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ぼくのなつやすみ − 旧・小説投稿所A

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ぼくのなつやすみ
− 兄と同じ眼光、兄と同じ血 −
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ところどころ血管の浮き出た、しかしゴム毬のように柔らかい胃壁。
それが瞬きをした瞬間、夢から覚めたかのように消失していた。
新たなる処刑場が、目の前にドンッと顔を出す。


「こ、こん….ぅ…なんだ…この臭い…!!」


バビロンの胃袋とはまた違う….獲物が腐った臭いでも、あの身の毛
がよだつような口臭とも違う。

新鮮感のある、血液の臭いだ。同じ人間のものかポケモンのものか
は分からないが、この生臭さは間違いない。


「(どういう趣味なんだ…この部屋…)」


血の臭いだけならまだ良い方だ。真紅の本棚には無数の本がぐちゃ
ぐちゃに詰め込まれており、天井からぶら下がるシャンデリアか
らは、ポタポタと赤い液体が雨漏りのように滴り落ちている。挙げ
句の果て、隅には中世ヨーロッパの拷問器具らしき道具が置かれて
いた。言うまでもなく、ベットリと返り血が付着している。


「最悪だ….ここ…」


まさかここがレムリアの部屋なら、署長は今すぐ自害するだろう。
だが幸いにして、その心配は無さそうだ。あの世にでも続いていそ
うな扉から姿を現したのは、先ほど遭遇したカイオーガの実弟、
ラティオスだった。


「……ああ….来てたんですか、どうも…」

「え、あ…いえ、こちらこそ」


意外にも紳士的な対応だ。どこかの竜とは違って、顔を見るなり
強襲してくることも無い。部屋がこんなグロテスクでなければ、
温厚な人柄にも見える。しかし彼がパタンと扉を閉めると、次に
ガチャリという不吉な音が聞こえた。


「お、おい…どうして鍵を…」

「フフ….今さら愚問じゃないですか。目標、標的……いや、
獲物が逃げたら困りますからね」


彼が嘲るような笑みを浮かべた瞬間、署長はその手にコップが握られ
ているのに初めて気付いた。なみなみと、赤い液体で満たされている。


「な、なんだ…それは…」

「とある物から…時間をかけて搾り取ったものですよ。
それこそ….皮だけになってしまう程にね」


そう悟りながら、スーッと近づいてくるラティオス。
次の瞬間、署長の肉体は電気ショックを受けたように硬直した。
腕どころか筋一本動かせない。全身の一部を除いて、石にされ
たかのようだ。


「今は僕の時間….あなたの大好きなレムリアさんも、助けには
来れない….いや、どっちみち来ないでしょうがね」

「な……にを…」


異常に強力なサイコキネシス。小指で押し倒せるであろう署長の
面前に、ラティオスの色っぽい顔が迫った。そして真紅の液体が
入ったコップを署長の頭の上に持っていき、クルッと逆さまにした。



ザバァァッ…!!!

「ぁ….ぅぅアッ…!!!」

「フフ…どうですか新鮮一番のトマトジュース。
さっき搾ったばかりですけど….お味の方は♪」

「グ…ガハッ!!」


念力が解除されると同時に、署長はゲホゲホと咳き込んだ。頭から
血のようなトマトジュースを垂らしながら、キッとラティオスを睨
み付ける。


「ハハハ….そんな怖い目しないで。単なる余興じゃないですか」

「何が…余興だ….!!」


ドンと突き倒そうとしたが、細い腕や首のわりにビクともしない。
逆に署長の方がバランスを崩して仰向けに倒れてしまった。慌てて
立ち上がろうとするが、倒れた無防備な獲物を見て、ラティオス
が黙っているはずがない。そのまま腕で床に押さえつけ、口が触れ
合う程にまで顔を近づけた。


「離せッ…..グゥ…」

「トマトジュースがお気に召さないのであれば….もっと真っ赤
なジュース、ご覧に入れましょうか?」


ギラリと生え揃った牙が、カパッと唾液の糸を引きながら開いた。
人間を丸呑みするには至らないものの、噛み殺すのは容易なこと。
だらしなく半開きになった口が、ゆっくりと署長の首筋へと近づいていく。


「ぁ….や、やめて….そんな…」

「一滴残らず吸い上げられて….干からびた貴方も見てみたい。
どんな顔で喘いでいるのやら…♪」


犬歯と思わしき牙に、ゾゾッと首を撫でられる。彼の吐息が直
に触れると、署長は地に落ちた金魚のように全身を悶えさせた。
貴重な血液を飲まれる恐怖は、いまや臨界点に達している。





<2011/09/28 23:00 ロンギヌス>消しゴム
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