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【保】易すぎる依頼 − 旧・小説投稿所A
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【保】易すぎる依頼

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こんな奴相手で、しかも完全にアウェイとなれば…長期戦はどうあっても不利。なら答えは1つ!

「短期決戦で決めるっ!」

拳に力を込め、足をばねのように使い相手の懐…もとい腹に跳びこむ。
大型との戦闘経験なんて皆無に近い。なら何かされる前にこっちが片づけるしかない!

「だからって怖気づくわけにはいかねぇ!」

足を踏み込み、勢いを腕に乗せて振りかぶる。
相手がでかかろうとやる時はやるんだよ!

バシィンッ!

「よしっ!このまま…!?」

続けて連撃をしようと考えた時、腹に食い込んだ手が凍るような感覚が走った。
反射的に手を引き距離を取る。その手を見てみれば少しばかり青い。手の温度が冷えて青ざめてるのか。

「ククク…自己紹介がまだだったの。我は氷竜だ。名の通り氷を司る。故に我の体を伝い、汝(うぬ)の体を凍らすなど造作もないこと」

「ちっ…迂闊に殴りも出来ないってことか。どこを見ても勝てる要素は少ない…」

本音を言えば、勝ち目なんてないと言いたい。けど今からそんなこと言ってられない。
やるだけやって無理なら無理。逃げられる可能性があるならそいつを意地でも掴み取る。
それが俺のやり方のようなもんだ。粘るとこは限界まで粘る。それが俺のスタイルだ。

「かと言って、殴れば俺の手がどうなるかわかんない。しかもこんな短剣であの巨体に傷つけるなんて到底無理な話だ」

「もう万策尽きたと言うのか?ならば我の番といこう」

身を構えて何が来ても対応できるように構える。
氷竜となれば攻撃もやっぱり氷。さっき殴った時もそうだったが、手が凍るような感じだった。なら…

「こういうのは如何かな?」

「っ!ブレスぐらいなら予想はついてたぜ!」

氷のブレスを吐くのを見て後ろに跳ぶ。落ち着いてから自分がいたところに目をやれば、そこには氷が出来あがってる。
あんなの直撃したら、凍傷ってレベルで済みそうじゃないな。第一、そういうことを言える余裕すらないかも、な。

「クク…そうでなくては。久しい客人でもある。楽しませてくれんと我も満足出来ぬ」

「久しいってことは、ここ最近は誰も寄りついてないってことか…」

「大方予想はつくがの。汝らの住むところで、噂と言うものが流れてるそうな」

「あぁ…俺のような賞金稼ぎが消えるって話だ。多分その噂があったから、怪しんでこんなおかしすぎる依頼に手つける奴がいなかったんだろ」

「それがどうだ?汝のような者が今我の目の前に現れているではないか。汝からは見えぬかもしれぬが、我はこれでも嬉しく思うてるのだぞ?」

「そいつはどうも…俺は早いとこお暇したいってもんだ。帰してくれないかな?」

「何を言うとる?久しい客人を見す見す帰すなど。我は飢えてるのだよ。それこそ心身ともに、底が見えようとも思えるほどにのぅ」

「なら俺よりも、もっと飢えを満たしてくれる奴はたくさんいるってんだよ!」

そう言い切り、もう一度地を蹴り跳びこみ、腹を殴る。
さほど効かないってのはわかってる。けど何もしないのは好きじゃないんだよ。
たとえ無理とわかってても、無駄な足掻きだとわかってても、俺は往生際が悪いって、昔から言われてるほどだからな。

「汝も少しは体で覚える方が…ぬ?」

「…体で覚える、か。覚えることはキッチリ身に学んでるぜ」

少しの間も置かず離れ手を見るが、今度は手に異変はない。
俺はそれを見て確信を持った。小さい、小さすぎるが、決して無理と言えるわけでないという可能性を。

「魔法石、みたいなもんだ。火の魔法石。こいつは一欠けらだからたいした効力を持たない。だが俺の手を守るくらいの力は発揮してくれる」

「…ククク。小賢しい、と言えばそれで一蹴してしまうが、面白いものだのぅ。そこまでして生に執着すると申すか。実に面白い」

「悪いけど俺だって生きてんだ。生きたいために戦うことの何が悪い?」

「クク…それもそうだの。ならここで、汝の問いに答えたのだから、我の問いにも答えてもらうとしよう」

「問いだと?別に問うよなことなんてないだろ」

「我にはある。汝らと違う我だから」

「…………」

とりあえず、聞くだけ聞こう。構えは解かないぞ。仮にもアウェイだ、変に油断したとこ見せたらそれこそ負けを認めたも同然。
話を聞くにしろ俺は諦めたわけじゃないからな。

「では問おう。汝らが持つものの中で、最も醜いものとは何ぞ?」

「俺たちが持つ、最も醜いもの…?」

「先に言うが、これは我の偏見のもとでの問いだ」

「どちらにしろ、俺なりの答えを聞きたいんだろ?」

「この問いは今までにも幾度としてきたのでな。汝なりの答えを知りたい」

「そんなの知ったところで何かが変わるわけでもないだろ…」

それでも聞かれたのなら一応答える。
変なこと言って問答無用で食われるってのも嫌だからな。





<2011/07/06 22:46 ヴェラル>消しゴム
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