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バベルの塔 − 旧・小説投稿所A
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バベルの塔
− 罰 −
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「…うッ….此処は……」


ツンと鼻を刺すような薬品の臭いに包まれた部屋で、バビロンは重い目蓋を開けた。うす暗い視界にまず飛び込んできたのは、ぼんやりと浮かぶ6つの影。次第に意識がはっきりしてくると、それはやがて男達やポケモンの姿になった。


「…よく、眠れたかな? 再起動も遅いとは呆れたものだ」

「そのポンコツ竜を造ったのは誰だと思ってる」

「フン….相変わらずネジが一本取れたような性格だな。……まあいい、何はともあれ縛らせてもらったよ。我々の安全のために」

「……それはどうも」


吠えるようにそう言うと、バビロンは今度は自分の状況を見回した。イエス・キリストが処刑されたような巨大な十字架に、自分も磔にされている。ご丁寧なことに、腕や脚の関節には手錠まで施されていた。


「…随分と厳重だな」

「君が暴れん坊なのは百も承知なのでね。さて本題だが……」

「……ん? お前は……」

「ああ…紹介は不要かと思うが、私が新社長のブースだ。別に覚えてもらう必要はない」

「私も覚える必要はない」

「そうだ、その通りだ。君が仕事は私の名前を覚えることではなく、私からの罰を受けること」

「罰?」

「フフ…なぁに、ちょっとしたプレゼントだ」


ブースがパチンと指を鳴らすと、作業員と思わしき男が巨大なダンボール箱を運んできた。中に未知の生物でも潜んでいるのか、箱を内側からボコボコと叩いている。作業員はそれを素早くブースの足元に置くと、足早にその場を去っていった。


「この部屋は去年改装したばかりだから君も知らないだろう……新生命研究室だ」

「新生命?」

「バイオテクノロジーの最先端……その『余剰品』を、是非君に受けとってほしくてね」


ブースの腕が箱の中へと伸び、ゴソゴソと何かをまさぐる。その「何か」を掴んでダンボールから取り出したとき、バビロンの表情が曇った。




「…コラッタじゃないか」

「これらは言わば君と同じ、失敗作だ。ちょっと培養しすぎてしまってね。100匹以上いるので…処理に困っているのだよ」



新技術の実験として作られた、大量の余分なコラッタたち。
それがこのダンボールの中身らしい。処分場へ持っていくはずの物を、わざわざ持ってきたという事だろう。



「…それで? その『余り』のコラッタを私にどうしろと?」

「フフ…こうだ」


ブースは不敵に微笑むと、右手に捕らえたコラッタをバビロンの口に押し込んだ。突然の出来事に驚く間もないまま、反射的にそれをゴクリと呑み込んでしまう。


「ゲ…ゲホッ…!! いきなり何を……!!!」

「言っただろう? ゴミの処分に困っていると。そこでここまで到達した君に敬意を表し、新鮮なコラッタをプレゼント、という訳だ」

「な…何を馬鹿な……」

「まあそう言うな。ほれ」



グイッ……ゴクン……


彼を罵倒しようと開いた口に、またしてもコラッタが詰め込まれた。急いで吐き出そうにもブースの腕力は意外に強く、喉に触れただけで思わず呑みこむ。


「フハ….さぞ楽しかろう? ここに至るまで何人もの社員を喰らってきた君なら、この程度は屁でもないはず」

「黙れ……ぅッ……」


呑み終えた三秒後には、すかさず次のコラッタを咥えさせられる。たいした旨味も無い乾いた肉を、バビロンは咀嚼する間もなく胃に送っていく。漆を塗ったような艶のある黒い肌が、むくむくと時間とともに膨らんでいった。


「抵抗すらしないのは褒めてやるが…..無理は止めておきたまえ。吐き戻されても困る」

「フフ…だ、誰がそんなこt…..ぁがッ」

・・ゴクリ・・・




コラッタ食べ放題という、異常な責め苦が始まってから十五分・・・
バビロンの表情が、やや紫色になってくる頃だった。



ギュムッ….ゴクン……ギュムッ……ゴクリ…


「やめろ….これ以上は……ウプッ…」

「おいおい、それは無いだろう。まだ60匹だぞ?」


その六十匹が溜め込まれた、バビロンの大きく膨らんだお腹。いや、最初の十匹辺りはもう溶けきっているだろうが……もはやその大量のコラッタを抱えた腹部は、バビロンにとってただの重石でしかなかった。彼が呼吸するのと同時に、その膨らみが穏やかに上下する。


「フフフフッ……我慢できないなら謝罪してもらおうか。我が社への無断侵入、テロまがいのサイバー攻撃、社員の恐喝や捕食。まだまだあるぞ?」

「断る…」


ブースはバビロンの言葉を見事に聞き流すと、61匹目を口に運ぼうとした。



「…………っ…」

「ほう、今度は黙秘か? いや…顎を閉じたからといって私が諦めるとでも?」


牙をカチンと閉じ、意地でも食わない姿勢を整えたバビロン。コラッタの尻尾を目の前でちらつかされても、流石にもう食欲は湧いてこなかった。これで餌責めから解放される……そう信じていた。






「これだから旧式は読みが甘い….…おい、エクサ」

「はい?」

「こいつはどうやら爆死したいらしい….余興はおしまいだ。後は適当に殺しておけ」

「…はい」


懐からボムメモリを引き抜きながら、牛歩のように時間をかけて歩くエクサ。微かに震えているバビロンの前に来ると、蛍光灯の光にメモリがキラッと輝いた。


キチッ…『BOMB(爆弾)!!』



形容しがたい恐怖が、槍のようにバビロンを突き通す。

自分はこんな簡単に死んでしまうのか?
実感が持てないのは、なぜ?
それらの疑問が言葉となって飛び出るのに、そう時間帯は掛からなかった。




「………ろ……」

「…え?」
「フフ….今、なんと言った?」


「…やめてくれ…….まだ….余興でも何でもすればいいだろう……」


自我を持ってから今まで、責められる立場に立ったことはない。「助けて」「やめてくれ」など、自分の辞書には載っていないはずだった。

歯をカタカタ鳴らし、怯える子犬のようにただ耐える。そして目の前に置かれたコラッタの生肉を、込み上げる恥辱と一緒に呑みくだすしかない。


ゴクン・・・ハムッ…ゴクン・・・

「フフ….そうそう、素直な面もあるじゃないか。やはり死ぬのは怖いのかね?」

「……ぅ……はぁ……はぁ…」


嚥下のしすぎで疲れた喉に、コラッタが次から次へと流し込まれる。チュウチュウという悲鳴が聞こえては小さくなり、その繰り返しだった。今や肉壁の風船となった胃袋を身の内に抱え、バビロンは吐き気を催し続ける。


ゴックン・・・ゴクリ・・・ゴキュ・・・・


ついには意識が朦朧としてくる。唇に押し付けられる薄紫のネズミを、ひたすら呑み込むだけ。その単純作業に、バビロンの目蓋は再び下りようとしていた。



「こら、誰が眠っていいと言った?」

「グゥッ…!!!」


ブースは鬼畜な笑みでせせら笑い、もはや飽和状態のお腹をグイグイと親指で押し込む。非力な人間とはいえ、バビロンに苦痛を与えるには充分だった。食道を、コラッタ達が列車のように逆流してくる心地悪さ。それを堪えるには、バビロンは唾液を飲んで押し戻すしかなかった。


「まだまだコラッタはあるのでね…….ほら、口を開けろ」

「…くs……ぅ….あ……」






<2011/10/31 06:59 ロンギヌス>消しゴム
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