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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜 − 旧・小説投稿所A

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捕食旅館へようこそ 〜 ご主人様は肉の味 〜
− ゲットだぜ! −
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カイオーガは頭を抱えていた。
左のヒレで食卓の上の一枚のチラシを押さえ、右のヒレには特注品のシャーペンを握り締めている。
キュッと蛇口の閉まる音がしたかと思うと、皿洗いを終えたレムリアが、手を拭きながら彼に近寄った。

「珍しいわね、貴方がデスクワークするなんて。何か絵でも描いてるの?」

「……ボク、パラパラ漫画ぐらいしか描けないよ。ちょっとこれ見てくれる?」

カイオーガがチラシをひっくり返すと、レムリアの顔に衝撃が走った。
丸っぽい筆跡の数字や記号が、膨大な数式となって所狭しと書き殴られている。
数学嫌いのロンギヌスが見た暁には、一瞬で泡を吹いて卒倒するに違いない。
レムリアが圧巻された様子で理由を尋ねると、カイオーガは苦笑いしてチラシを表に向けた。


「全地方の計算好き、集まれ! だってさ。数学グランプリ2012。
ホウエン大学が主催してるんだって。入試問題から抜粋してるらしいけど……」

「ホウエン大学?」

レムリアは丸い目をより一層大きくした。ホウエン大学といえば、全地方の中でも最高学府に値する大学だ。
そこの入試問題ともなれば、一般的な教養しかない者にはまず解けない。会場にてその問題を目の当たりにした際に、吐き気を訴えて退場する者もいたとか。


「それじゃあ貴方……その大会に参加するつもり?」

「ううん、もう出てきたの♪」

「で、出てきた?」

「うん……準決勝でカントー地方の選手に負けちゃってさ」

そもそも準決勝まで勝ち進んでいたことにレムリアは開口した。
当然、全国大会なのだから参加者数も膨大となる。おそらく20000人は下らないだろう。
そのほとんどを蹴散らし、しかも初参加で準決勝までのし上がれるほどの数才。レムリアは溜め息をついた。


「じゃあこの問題って……準決勝の復習でもしてるの?」

「そうじゃなくてこれ、3位決定戦の問題なんだ。めちゃくちゃ難しくてさ……」

決勝と準決勝以外の対戦は、すべて数式と答えを書いて本部に郵送するというものだ。
とどのつまり、参考書などのカンニングが容易に出来るということだが、そんな程度で解けるのなら苦労は無い。
とにかく絵に描いたような「難しさ」なのだ。


「あっ、そうだ!! バビロンなら絶対解けるよね?」

「今頃きっと爆睡してるわよ。私たちと昼夜がほとんど逆転してるもの」

どうせ彼が起きていたところで、途轍もない報酬を要求されるだけだ。
カイオーガは落胆した様子で座り直し、再びシャーペンを取った。
その時、背後でドアの開く音がした。レムリアが振り返ると、丁度、学校を終えたロンギヌスが意気揚々と入ってくるところだった。
スキップ調でカバンを放り出してまずキッチンに向かい、彼は冷蔵庫の扉を盛大に開けた。
チッと舌打ちしたことから、きっとたいした物が無かったのだろう。

「レムリア〜、なんか無い?」

「何も無いわよ。月末だもの」

ハムやチーズを迂闊に冷蔵庫の中に残しておくと、大抵の場合ロンギヌスが片っ端から肴にしてしまう。
その習性をとっくに把握しているレムリアが、月末にそんなミスを犯す訳もなかった。
ロンギヌスはふてくされた顔で戸棚を漁り、コーヒーカップを取り出した。


「あ〜あ、やっぱり新鮮な食料庫みたいなの欲しいよな。一気にまとめ買いしてさ」

「まとめ……買い……?」

そのとき、ペン回しの最中だったカイオーガの目が光った。
何かに突き動かされたかのように、シャーペンの芯先がチラシの裏面をサラサラと流れるように駆け抜ける。
どうやら、ロンギヌスの発した「まとめる」という言葉にヒントを得たようだ。
数式が徐々に短くなっていくにつれ、カイオーガの顔に笑顔が咲いた。
そしてーーー



「できたぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

「え、凄いじゃない!!」

「えっ……何が?」

賞賛を贈るレムリアと、素っ頓狂な顔で固まるロンギヌス。
カイオーガは椅子をガタンと鳴らして立ち、コーヒーカップを手にしたままのロンギヌスに飛びついた。
ガチャンという陶器の割れる音が響いた。

「マスタァありがとーっ!! これで皆で温泉旅行行けるね!!」

「お、温泉……? 何の話だよオイ…」

「あら。もしかして3位の賞品って、家族で温泉旅行なの?」

「うん♪ 全国の好きな旅館から選べるんだって!!」

なんとも豪勢な話だ。カイオーガは早速荷物をまとめに行ってしまった。
ロンギヌスは膝をつき、砕けたカップの残骸を拾い集める。

「おいおい…何の話か知らないけど、その賞品とやらって絶対に当たるのか?
正解者の中から抽選で何名様、みたいな感じじゃないのか?」

「あ、それは……どうなのかしら……」


ロンギヌスの心配は、ものの見事に絵空事となった。
一週間後、赤っぽい銅メダルとともに、「副賞」と書かれた封筒がリーグに送られてきたのだ。
銅メダルは数時間で行方が分からなくなったものの、カイオーガはそれから三日間、暇さえあれば6枚のチケットを見つめて笑顔をこぼしていた。



<2012/03/12 03:42 ロンギヌス>消しゴム
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