん、林檎が好きだから買っていくと家の近くまで送ってくれるんだ」
「ふむふむ、今度からは儂が送ってやろう。浮気はさせぬからな♪」
「浮気って……そんなつもりないからね!」

突然何を言うかと思えば……
いつ菫とそんな関係になったのやら、覚えはない。
それか……無言の圧力?
’お前は儂のものじゃぞ’という……
(菫……恐るべし!)

「ほれ、着いたの」

門のすぐ側で腰を降ろし、姿勢を下げる。
僕はするっと菫の背中から地面に下りると

「はい、これ。離さずにつけててよ」
「何じゃ? これは」

菫に渡したのは’走獣証’。
主に移動用に使役している大型獣の証明に必要なものであり
これをつけていない獣は衛兵の討伐対象になりかねないのである。
桜華郷のお世話になっている僕はすでに貰っていたものだった。
本来なら、衛兵に話をつけ運送屋に旨を伝える事で貰えるものだ。
その走獣証を首にかけてやり、菫に促す。

「買い出し終わったら戻ってくるからここにいてね?」
「うむ、分かっておる」
「……人食べちゃダメだよ?」

’分かっておる’と少々苛立ちを潜ませた声が返ってくる。
これ以上、口を酸っぱくするのはよろしくないので
早々に外門を潜った。
自然に溢れた世界から隔てられ
活気の満ちあふれる人間で満たされた商店街が広がっている。

「いつ来ても人が多いなぁ……」

いつも人の少ない自宅にいる僕にはその凄さに圧倒されてしまう。
人間に、狼、狐等の獣人、竜人の姿もある。
赤、青、黄、緑……この町一つが色鉛筆のようでもあった。
獣車、竜車も多くある。
人々にとって重要な移動手段であり
引く獣達も餌を貰える。とても良い共生であった。
買い物袋を腕に通し、溜息をつく。
あまり、人混みを通るのは好きじゃないんだけどなぁ……



the Choices 1

 ・いつもの道で行こうかな
>> 16
 
 ・たまには別の道で
>> 17

 ・思い切って裏通り……
>> 18

・菫が呼んだような……気がした
>> 19





<2012/03/23 15:14 セイル>消しゴム
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