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交錯する証 − 旧・小説投稿所A

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交錯する証

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その表情は大妖が見せるようなものではなかった。
鬼神のような憤慨を露にしていた表情とは打って変わり
あらゆる顔の筋肉を弛ませ、優しい表情をしていた。
子供をあやす母親のような表情。

「お前は……巫女らの一員だったのか?」

そのまま凛の頭部を愛撫したまま、柔らかい声をかける妖虎。
自然な微笑みを零しながら、凛をあやし続ける。
泣きじゃくる凛も次第に落ち着き、次第に涙が止まっていく。

「う、うん……」
「居場所を奪ってしまったようだ……悪かった」

目線を合わせる様に頭を垂れると
その状態から深々と頭を下げた。

「あ、うん……」

凛はまだ幼く成長し切っていない。
晒された現実も、言葉の意味もはっきりと理解できていなかった。
ここにいる惨殺された巫女達の屍も
奪われた居場所についても、何一つ悟る事もできないのだ。
元々、自ら巫女に志願した凛に居場所は無かった。
出所に身元、名前すらベールを纏ったままで全く情報がない狼だった。
巫女見習いとして巫女と同じ屋根の下で命を分かち合う仲も
今では、凛を残し皆旅立った。
その意味……孤独。
純粋なまでの幼さは時に残酷だった。
巫女が全滅し、唯一の生き残りが自分だけだと。
妖虎と対峙しているのが自分だけだと。
凛には何も、何一つ伝わる事は無いのだ。
その丁寧、誠意、紳士な態度に凛は何も疑わなかった。

「償いをさせてくれないか……」
「つ、償い……?」

無論、難しい言葉も然り。
妖虎にとって喋り慣れた言葉でも、凛には通じない。
贖罪の意を示す言葉も説明が必要になった。
幼い凛が理解できる様に簡単に噛み砕いて説明を行った。
その際に、決して不快な表情を見せず
寧ろ、どこか生き生きとしていた。

「さて、行こうか……凛」

説明の過程で名を訊き、小さな微笑みを零すと
妖虎は凛の側を歩き、時折凛を狙う妖を追い払いながら
ある場所へ向かうーー




<2012/05/10 21:35 セイル>消しゴム
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