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【保】風の運んでくる音 − 旧・小説投稿所A

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【保】風の運んでくる音

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「ニャーン……」

ふと、私は小さく鳴いてみた。誰に話しかける訳でもなく、
無意識の内にちっぽけな猫という自分の存在を確認したかっただけなのかもしれない……。

今いる私の場所は広い森の中……。草木が生い茂り、日が大して入ってくることの無いような真っ暗な森だ。

「……なんでこんなところに迷い込んじゃったんだろう……」

自分の真っ白な毛並みなど、何度も野犬から逃げている内にくすんでしまい、
尻尾に結んである鈴は力なく垂れ下がった尻尾と共に地面に擦れ、時々跳ねて凜とした鈴の音を辺りに響かせる……。

……私がここに来たのは、いつの間にか野犬に追われて親とはぐれて逃げ惑う内に、
こんな獣も棲んでいないような静かな森に迷い込んでしまったという次第だ。

『ヒュルル……』

こんな森に音があると言えば、時折吹く風の音とそれで木々が揺れる音だけ。それ以外は何もない……。

「餌もないようなここから早く出ないと……
……って言っても、出口どころかどこから入って来たのかももう分からないわね……」

“クスッ……可哀想な子猫ちゃん”

「え……?」

……静かな森の中に声が風に運ばれて確かに聞こえた。
私の三角の耳をピンと立ててその聞こえた声を探す……。

“子猫ちゃん……こっちよ”

また聞こえた。今度は大体の方角も確認できた為、聞こえた右方向に向き直る……。

「だ……誰なんですか?」

いつの間にか私の口からは言葉が出てしまう。ここから出られる可能性を信じて……。

“迷った子猫ちゃんに道を教えてあげるわ……
この森なんて私の庭のようなものよ……さぁ、こちらにいらっしゃい……”

予想的中だ!そう思った時には私は既に声の聞こえた方向へ飛び出していた……!

『ガサッ……!』

雑草の中を越え、飛び出した先には、大きな洞窟が現れた。

「たどり着けたようね、子猫ちゃん……?」

洞窟の中から出てきた声の主は真っ黒の鱗を持つ、紅い目をした10mはあろうかという巨大な竜だった……!

「ふぇ……!?り……竜……!?」

「あらあら…そんなに驚かなくても大丈夫よ……?」

見たこともない竜という存在に私は情けない声をあげてしまう。
しかし、そんな様子の私を見て、優しく微笑む竜の姿と和やかな声色を聞くと、
直ぐに身体の力が抜けてしまうかのように緊張が無くなってしまった……。

「クスッ……私の森の中に迷い込むなんてお馬鹿な子猫ちゃんね」

「ニャ……すみません……」

竜の優しく私を撫でる手に、不思議と私はゴロゴロと喉を鳴らし、スリスリと甘えてしまう……。



<2011/11/25 21:40 蒼空>消しゴム
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