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不意に訪れた死 − 旧・小説投稿所A

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不意に訪れた死

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今日はなんだかいい日になりそうな気がする。
直感だけど、そう感じた。

それが昨日までのボク。
そして今のボクには、そんなことを言う余裕も希望もなかった。

目を開けたとき、視界に広がったのはいつも見慣れた空の青だった。
だけど何かが違う。
それを探るためにボクは体を起こした。

……おかしい。体が動かない。
そう思ったとき、気がついたんだ。
ボクはあの恐ろしい台座の上にくくりつけられていることに。




ボクは小さな村の集落で生まれた。
両親は、ボクに『カイン』という名前だけを残して亡くなった。

故にボクは親の顔を知らない。
ずっとおばあちゃんに育ててもらっていたんだ。

親がいないだけで、周りとは何も違わないのに、村の子供たちの間では、浮いた存在だったボク。

ほんの数年前におばあちゃんも死んじゃって、ボクはまだ十歳なのに一人で暮らさなくてはいけなくなってしまった。

孤独は辛い。
だけど、仕事をしている間はそんな気持ちも忘れていた。

毎日毎日の村での仕事が、ボクを落ち着かせていたのかもしれない。

でも、唯一ボクが苦手な仕事があった。
これは、村の中では最重要秘密。

僕らの村には月に一度、神様に貢ぎ物をしなければいけない日がある。
その貢ぎ物が果物とかお米とかならいいのだけど、残念ながらそうじゃない。

貢ぐものは〈人間〉。
つまりはそう、『生け贄』である。

ボクはその生け贄を、ある台座の上にくくりつける仕事をしていた。
生け贄がぐっすり眠っているその間に。

その台座の上に、ボクはくくりつけられている。
そう、ボクは今まさに〈生け贄〉なのだ。

早く抜け出さないと、大変なことになる。
慌ててきつく巻かれた縄に手をかけるものの、焦りと恐怖とでなかなか思うように手が動かない。

「くそ……はやく、はやく!」

ガタガタと震える指を必死に堪える。
先程から臭う、生臭い血のニオイ。
こびりついた黒い点

それが僕の鼻に容赦なく突き刺さり、思考力を低下させる。

縄はいっこうにほどけずにただ時間だけが過ぎていく。
必死になっているボクの耳に、恐れていた音が流れ込んできた。

『貴様が今宵の貢ぎ物か』
びくりと体がすくむのを感じた。
額は疲労とは別の嫌な汗で濡れている。

ゆっくりと顔を上げると、そこには、今まで見たこともないほどに大きな緑色の龍がいた。

「れ、レックウザ様……」

実際に見たことはないけど、名前だけはこの村にいる誰もが知っていること。
その場に彼がいるだけで、辺りの空気の質が変わるような、圧倒的な存在感。

我を忘れたかのように、ボクは神様の名前を呟いた。

『まったく、最近の村の連中は倹約になりおって……。年々、貢ぎ物が小さくなっておるではないか』

その目はボクにではなく、遠いどこかを見つめている。
そして、目線をボクに戻したとき、背中に悪寒が走った。
まるで体が凍ってしまったみたいにボクは呆然と巨大な龍を見上げている。

「お、お願いです。ボクを……ボクを見逃してください……」

口が強張り、言葉を発する度にガチガチと歯が震える音が聞こえる。
神様はボクをじっと見つめたままだ。

『ふん、命乞いなどしても無駄なことだ』

どういう原理か分からないけど、宙に浮いたその大きな緑色の体を巧みに動かし、巨木ほどもある太さの胴体でボクに巻き付く。

さっきまで懸命にやってもほどけなかった縄が、いとも簡単に引きちぎられた。
けれど、不安だけは更に膨張していく。

徐々にボクの体は、レックウザ様の顔の近くまで運ばれていった。

レックウザ様の鼻息が、首筋の毛をなびかせる。
生暖かい、とても嫌な感じの風だ。

「いやだ……まだ死にたくない」

『恨むなら我輩ではなく、村のものを恨むのだな』

はっと顔をあげると、ニタリと笑う野獣がそこにいた。
刹那、体が軋むのを感じた。

「あぐっ! ひぅ…………ぁ……」

息ができない。
何が起きているのかよく分からない。
分からないまま、ボクは苦しんでいる。

村でもそうだった。
なぜかはよく分からなかったけど自分は確かに苦しんでいた。
目には見えない周りとの壁を気にしていたからなのかもしれない。
でもそれは、はっきりとした理由ではない。

意識が薄れていくなか、ボクはそんなことを思っていた。

『さて、ぬしよ。楽に死にたいか、苦しんで死にたいか、どちらか選べ』

これ以上何を苦しめというのだろう。
ボクはたまらずこう言った。

「もう、苦しみ……たく…ない……」

精一杯の声を絞り出す。
その願いが通じたのか、急に体が楽になった。

「げほっ! うぅ……」

体に力が入らず、首をがっくりと折らざるをえなかった。
顔を上げる余裕もない。
そんなボクをレックウザ様は持ち上げて口を開けた。

燃えるように真っ赤な口内。
奥に行くにしたがって、その色は徐々に赤黒いものに変わっていく。
所々で唾液が糸を張っていた。

『安心しろ。貴様の骨も血の一滴も無駄にはしない』

違う。ボクはそんなことを望んだんじゃない。
ただ生きて帰りたいだけだ。

「ぃゃ…………たす…け」
そんなボクの悲痛な声を聞くわけもなく、巨大な悪魔はボクを放した。
重力という太古より続く地球の力に従って、ボクは暗い暗い闇の中へと、吸い込まれていった。

“バクンッ!”







顔を舌に押さえ付けられ、うまく息ができない。
暴れれば、その分だけレックウザ様の唾液が体に絡み付く。

「あぶっ! ……ひぁ……」

顔が濡れている。
それは涙なのか唾液なのか、もう分からない。

長い長いレックウザ様の咀嚼が徐々に落ち着いてきた。
もう、息をするのも辛い。
それでも、ボクは必死に生にしがみつく。
まだ死にたくないんだ。

「小僧のくせによく頑張るな。それは誉めてやろう」

「た……すけて……くださ、い」

口を開けば、生臭い液体が入り込んでくる。
気持ち悪いけど、今はそんなことを気にしていられない。

「言っただろう。ぬしは我輩に対する生け贄であると」

口内が角度をつけ始める。
ずるするとボクは奥へと滑り込んでいく。

つかむものが近くにないせいで、ボクはいとも簡単に流されていた。

「ぬしを逃がす理由が、我輩にはない」

次の瞬間。ボクの足が暗い穴の中へと落ちた。
それをきっかけに、ボクの体は凄まじい速さで吸い込まれていく。

「うあぁぁぁああぁっ!」

“ゴグリッ”

鈍い音と共に、ボクはレックウザ様に飲み込まれてしまった。











少年のなめらかな喉ごしに感動しながら、我輩は舌舐めずりをした。
小さい獲物だったが、なかなか楽しめたものだ。

「しかし村の連中め、貢ぎ物を小さくするとは、いい度胸だ」

視線を、遠くに見える小さな村に向ける。
これは罰を受けさせねばならない。

「ククク。今日は何匹喰えるだろうか」

顔に浮かび上がるにやつきを抑えられず、そのまま我輩はあの村を目指す。

腹の中では、あの少年が必死に暴れていたのだった。


リク二つ目消化!(≧∇≦)
なかなか順調です( ̄∀ ̄)

ブログもちょっとずつ更新してるから、皆さんたま〜に見に来るといいかもですwww
『ミカ 捕食』でググればでるはずですw

ではまた次回でお会いしましょう♪
<2012/09/10 08:01 ミカ>
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