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【保】神々の戯れ − 旧・小説投稿所A
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【保】神々の戯れ

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草木も眠る丑三つ時。
真っ黒なローブを身に纏い、フードを深くかぶって顔を隠している不審者が畑で何やら物色していた。

「あれ?この畑にも何もない。変だな、いつもはたくさんニンジンがあるのに」

その不審者は不満そうに呟くと、首を傾げながら畑から出た。

「おかしいな、どの畑にも野菜がない。私が出かけていた間に何かあったのか?……むっ、話し声が聞こえるぞ」

話し声は淋しい寒村の中では一番大きな家からのものだった。
不審者はそっと家に近づき、聞き耳を立てる。

「……最後に雨が降ったのはかれこれ3ヶ月前。もはや限界だ」

「野菜は全て枯れてしまって全滅。井戸も枯れる寸前。このままでは全員死んでしまう」

「やはり水神様に生け贄を捧げて雨乞いをするしかない」

こっそりと盗み聞きしていた不審者は『生け贄』という単語にピクリと反応する。
そして次の瞬間、不審者の姿が音もなく消えた。
一方家のなかでは三人の男たちが暗い顔をして話し合っていた。
もちろん外で異変があったなど知る由もない。


「となると、誰を生け贄に?」

「それが問題だ。希望者を募ろうか」

「進んで生け贄になりたがる変人がいるものか。となると――」

「ちょっと待ちなさい。生け贄だなんて許しませんよ」

その場には似付かわしくない中性的な声が、突然男たちの会話に割って入ってきた。
当然男たちは激しく動揺してあたふたする。

「だ、誰だ!どこにいる!」

「おじゃましますよ」

男たちから少し離れた場所に、先ほどまで外にいたはずの不審者が突然現れた。

「ば、バカな。扉にはきちんと閂(かんぬき)をしているというのに」

「まさか妖怪か!?」

不審者は肩をすくめる。

「まあ似たようものですね」

すると不審者は顔を隠すようにかぶっていたフードを脱ぎ去った。
隠されていた顔を見た男たちは絶句する
彼岸花のように真っ赤な瞳、雪のように真っ白な毛並み。
それは人間ではなくウサギの顔であった。

「月夜兎(ツキヨト)様……!」

男の一人がガクガク震えながらその場に跪く。
他の二人も慌てて跪いた。
『月夜兎』はこの一帯の守り神として人々から崇められている存在。
男たちがおそれおののいたのも無理はない。

「生け贄だなんておやめなさい。そもそも生け贄を喜ぶのは邪神ぐらいですよ」

月夜兎は優しく諭すように言う。

「しかし――」

「話は外で聞いてました。かなり長い間雨が降ってないようですね。知り合いの水神に雨を降らすように掛け合ってみましょう」

そう言うと月夜兎はローブを脱ぎ捨てた。



<2011/12/05 22:44 とんこつ>消しゴム
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