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【保】いない - 旧・小説投稿所A
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【保】いない
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渓流は夕日にきらめいて、橙色に染まっていました。
森の中を流れる川は、夕焼け空を映しながら走っていきます。
進んで、躓き、落ちて、開いて。
跳んで、戻って、歪んで、弾けて。
夕焼けの水はまるで甘い甘い蜜のように、緩やかに流れていきます。
木漏れ日は夕日にきらめいて、ほの暗く黄昏に色づいていました。
川を取り巻く森は、がさごそと音を鳴らしています。
夕焼けを浴びて大きな影を作り、まるでまどろんでいるよう。
水面をかげらす影は、川の水とともに揺らいでいます。
滝に連なる川を包む森は、黄金色の光を受けてしめやかに佇んでいるのです。
彼女は、きらめく夕日を受けて、そこにいました。
夕暮れの森の中。
夕暮れの滝の下。
シャワーズは、待っていました。
否、もはやそれは、シャワーズではないのかもしれません。
それは、ヘドロで形作られていました。
下半身はどろどろと崩れ、地面にうずたかく積もっています。
それが動いた跡が、なめくじが這ったような跡のように、至るところに残されています。
辺りには悪臭が漂い、生物を寄せ付けません。
それは、待っているのです。
ただただひとり、待っているのです。
「――――」
後ろから声が聞こえました。
優しく彼女の名前を呼ぶ声が、
幾度となく鼓膜を震わせた声が、
全身余すところなく隅々まで響きわたる声が、
心に沁みこんで染み付いて離れないあのバリトンが、
ずっとずっと待ち侘びた彼の声が、確かに聞こえたのです!!
ぱっと笑顔を迸らせて、彼女は振り返りました。
黄昏に染まるせせらぎ。橙に色づいた木漏れ日。
そこには、待ち焦がれた想い人が、
いない 了
以上、いない Episode "Nowhere" はおしまいです。
最後までありがとうございました。
以降、EPISODE "NOWHERE"をお送りする、予定、です。
よろしければ、今しばらくお付き合いください。
<2011/12/16 21:56 ホシナギ>
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