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【保】神々の戯れ〜初めて出会った日〜 − 旧・小説投稿所A

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【保】神々の戯れ〜初めて出会った日〜

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徳川が治める世が始まってまだまもない頃。
九州のとある山の奥で二頭の龍と竜が向かい合っていた。
水神の父と水神である。

「水綺(ミズキ)、今日付けでお前にこの地の水の守護の役を委ねる」

「はい、父上」

「私は母さん一緒に隣の山に隠居する。何か困ったことがあったらいつでも来なさい」

「分かりました」

「うむ、良い返事だ。これからこの地を頼んだぞ」

水神の父はそう言うと、隣の山に向かって飛び立った。
たった今を以て自分が水神の座を襲名したのだという事実が水綺を、いや新しい水神の若き心の炎に使命感という燃料を注いで燃え上がらせる。

「よし」

水神は気合いを入れるために顔をパチンと叩き、空へ飛び立った。

「雪だ」

分厚い灰色の雲から雪が舞い降りてくる。
下には人間の小さな集落がポツポツと散在していたが、この寒さと悪天候のせいかいずれの集落でも誰一人として外を出歩いている者などいなかった。
人間たちに自分の偉容を知らしめようと考えていた水神であったが、誰もいなければ知らしめようがない。

「仕方ない。今日は帰ろう」

水神は旋回し、自分が新しく住まうことにしている岩山に進路を向けた。
雪はやむどころか次第に激しさを増していき、吹雪のようになってくる。
なんだか自分の門出にケチをつけられているような気がしてきて、水神はだんだんと不機嫌になっていった。

「ヘクチュン!ああ、もう!」

苛立ちを覚えながら、岩山に荒っぽく降り立つ。
水神は扉代わりの岩が置いてある場所に向かった。
そして岩を退けて洞窟の中に入ったとき、あることに気付いた。

「あれ?何か匂う。まさか侵入者?」

水神は自分の縄張り、しかも一番プライベートな場所に何者かが侵入しているという事実に強い怒りを覚えた。

「おのれ……!」

忍び足で水神は奥へと向かう。
すると居間として使う予定にしていた広い場所から明かりがもれてるのが見えてきた。
間違いなく誰かいる。
水神は侵入者が何者なのか探るために気配を消しつつ、そっと覗き込んだ。


広い空間の中央に、一匹の兎がいた。
しかし体が普通の兎よりもずっと大きく、人間くらいはある。
おまけに白い狩衣を着ているから、おそらく妖怪か精霊の類いだろう。

「おっ、焼けた焼けた。やっぱり冬は餅に限るねぇ」

その兎モドキは呑気に七輪で餅を焼いていた。
こんなどこの馬の骨とも分からないような奴に、竜族である私のテリトリーで好き勝手にされている。
恥ずかしい気持ちと情けない気持ちと怒りの気持ちが交わり、とうとう水神の感情が爆発した。
水神はドンと地面を踏みならし、怒りの咆哮をあげる。
兎モドキはピョンと跳ね上がり、慌てて辺りを見回した。
そしてお互いの視線が交錯する。

「オイ貴様!ここで何をしている?」

「えっ、何って言われてもなぁ。ただ餅を焼いているだけなんだけども、何か問題が?」

兎モドキの飄々とした口調に水神は再び地団駄を踏む。

「そうじゃない!ここは誇り高き竜族である私の住みかだぞ!」

「あっ、そうなの。じゃあ餅を食べたらすぐに出るよ」

水神の目の前で兎モドキは呑気に餅を食べ始めた。

「オイ、貴様は私を小馬鹿にしているのか?」

急に水神の口調が静かになった。

「ハフハフ……。いは、へふひ(訳・いや、別に)」

兎モドキは水神の様子が変わったことに気付かずに餅を食べ続ける。

「我が眷属の水よ。我に力を与えたまえ……」

水神が何やら呪文を唱え始め、地面に手を当てた。
するとその兎モドキの周りを取り囲むようにして水が噴出し、兎モドキへと降り注いだ。

「な、何だぁ?」

水はまるで意思を持っているかのように球体を形成していき、兎モドキを包み込んでいく。
兎モドキは急いで出ようとしたが、水の壁に弾かれてしまった。

「無駄だ!その水は私の妖術で操っているんだ!貴様は水の牢屋に捕まったのだ!」

水神は自信満々に言う。
ところが

「ふぇ……?」

あっさりと水の牢屋が破られてしまった。
兎モドキの手には御神剣のようなものが握られている。
おそらく妖刀の類いであろう。
でも自分の妖術を破るだなんて、と水神は動揺した。

「ゴメンゴメン。別に小馬鹿にしてたわけじゃないよ。ただ竜たちってさ、生真面目でプライドが高いもんだからついついからかっちゃうんだよね」

兎モドキは悪怯れた様子もなくそう言った。

「あんまり変わらないだろうがーッ!!」

水神は肉弾戦に切り替え、巨体を揺らして突進した。



<2011/12/05 23:07 とんこつ>消しゴム
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