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交錯する証 − 旧・小説投稿所A

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交錯する証

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「凛、こっちに来てくれ」

時は夕暮れ、場は妖虎の祠。
妖虎にとっての自室、そこに凛を呼ぶ。
幼い声が返り、妖虎も重い腰を上げた。
自室の玄関に展開される魔法陣ー

「虎さん、どうしたのー?」
「断罪の時だー」

凛が妖虎のもとに辿り着き、入室した時だった。
凛が引き金となり、地面の魔法陣が眩い光を放ち始めたのだ。
そう、これは破魔術の魔法陣。
大妖も屠れる大型破魔術……
妖虎が用意したものだった。
凛を決して自室に入れようとはせず、自らの爪で地面を抉り
簡単には消えぬ様に深く刻まれた破魔陣。

「さぁ、凛よ。私を葬ってくれ」

腰を降ろし、前肢を揃え上半身を支える。
言わば、お座りの体勢だ。
陣は凛の足下に。後は術者ー
その術者を妖虎は凛にするつもりだった。
無論、破魔術の発動には霊力が必要になる。
それに加え、大型には大巫女のような膨大な霊力を必要とする。
ところが妖虎はその霊力を凛に見出していた。
先日に喰い殺した巫女長をも凌駕する膨大な霊力。
ここまで膨大で横溢している霊力を放つ巫女など
どのような妖でも喉から手が出る程に求めるだろう。
喰らおうものならば、それだけで上位の妖にのし上がれる程なのだから。

「え……虎さん、何を言ってるの?」

恐らくこの先、凛に生き延びる事は出来ないだろう。
今こそ、妖虎がいる事で他の大妖を退けているのであって
その妖虎が死のうものならば、妖の大群が押し寄せてくるだろう。
そんな非力な凛を護りたいという願望があるものの
それは強欲と言うもの。
自ら居場所を奪っておきながら、護りたいなど……
元から子供を奪う目的で巫女らを虐殺したのと同等。
そして、贖罪。
凛みずからの意志、手で葬られる事。
それこそが妖虎の決意、贖罪。

「さぁ……凛。破魔術を射て」

妖虎は静かにそう紡ぎ、天井を仰いだ。
その脳裏を記憶が掛けていく。

数多の人間。

数多の退魔士。

数多の獣人。

数多の巫女。

何も変わらない世界。変わらない時。

血染めの爪。黒ずむ牙。

膨れる腹。谺する断末魔。


記憶の断片に埋もれる妖虎。
不意に優しい衝撃が腹に伝わった。
怪訝に思った妖虎がふと目を遣る。
そこには凛がいた。

「り、凛!?」

あの破魔陣には拘束布陣を掛けてあった。
にも関わらず凛はそれを破り、妖虎に抱きついていたのだ。

「できないよ……虎さんと一緒に居たい」

妖虎に対して、凛は離れる事を恐がっていた。
生まれつき両親のいない凛にとって
妖虎の優しさ、愛情は新鮮であり心を満たすものであった。
凛にはそれが”父親”という言葉に結びつける事はできないが
”ヒト”という種族の本能がずっと持ち合わせている感性がそれを感じさせてくれていた。
大きな手が良しも悪いもすべて包み込んでくれるような暖かさ。
ダメな所もあるけど、頼りがいのある存在。
そんな存在が凛には心から離れたくないという感情を抱かせていた。

「こんな罪深い私にも、まだ利用価値があるというのか……」

やや強めに凛を抱き締め、鼻先を凛の頭部につける妖虎。
そして、一粒の涙を零した。

「馬鹿娘を持ったみたいだ」





名を、フーガと語った。









<2012/06/06 22:43 セイル>消しゴム
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