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【保】竜と絆の章2 涙と共に掴んだ居場所 − 旧・小説投稿所A

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【保】竜と絆の章2 涙と共に掴んだ居場所

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とある日の夕方……
空には真っ赤な夕日が浮かび、大分肌寒く感じる気温の中、
町の商店街では、とても賑やかな活気に満ちていた。
夕飯の買い出をするモノ達が訪れ、
多くの客を引き込もうとそれぞれの商店から、威勢の良い声が声高く響いている。

ところによっては、見るのも珍しくなった光景だが、
この町には、まだこの活気が残っていたのだった。

そして、この商店街を訪れたもの達の中に『彼らも』……

「さてぇ〜今日は僕が料理を作るから、ヘルも期待しててよ〜!」
「マスターの作ったモノなら、何でも食べるよ」

和気藹々と喋りながら商店街を歩いている。
そう……彼らとは、ガイルとヘルカイトだった。


普段ならガイルがこのように買い出しに出ることはあまりない。

しかし、今日はあの二匹……
カモさんとカメさんが用事で家にいないため、
久々にガイルがみんなのために、料理の腕を振るうことになったのだ。

それなら別にヘルカイトでも良いではないかと思われるが、
それは今ガイル家にいる皆からの猛反対で、あえなく却下となっていた。
……実は同じ状況で、彼に料理を任せたとき……
口には出せないような、恐ろしいことになったことがあったりする。
それ以来ヘルカイトに料理を作らせるのは、ガイル家の禁止事項になっていた。


「んっと……それでマスターは何を作るの?」
「ん〜今日の晩御飯何しょか……? う〜ん迷うなぁ〜」
「き、決めてなかったんだ……」

思わず苦笑いを浮かべたヘルカイトを尻目に、
ガイルは誤魔化すような笑みを浮かべた。
その内、自分をジッと見つめる視線に耐えられなくなり、慌てて顔を逸らす。
変わりに道の両脇に沿って建ち並ぶ商店に目をやると……
そこには、様々な商品が所狭しと並べられていて、さらにガイルを悩ませた。

「んっ? あ……ガイルさん。
  そちらも買い物でしょうか?」

唐突に呼びかけられた声。
反射的にガイルは顔を前に向けると目の前には見知った顔が一つ。

「お……Fさんではないですか〜」
「あっ おひさしぶり〜!」

オマケではもはやお馴染みとなっている(?)フライゴンのFに、
元気よく声を返したガイルとヘルカイト。
Fも挨拶を忘れていましたとばかりに頭を下げた。

そして、改めて先ほどと同じ質問を繰り返す。

「それで、ガイルさんも買い物に?」
「そうだよ〜 だけどちょっと晩御飯買いに来たのはいいけど……
 何しょうかと迷ってまして……」

そう言って、ガイルが見つめる視線の先には、Fが持っている買い物袋。
勿論、Fも直ぐそれに気が付く。

「ふふふ……これですか?」

少しでも助けになるならばと、
Fは袋の口を開いて中身をガイルに見せた。

「あっFさんすみません。 どれどれ……」

一言謝りながらガイルは袋の中を覗き込む。
中には……様々な野菜や味噌、そして、うどん粉だった。
それから連想できるモノを想像するガイル。
だが、答えを出す前にFが答えを言ってしまった。

「え〜と……この前キツネさんに教えて貰った作り方で、
 『鍋焼きうどん』でも作ろうと思って買い出しに来たんですけど……
 何も決まっていないのなら、そちらもどうです……?」

ニッコリと笑い、そう伝えたF。


……と、ここで話は逸れるが、
ここら辺ではトレーナーの為にお使いに来るポケモンは珍しくない。
ガイル家のカモさん、カメさんも然りである。

最近は、獣人やら竜やらと増えてきたせいで、
普通にヘルカイトが外に出ても騒がれなくなっていた。
もっとも……Fのようにトレーナーを持たないポケモンが、
買い物に来るのはまず無いのだが……

そのおかげか、Fがいきなり商店に訪れてもたいした騒ぎも起きず。
お使いに良く来るフライゴンだと、微妙な噂が立っていたりするのは……
当人だけが知らなかったりする。

何はともあれ、騒ぎにならない便利さで、
定期的にこの商店街を訪れているFであった。


「ほうほう〜鍋焼きうどんですかぁ〜それはいい名案ですねw」
「ふふふ……寒い季節には、これが一番ですし」

Fは袋を閉じて、再び両手に袋を持つと腕を下ろした。
その間にガイル達は、今日の夕飯で盛り上がっている。

「よぉ〜し! ヘル、今日は鍋焼きうどんするか」
「うん! 僕もマスターの作るうどん食べたい!」

「ふふふ……それでは私はこれで……」
「あ……Fさん。
 もしよろしければ、僕の家に来ませんか?」

去ろうとした時にガイルに誘われ、Fは立ち止まった。
そのまま、嬉しそうに頷きそうな様子だったが、直ぐに申し訳なさそうに顔をしかめる。

「あっ……う〜ん。
 私の家には、待っている家族がいますので……」

Fの脳裏に浮かんだのは、帰りを待つ二匹の家族の顔。
自分を慕い、一緒に過ごしてきた家族を放っておくことは出来なかった。

「ガイルさんの家まで行くことは出来ますが……
 折角誘って貰ったのに……すみませんです」
「あ……そうか……」

申し訳なさそうに頭を下げるFを見て、
少しバツが悪そうに頭を掻きガイルは頭を巡らせ……。

「あ……そうだ! Fさん……
 その家に待っている方も連れてきてはどうですか?」
「えっ? 良いんでしょうか……?」
「いえいえ、遠慮しないでいいですよ〜」
「ふふふ…そこまで誘ってくださるのなら……」

再び頭を下げるFの顔は、とても嬉しそうである。
口には出してはいないが、彼は……
食事とは大勢で食べるほど、楽しくなるものであると、心から思っていた。

「なら、ガイルさん達が買い物を済ませるまでに、
 あの子達を連れてまいりますね」

そう告げると、今度は何かを探すようにFは顔をキョロキョロと動かし始めた。
数秒ほどで何かを見つけると……

「待ち合わせは……あの辺の丘にしましょうか……?」
「あそこの丘ですね。わかりましたぁw
 ……ヘルと一緒にまってますよw」
「マスター……そろそろ行かないと、お店閉まっちゃうよ?」
「うっ? げっ…やばいかも……それじゃ、Fさんまた!」

慌てて、商店街に消えていくガイル達……
苦笑いを浮かべてそれを見送ったFの耳には、少しだけ声が聞こえてきた。

「……ルンルン〜♪ 夜が楽しみです〜w」
「ふふふ……私も楽しみですよガイルさん……」

次第に暗くなり始めた空にFは飛び立ち、夕闇に紛れて姿を消したのだった。



――凡そ一時間後――



すでに日は落ち、空が夜の闇に包まれそうになった頃。
約束の丘に向かうガイル達の声が響いていた。

「マスターもう真っ暗だよ、早くしないと!」
「ハァハァ……ヘル、ちょっと待って〜!」

自分の遙か前方で、急かすように叫ぶヘルカイトに叫び返しながら、
ガイルも必死に足を動かし、後を追っていく。
両者の手には中身が一杯に詰まった買い物袋が、沢山下げられていた。

そんなモノを持って、丘へと続く坂道を登るのは、普段と勝手が違って、
大きなリュックを背負って旅をしているガイルでも、中々前に進む事が出来ないようだ。
それに夜の道は少々歩きにくい。

……まぁ、それ以前に八袋も持っている時点で持ちすぎだろう。

「はぁ、はぁ……ちょ、ちょっと休憩させてぇ〜」

ドサッと荷物を道に落とし、ガイルは膝に手をついた。

「もう……マスターちょっとだらしないよ〜」

批難しながらも、ヘルカイトがガイルの元に引き返してきた。
此方はすでに、十袋ぐらいは持っているのだが足が軽快に動いている。
非常に夜目が利くせいで、彼にとって夜の道など昼とさほど変わらず動けるのだ。

「これが……はぁはぁ……普通だって、ヘルが凄いんだよ……」
「そうかなぁ〜? 僕はこれが普通だと思うけど……」

首を傾げるヘルカイトにガイルはガックリと肩を落とす。
竜と耐久力で比べられては、立つ瀬がなかった。

「うぅ……重い。 ヘル〜もう少し持って〜!」
「ダメだよ。 マスターあの時僕が言っても聞かなかったくせに〜」

そう言いながらも、ヒョイッと一袋尻尾に引っかけて、
先を急ぎだしたヘルカイト。
彼に向かって、ガイルが慌てて袋を持ちあげると後に続く。

「あっ! ヘル〜待って〜!」
「マスター! 早く来てね〜!」

笑いながら自分だけ、さっさと丘を駆け上がっていった。
ヘルカイトの背後から、ガイルの声が響く。
その声はすでに彼らを待っていた待ち人の元へと届き……
当然のように待ち人は、それに気が付いた。

彼は手を伸ばし……ガイルに話かける。

「ヒィヒィ……うぅ……あれ? 何か袋が軽く……?」
「ふふふ……手伝いますよガイルさん」

ガイルが横を振り向くと、幾つか袋を引き受け持っているFの姿がそこにあった。
しかし、何時の間に彼が其処にいたのかは不明である。

「あ〜Fさん、すみませんねぇ〜」
「お待ちしておりました。 今夜は宜しくです」
「宜しくです〜♪」
「初めましてですぅ〜」

ガイルの挨拶に合わせ帰ってきた返事は3つ。
そう……彼らがFの家族。
約30cm程の大きさのブースターのロキ。
ほぼ同じ大きさのFD(フォーチュンドラゴン)のリュンカだった。

Fの背中から飛び出した二匹を見て、ガイルの顔がいきなり赤面する。
暫く談笑が続き……

「……Fさん……この2匹可愛いっすねぇw」
「マスター!」

丁度、ガイルの伸ばした手が、ロキ達に触れる絶妙のタイミングで怒声が響く。

「やばい……忘れてた……」

驚いて体を竦めるガイルの元に、
ヘルカイトが丘へと続く坂道を駆け下りてくる。

「何時になったら……! 
 あら、Fさん〜お久しぶり〜w元気だった?w」
「久しぶりって、さっきあったばかりですよ?」
「うぅ……だって、丘に登っても誰もいないし……」

どうやら仲間はずれにされたと思って、いじけているようだ。
別にFやガイルは、ヘルカイトのことを仲間はずれにした訳ではないのだが、
とは言え忘れていた時点で、やはり責められて然るべきだろう。

「心配になって戻ったら、みんなで楽しそうに……」
「え〜と……ヘル、機嫌直してぇ〜」

放っておいたら何処までもいじけてしまいそうで、ガイルが必死に宥めていく。
その間、残された三匹は……

「Fさん。 この竜さんは、ヘルさんって名前なの〜?」
「きゅる〜? F様〜どう何ですかぁ〜?」」
「ええ……ヘルカイトさんという名前の竜さんですよ」

その会話が聞こえたのであろう、ヘルカイトがF達に目を向けた……
途端に若干目が怪しく光る。

「おや? この2匹おいし……おっと!
 ……可愛い〜触りたいぐらい可愛い〜w」

明らかに途中を誤魔化した言葉は、奇跡的に皆に聞かれずにすんだ。
だが、目はしっかりと小さな二匹に向けられており、
軽く開かれた口の中で、舌が怪しく蠢いていたのだった。



その後、交わされたお互いの挨拶が、つつがなく終わり、
時刻はすでに7時を回っているぐらい。

すでに空はもとより、周囲も真っ暗な闇に包まれていた。

「リュンカお願いしますね」
「きゅる〜♪ はいですぅ〜♪」

元気な返事の後、リュンカが皆の前に進み出ていった。

「リュちゃんは、何をする気なので?」
「ふふふ……ガイルさん。
 まぁ、見ててやってください。」

皆が見守る中、リュンカが目を閉じると……体が淡く若草色に光りだした。
生まれた光は次第に範囲を広げ、半径10m程まで広がり止まった。

「きゅる F様、こんな感じですかぁ〜?」
「ええ、十分ですよ。
 リュンカ……ありがとう。」

そっと、Fの手がリュンカの体を撫でていき、
気持ちよさそうに『きゅるるる〜♪』と、リュンカは喉を鳴らしたのだった。

その後、リュンカの明かりの導きによって、暗い夜道も歩くだけならさほど支障もなかった。
ガイル達の道案内を受け、F達は夜道を順調に歩いていき、
背後に見える町の光が小さくなり始めた頃に、Fがガイルに尋ねた。

「後、どれくらいあるんですか…?」
「ん〜後……5分ぐらいでつきますよFさん」
「そうですか、結構遠いんですね……」

隣を一緒に歩きならが会話を続けるFとガイル。
やや、遅れてその後ろから、ヘルカイトが後を付いてきていた。
その目はやはり先頭を行くリュンカと、Fの頭に乗っているロキに向けられていて……

「ねぇ……Fさん……さっきからあの竜さん……
 ちょっと僕達を見る目が変です〜」
「んっ? ヘルカイトさん、この子達がどうかしたんですか?」
「えっ! な、何でもないって、き、気にしないで!」

ヘルカイトが慌てて目線を擦らす仕草は、とても怪しかった。
もっとも結構前からこうなのだが、気づかないF達も中々鈍感なのかも知れない。

「……? なら、良いんですけどね」
「キュル〜 僕はお腹空いたですぅ〜」
「そ……そうだねぇ……僕もお腹空いてるんだよ……チラチラ……」

一瞬、『お腹が空いた』と言う言葉に激しく反応を見せたヘルカイトに、
さすがのガイルも気が付き……

「なぁ……ヘル……さっきからあの2匹見てるけど……
 もしかしてあの2匹食べたいのか?」
「そ……そんなことないよぉ! ……アハハ……あの2匹が美味し……あぁ!!
 いやいや! 可愛いからちょっとチラチラと見ているだけなのほ……本当だってば!」

怒濤の勢いで言い訳を並べるヘルカイトだったが、
ロキ達に向けられる視線はやはり、獲物を狙う目のまんまだった。
さすがにそれでは、F達も誤魔化されるはずもなく。

「ほ、ホントですかね……?」
「はみゅ……」
「きゅる……」

疑いの眼差しをヘルカイトにぶつけ続けていく。
さすがにヘルカイトも何も言えず、冷や汗を浮かべて狼狽えるばかり。
仕方なくガイルが助け船を出した。

「……いまのところは大丈夫だよ……多分……
 ヘル、お客さんを食べちゃ駄目だよ……」
「はぁ〜い……わかりました……マスター……」

ガイルに釘を刺され、さすがのヘルカイトも態度を改めた。
目つきも普通に戻り……ロキ達もホッと安堵のため息をついていた。

だが……

(でも……あの2匹美味しそう……)

やっぱりあの2匹が気になるヘルカイトであった。



    *   *   *



そんなこんなの出来事の末……
彼らは無事にガイルの家に到着したのである。

途端にF達の感嘆の声が響く。

「ここがガイルさんのご自宅ですか…」
「ふわぁ〜大きいです〜」
「ですぅ〜」

豪邸…と言って差し支えなほど大きな屋敷。
その存在感に圧倒され、F達はそのあとに続く言葉が出てこなかった。

「ふふ〜驚いた?w 結構金かけて作ったんだぜw」
「後ね、この庭もマスターの土地なんだよ〜w」

胸を張るガイルと一緒に、何故かヘルカイトまで胸を張っている。

「それは凄いですね……」

もはや、反射で喋っているようなモノなのだが、
自分たちの住処に見とれるF達を見て、さらに気をよくしたのか、
さらにヘルカイトは遠くに刺さっている看板を指さし、
彼処までがガイルの土地だとF達に語った。

相変わらず屋敷に見とれているFに対して、
ロキ達は目を輝かせて色々とガイルに質問していた。
ガイルもそれに気前よく答えていく。

かなりの質問漬けだったが……可愛い二匹に囲まれて、
赤くなっているところを見ると、ガイルもまんざらではないようだった。

「そう言えば、ガイルさんは何故このような大きな家を…?」
「立てたんですか〜?」
「ですかぁ〜?」

さらにその質問漬けに立ち直ったFまでも加わり、ガイルはもったいぶるように
声をためると……惹きつけられるようにF達もガイルに集中していく。

「それは……内緒です〜♪」
「秘密ですか…♪」

思わぬ言葉でF達は、ガクッと少し転けたリアクションを見せる。
続けて湧き上がった笑い声が辺りに響き、
その笑いに乗り遅れたヘルカイトが、再び怪しい目を光らせていた。

(あ……あの2匹……こっちみてないちょっとだけ味見しよ……)

気づかれないように、一歩、一歩……足音を殺し、
少しずつ間合いを詰めながら、口から、見た目以上に伸びる舌を出し……
ロキとリュンカの背後から、素早く舌のばし舐めた。

「ふみゅっ!」
「キュルッ!」

背筋や尻尾に走った感覚にロキ達が悲鳴をあげる。

「んっ? どうしたんですか……?」

悲鳴をあげて胸に飛び込んでき二匹に、Fは不思議そうに声をかけた。

「ん? どうかした?」
「ん? どうしたの?」

ガイルも心配そうに側に寄る。
さらにその後ろからヘルカイトが平然とした顔で近づいてくるのだった。
内心、『(あの2匹美味しかった……)』と、思いながら……

「二人とも……どうしたんですか……?」
「はわわ……なんか背中がヒヤッとしたんです〜」
「きゅるる……僕は尻尾がヒヤッとしたですぅ〜」

それぞれ感じたことをFに訴えながら、ロキ達は震える身体で抱きつき、
目線を一点に集中させた。


ピュウ〜ヒュウル〜♪


見つめられたヘルカイトが誤魔化すように口笛を吹き、
目線から顔を逸らして門を開いた。

「ささ!早く部屋の中にはいろはいろ〜♪」

明らかにバレバレなのだが、ヘルカイトはあくまでシラを切るつもりらしい。
そのまま、門をくぐり中へ逃げるように消えていった。

「……はぁ〜」
「ガイルさん……?」

大きなため息をついたガイルにFが振り向いた。

「世話な焼ける奴……ロキさんリュちゃんごめんね……」
「はみゅ? 何でお兄さんがあやまるんですか〜?」
「きゅあ? ガイル様……どうしたですかぁ〜?」
「ははは……ありがとね。 ロキさんもリュちゃんも優しいな……」

謝った自分を逆に心配されてしまい、ガイルはニッコリと小さな二匹に笑いかけた。
つづけて、F達に最近の悩みを打ち明けた。

それは、やはりというかヘルカイトの事だった。

「ヘル……最近美味しい人とか、
 動物系みると何でも食べちゃう癖出てきちゃってさぁ……
 全く……あの癖は早く直さないとねぇ〜」

多分、とても苦労しているのだろう……
打ち明けるときのガイルの声はどことなく疲れていた。
心なし折れ曲がったように見える背中を、Fは手を当て押した。

一瞬……ガイルの体が蒼白く輝き消える。
それだけでガイルは、胸がスーッとして、気が付くと心の仕えが取れていた。

「んっ? あれ…Fさん?」
「ふふふ……大変ですね。
 さて、とりあえず私達も入りましょうか」

不思議そうに自分を見つめるガイルにFは何も言わなかった。
もう片方の手にロキ達を抱きながら、ガイルと一緒に門をくぐっていく。

間近にガイル家の姿が顕わになり、ロキ達が騒ぎ出す。

「ふわぁ〜♪ 中もひろいです〜♪」
「きゅるる♪ 迷子になりそうですぅ〜♪」
「あっ ロキさん達ちゃんと僕に付いてきてねぇ〜♪」
『はぁ〜い♪』

Fの胸から飛び出し、屋敷にかけていくロキ達をおってガイルが追いかけていく。
その後ろから微笑ましそうに笑みを浮かべつつ、Fが玄関をくぐったのだった。

玄関の中は、やはりというか広々としていて、天井も不思議なぐらい高い。
奥に見える廊下を見ても……

(何人かで一緒に走れそうですね……)

などとFに思わせるほど幅もあり、長さも十分だった。
だが、さすがのFでも……
本当にカモネギ達が、この廊下を走り競争しているとは思いも寄らないだろう。

「ささ……Fさんとリュちゃん、ロキちゃんどうぞ入って入ってw」
「ふふふ……それではお邪魔しますね…」
「お邪魔しますです〜」
「しますですぅ〜」

ガイルの手招きに誘われるように、玄関から廊下に上がるF達。
と、その前にガイルがFに声をかけた。

「あ……そうだ……Fさん……あのぅ〜」
「ん? 何ですか?」
「え〜と……その……」

振り向いたFにガイルはモジモジと中々話を言い出せないでいた。
それに、何故か顔がとっても赤くなっている。

その様子から何となくFは理由を察した。

「ふふふ……二人は先に行っていてください。
 私達も直ぐに後から行きますから」
『はぁ〜い』

元気の良い声が二つ同時に響き。
ロキ達は、楽しそうに廊下の先へと歩いていった。

……すると、

「はれ? 竜のお兄ちゃん何してるですか?」
「きゅる? 隠れてるのぉ〜?」
「あっ! ちょっとちびさん達静かにしてっ!」

廊下の奥からそのような話し声が玄関まで響いてきた。
思わず苦笑するF……
気を取り直しガイルに目を戻すと、

「ふふふ……それで、何のようでしょうか?」
「あ……あのぅ〜……リュちゃんとロキさん触りたいけどいいかな……?」
「えっ? ガイルさん……?」
「あの子達……すんごく可愛くって……///」

真っ赤になって独白を続けるガイル。
彼は小さな生き物、簡単に言うと可愛い生き物が大好きだったのだ。
しかも、そう感じる範囲も広く。
随分昔のことになるが、過去にFを思わず抱きしめたこともあったりする。

「それで……Fさん……いいかな?」
「え…ええ……」

別に断る理由もなく、Fは頭を縦に振った。
と言うより、異様なガイルの迫力に押し切られた方が正解であろう。
ヘルカイトが食べ癖なら、ガイルは抱き癖である。
何というか、彼らは似たもの家族であった。

(な、何だか、ガイルさんの目が……怖いです)

Fは冷や汗を浮かべ、ガイルのキラキラとした此方を見つめる目を受け止める。
もっとハッキリとした許可が欲しいのだろう。
いっそう目の圧力を強め、無言でガイルが一歩Fに詰め寄った。

「が、ガイルさん……そんなに寄らないで、べ、別に構いませんから」
「あ……いいんですか! あ、ありがとう!」
「で、でも……ロキ達はもうあっち行っちゃいましたよ……?」

逃げるように目をそらした視線の先には、誰もいない廊下。
そして、奥へと長く続いている廊下の曲がり角では、
未だ隠れているつもりのヘルカイトの尻尾が出たり隠れたりしていた。

「あっ ええと……ささ、Fさんも上がってください!」
「は、はい……」
「それでは、僕はちょっとあの子達を追いかけるので…!」
「が、ガイルさんちょっと落ち着いた方が……」

慌ただしく早口で話すガイルを見て、Fは思わず落ち着くように促すが、
ガイルの頭の中はすでにロキ達を抱くことで一杯のようだった。
と言うか、すでにFの顔すら見ていない。

「ヘル〜Fさんを台所まで送ってやって!」
「ギャウッ!」

廊下の奥からヘルカイトの悲鳴が上がった。
当人はまだ見つかってないと思っていたのだろう。
のっそりとした動きで廊下の影からでて、Fの方に歩いてくる。

「う、うんw 分かったよマスター……ささ……Fさん行こう」
「え、ええ……それではヘルカイトさんお願いします」

お互いタップリと冷や汗をかいている二匹。
さらに追い打ちのように後ろからガイルの声が響いた。

「そうそう……ヘルゥ〜くれぐれもFさん食べるんじゃないよ〜!
 後舐めるのも駄目だからな!」
「は……はぁ〜い」

念を押す声にビクリとヘルカイトの体を震わせる。
驚いたF達が振り返ったときには、すでにガイルの姿は廊下から消えていた。

「ははは……ガイルさん、相変わらずですね」

もの凄いドタバタぶりに、Fはもう笑う事しかできなかった。
その後ろ姿を見送るFの傍らでヘルカイトがぼそりと呟く。

「……やっぱさっきのこと怒っているのかな……?」
「やっぱり舐めたのですね……」
「うぐ……」

思わず墓穴をほり、呻きながらヘルカイトは身をすくませた。
『うぅ……怒られる』心に怒ったFの姿を想像し、恐怖に身を震わせる。
何時、怒声がFの口から発せられるか……?
それを待ち続けて怯え小さくなっていたが、いつまで経ってもその気配はなかった。

勇気を出してFの顔を見つめると、特に怒った様子は見えず。
それが逆にヘルカイトを困惑させた。

「あれ……Fさん、怒らないの……?」
「何故です……?」
「うぅん…もういい……ごめん」

不思議そうに聞き返すFの顔をみて、
ヘルカイトは一度顔を横に振り、謝ると同時に頭を下げた。

「ゴメンねFさん……あの2匹美味しそうに見えたから……」
「まぁ、そんなに落ち込まなくても良いですよ。
 あの子達も、それなりに……まぁ、気にしなくて良いですよ」

苦笑しつつも何か含みのある言い方。
けれど、Fがそれを語ることはなかった。
変わりに、足下に大量に置かれている買い物袋を持ち上げると、
笑顔をヘルカイトに向け……

「さぁ、ヘルカイトさん案内宜しくです♪」
「うん……ありがとう……Fさん……ささ台所に行こうw」
「あっ そんなに引っ張らないでくださいっ」

元気になったヘルカイトはFの手を掴み、歩き出した。

台所に続く廊下に、二匹の声が響く。

「あっあの! 、まだ、袋が残ってますよ!」
「イイのイイのw また後で僕が取りに行くからw」

一つは、慌てるようなFの声。
もう一つは、とても嬉しそうなヘルカイトの声だった。



一方その頃……


「ハァ……ハァ……」

ドタドタと廊下を駆け抜けガイルが疾走していた。
二つめの角を曲がり、次の直線でついにロキ達の姿を捉えると、
ガイルは手を伸ばし彼らを呼び止めた

「リュちゃん〜ロキちゃん〜まってぇ〜!」
「はにゅ? どうしたんですか〜?」
「きゅるる〜?」

その叫びにロキ達は不思議そうに立ち止まった。
ガイルの顔がぱぁ〜と明るくなり、ロキ達を呼び戻そうと叫ぼうとした……が、

「ゲフッゲフッ!……ちょっと、たんま…声が……」
「はにゅっ! ガイルのお兄さん〜大丈夫ですか〜!?」
「きゅるる……?」

良く状況が理解できていないリュンカは頭を傾げているだけだったが、
心配したロキはトコトコとガイルの方へと駆け寄っていった。

「ハァハァ…も、もう大丈夫……ありがとうロキちゃん…w」
「良かったです〜」
「そうだ……リュッちゃんロキちゃん台所はこっちじゃないんだ。
 台所はあっち……ささ……おいで……」

さりげなく二匹に両手を差し出したガイル。
何となく面と向かって抱かせてと言いづらかった、
彼の苦肉の策だったりするのだが……

ここにガイルの誤算があった。

「ふわぁ、ありがとうです〜」
「きゅるっ! あっロキ〜待ってですぅ〜」
「あ……//」

嬉しそうな声と共にロキはジャンプして、開いた胸に抱きついてきたのだ。
抱くつもりが逆に抱きつかれ、ガイルの体が硬直する。

「はみゅみゅ…♪」
「ああ……ロキ……ちゃん//」

可愛い鳴き声と共にヨジヨジと肩までよじ登っていくロキの姿に、
ガイルは幸せそうな声を漏らし、ますます動けなくなる。

「きゅる お兄さん大丈夫ですかぁ〜?」
「リュ、リュッちゃんまで……//」

控えめなリュンカもガイルさんの肩に止まり、心配そうに顔を覗き込んだ。

ギリギリと音を立てそうな動きでガイルは首を左右に振る。
右を向けばロキの顔が、左を向けばリュンカの顔が目に映り。

「あ……////ロキさん……リュちゃん……か……可愛い……///」

今にも湯気が出そうな程に、二匹の愛らしさに悩殺され、
真っ赤に顔を染めたガイルが其処にいた。
体は不安定に揺れ、押したら倒れてしまいそうな様子だが……

無邪気な二匹はさらにとどめを刺す。

「ふみゅ〜? まっかですぅ〜」
「きゅ〜 大丈夫ですかぁ〜?」

本人達は本当に悪気は無かった。
しかし、熱でもあるのかと勘違いしてガイルの頬や額を舐めた瞬間……

「あ……あぁ……//// もう駄目……失礼します!」
『ふわぁ〜♪』

ガイルは両肩にいる二匹を思いっきり抱きしめていた。
愛らしい顔に自分の顔を擦りつけると、フサフサな二匹の毛皮が顔をくすぐり、
まさに天にも昇らんが如く、ガイルの心臓は高鳴っている。

「はみゅ〜♪ くすぐったいです〜」
「きゅる♪ おかえしですぅ〜」

抱きしめられたロキ達も、とても気持ちよさそうに抱かれ、
すり寄るガイルを舐め返していく。

「ああ……幸せ……////////」

ロキ達を抱きしめたまま、完全に動きが止まったガイル。

……どうやら当分、台所には行けないようである。





そして、場面は台所。

先に台所に着いたF達は、
ロキとリュンカ、ガイルの到着を待っていた。
彼らの足下には運び終わった空の買い物袋が無数に散らばっており、
テーブルと作業台には、調理別に小分けされた材料が山のように積まれ、
いつでも料理が開始できるようになっていた。

しかし…

「皆さん……中々来ませんね……」
「そうだねぇ〜もう、そろそろ帰ってくるころなんだけどなぁ……」

ヘルカイトが部屋の外を見渡し、首を振りながら部屋の中に戻ってくる。
何気なく部屋に設置された壁時計に目をやると、凡そ二十分経過していた。

もはや時間的にも夕飯というには遅すぎる時間帯。
唐突に誰かのお腹の虫が悲鳴をあげた。


ギュルルル〜!


「ん? ……ヘルカイトさん?」
「あぅ……お、お腹減っちゃって……///」

黒い顔を真っ赤に俯かせ、ヘルカイトがお腹を押さえていた。
思わずFは……

「……うくっ……ふふ……ふふふ……♪」
「ひ、酷いよぉ〜……Fさん、笑うなんて……///」
「い、いえ……ふふ……さすがに今のは……♪」

お腹と口に手を当てFは笑い続ける。
ひとしきり笑った後には、すっかりヘルカイトはいじけていた。

「うぅ……いいもん……どうせ僕なんか……」
「まぁまぁ、ヘルカイトさん。
 どうせですし、皆さんが来る前に作っちゃいましょうよ」

まだ少し笑いが溢れる口調でヘルカイトを宥め、Fは作業台に立った。
ヘルカイトもその横に立つ。
顔は誤魔化されないぞと語っていたが、さすがに食い気には勝てなかったようだ。

「そだね……そのうち来るだろうし……
 さて……どうやって作ろう……僕料理するのは……」
「ふふふ……分からないのなら私がやりますので、色々な準備お願いしますね」
「あ……はぁ〜いお皿とか出しておきますねぇ〜」

そう言って、料理を始めたF。
意外と家庭的なFの技術がさえ渡り、時間と共に台所にはいい匂いが漂い始めた。
次々と出来上がるそれらは、ヘルカイトが用意したお皿に並べられ、
せわしく部屋間を移動し運ばれていく。

瞬く間に前菜は完成し、Fは次のメインに取りかかる。
同時に部屋に帰ってきたヘルカイトが、Fの手つきに感嘆の声を漏らした。

「おぉ〜!すごい……Fさん何でもできるのですね……」
「少々キツネさんに手ほどきも受けましたので、
 うどん作りならそれなりに得意ですよ」

手を動かし続け、顔だけをふりむかせたF……
その傍らには手作りのウドン玉が幾つも綺麗に並べられていた。

「わぁ〜すごい……しかも美味しそうな香りだぁ……」
「ふふふ……それではさっさと仕上げちゃいます……♪」

そんなこんなで、調理を終え食事の準備を済ませたF達は部屋を移動し、
いい匂いの漂うなか、未だ姿を見せないガイル達を待ち続けていた。
いくつもの料理が並んだ拾いテーブルには、良い具合に煮だった土鍋も並んでおり、
ロキ達専用の小さな器も用意されている。

だが、待つこと数分……彼らは来なかった。

「ふぅ……後は待つだけですが……」
「うん……そうだねぇ〜」

独り言のように呟かれたFの言葉にヘルカイトが返した。
彼の目はすでに土鍋に釘付けになり、何回もお腹の虫が激しく鳴き立てていた。

それでも、彼らは姿を現さず……
料理が冷めてしまうかも知れないと不安がよぎりだした頃……
ドタドタと誰かが廊下を歩いていくる音が聞こえてきた。

「あっ、来たみたいですね……でも、足音が少し大きいような……?」

Fは顔を上げ、部屋の入り口を注視する。

「おっ、いい匂いだな〜」

ガイル達ではない、誰かの声が部屋の前で響き、
戸を開け中に入ってきたのは……

ガルーラという名前のポケモンだった。
彼はテーブルに並んだ料理と、座っているF達を見つめると、

「お……Fさんじゃないかお久しぶり〜」
「さっきのは、ガルーラさんの足音でしたか……」
「おかえり〜 いつ帰ってきたの?」
「さっきさ……それより、廊下でこんなの拾ったんだが……」

無造作に手を自分のポケットに手を突っ込み、
引き抜くと中からガイル達が姿を現したのだった。
彼らはどうやら眠っているようで、ロキ達はガイルに抱きつくように寝息を立てており、
抱きつかれているガイルは眠っているときでも顔が赤くなっていた。

「あらら……すみませんでした。
 ……それで中の人たちはどうしてポケットの中に?」
「俺が偶然この廊下歩いていたら……顔が真っ赤になって倒れてたマスターと、
 抱きつかれたまま寝てたこの2匹がいてな……」
「……ガイルさん…一体何をしていたのでしょうか?」

分からんと首を竦めるガルーラにFも苦笑する。

「さぁ〜何してたろんなぁ〜?
 俺だって、たまたま偶然に廊下を歩いてただけだし……」

首を傾げつつガルーラはF達の横に座った。
対して、ヘルカイトは何となくその様子が目に浮かんでいたようだ。

「マスター、可愛い子見ると暴走しちゃうしねぇ……」

彼には心当たりがあるのだろう。
天井を見上げ見つめる目は、何処か遠くを見つめるようだった。

しばしの沈黙……
グツグツと土鍋から聞こえる音だけが響き。

最初にFが口を開いた。

「ふふふ……でも、まぁ……
 幸せそうに眠ってますので起こさないでおきましょう……」

微笑みながら呟かれた声は、とても穏やかだった。
それを切っ掛けにして他の二匹も口を開く。

「あぁ……そうだな……それより、美味しそうな鍋焼きウドンがあるじゃん。
 なぁ、俺も食べてもいいか……?」
「いいよ〜どうぞどうぞw まだ一杯あるからw」
「ははは……ガイルさん達の分、余っちゃいましたからね。
 それでは、冷めないうちに……頂きます……」

同時に手を合わせ、Fが頭を下げた。
つられたように皆も慌てて手を合わせ……

『それじゃ……頂きます……』

こうして、F達は遅めの夕飯を食べ始めたのだった。


三匹の食事は楽しげな会話と共に始まり、お互い様々な事を話ながらも、
かなりの早さで夕飯を平らげていった。

「それにしても、この鍋焼きうどんは……すげぇ上手いな!」
「……ふふふ……お褒めいただいてありがとうございます」

標準より巨体を誇るガルーラはその身にあう大食漢ぶりを発揮し、
次々とうどん玉を消費していく。
続けてよく食べていたのがFだった。
普段の雰囲気からは想像できない食欲を見せ、土鍋から麺を啜っている。

「うん……すっごく美味しい……」

三匹の中で一番食が細かったのは意外にもヘルカイトだった。
適度にF達の会話に相づちを打ちながら、淡々と麺を啜っている。
その姿を認めたガルーラが心配そうに声をかけた。

「どうした? ヘルにしてはあんまり食が進んでないぞ?」
「えっ? うぅん! だ、大丈夫〜この通り一杯食べてるよ〜w」

慌てるかのようにウドンを口に入れ始めたヘルカイト。
その様子を見ていたガルーラは、
訝しげな表情を浮かべながらも土鍋に顔を戻した。

「なら……良いんだがな……」
(……ホッ)

土鍋を食べ始めたガルーラに内心ホッとしたヘルカイト。
ウドンを食べながら、気づかれないようにガルーラに視線を……
いや、ガルーラのお腹のポケットへ目線を移動させていく。

(やっぱり……あの子達美味しそう。
 ……マスターは、もっと美味しそう……)

ヘルカイトは、まだロキ達を食べることを諦めてはいなかったのだ。
虎視眈々とその隙を伺っていたのである。
そんなことをしていたら、ウドンを食べる速度も遅くなるわけだった。

しかし、その機会は訪れず。
食事の時間は、皆のご馳走様の声で無事に終わり告げた。

テーブルの上にはカラになった食器が積まれ、
あれだけあった鍋焼きウドンも、完全に空になっている。

「ふぅ〜ちょっと食べ過ぎちゃいました。 ご馳走様です」
「ご馳走様です〜 ……ふぃ〜久しぶりに美味しい飯が喰えたぜ……」
「ご馳走様……うん、こんなに美味しい料理食べたの久しぶりだねw」

Fはともかく……ヘルカイトとガルーラは、
普段からカモネギやカメールの料理を食べていて、もの凄い言いぐさである。

それだけ、Fの作ったウドンは美味しかった訳なのだが……
料理を褒められたFは素直に喜んでいた。

「ふふふ…美味しいといってもらえると、私も嬉しいです…」
「あ……片付けは僕がやるからFさんは座ってなよ」

やはり家庭的なFが食器を片付け出したのを見て、
ヘルカイトがそれを制止した。

「あっ……良いんですか? それではお任せします……」
「まかせて〜料理は苦手だけど、片付けは得意だから〜w」

笑いながらさっさと食器を集めていくヘルカイト。
何度も部屋を往復していくその姿をFは、手持ち草に困りながらも大人しくその場に座り、
最後の食器を運んでいくヘルカイトを見送った。

「ふぅ……」

何もすることが泣くなり、Fは小さくため息をついた。
こう何もすることがないと、妙に何かをしたくなるのが彼の常であった。
そんなFにガルーラが近づき、小声で尋ねた。

「Fさん今度暇があったら鍋焼きの作り方教えてくれないか?
 俺……最近料理作るのにはまってな……いいかなFさん?」
「ふふふ…良いですよ。
 キツネさんの足下にも及ばない腕ですが」

快くお願いを了承したF。
ガルーラは嬉しそうな表情を浮かべ、Fに優しく抱きついた。

「お、いいのかいFさんありがとうw」
「はぅっ、いえいえ、大したことありませんよ」

少し驚きはしたが、Fは大人しく抱きしめられていく。
丁度その時、片付けを終えたヘルカイトが部屋へと戻ってきた。

「ふぃ〜終わったぁ〜よっこらせっと」

部屋に入って直ぐにF達を一瞥するが、
その辺りには何も触れず疲れたように息を吐きながら側に座った。

「お……ご苦労さんヘル〜」

労いの言葉をかけるガルーラ。
その腕の中、Fが少し恥ずかしそうに身を捩りながら問いかける。

「あ、あの〜いつまでこうしていれば…?」
「おっとそうだった」

言われてようやくガルーラはFを解放すると、同時に大きな欠伸をした。

「ふぁ〜飯食い終わったら眠くなってきた……」

さらに伸びをし、眠そうな顔で目蓋を瞬きさせる。

「すまないね……ヘル……マスターとその2匹任せるわ……」

のっそりとした動きで、ポケットからガイル達を取り出すと、
起こさないようにそっとヘルカイトに抱き渡した。

「うん……わかったよガルーラ……お休みなさい」
「それじゃ……お休みなさい……Fさん……ヘル……」

ガルーラはF達に手を振りながら、何度目かの欠伸をして部屋から出て行った。
遠ざかる巨体が廊下をギシギシと軋ませ歩いていく。

「ふふふ…ガルーラさんも、相変わらずでしたね……お休みなさいませ」

廊下を歩いていたガルーラが前を向いたまま手を振った。
どうやらFの声が聞こえたらしい。

これから自分の部屋でぐっすりと眠るのだろう。
その後ろ姿を見送ったF達は、静かになった部屋に取り残されていた。

時計の音と気持ちよさそうな三つの寝息が部屋の中に響いている。
そろそろ、お暇するつもりでFは立ち上がった。

「ふふふ…では私達もそろそろ……」


ググゥ〜! ギュルル〜〜!


『お暇しますね……』そう言おうとしたFの声が、
ヘルカイトの腹の虫の音でかき消された。

「……あ……お腹の虫が……////」
「まぁ、そんなこともありますよ……」

真っ赤に頬を染めながら自分のお腹を見つめるヘルカイト。
そんな彼を苦笑いしながらFが見つめていた。

時に彼らが食べた鍋焼きウドンの内訳をウドン玉で数えると、
ガルーラが十五玉、Fが九玉、ヘルカイトが六玉である。
前者の二人は食べ過ぎとはいえ……

(あれだけ食べたはずなのに……)

自分を棚に上げているが、Fがそう思っても仕方がない……と思う。
そして、再びヘルカイトのお腹が鳴った。

「ふみゅ〜……」
「きゅる〜あれぇ〜Fさまぁ〜?」

この騒音で、さすがのロキ達も目を覚ました。
ヘルカイトに抱かれたまま、寝ぼけた目をFに向けている。
唯一……ガイルだけまだ眠ったままだった。

「あ、あの……ヘルカイトさんロキ達を……」

このまま、この場にいたら……
嫌な予感を感じ取り、Fはさっさと退散しようときめた。

しかし、ロキ達を受け取ろうとFが伸ばした手を無視して、
ヘルカイトは彼らを抱きしめたまま解放しない。

「あのぅ〜……Fさん……ちょっといいかな……?」
「はい? ……何ですか?」

なるべく平静に返事をしたF……
うっすらと首に冷や汗が滲み出していた。

ますます強まる嫌な予感にFは心なし身構えるが、
律儀な性格な彼はジッとしたまま、ヘルカイトの言葉を待ち続け……

モジモジと恥ずかしそうに尻尾を振っていたヘルカイトがようやく口を開いた。

「実は……Fさん食べたいけど……いいかな……?」
「えっ!? うぅ……何をいって……」

思わずFが一歩ヘルカイトから遠ざかる。
半ば予想していた事だったが、まさか自分まで……
焦るF……そんな彼にヘルカイトは次第に詰め寄っていく。

「ぐふふ……大丈夫……痛くしないよ〜だから……ね……?」
「いや、でも……」

迫るヘルカイトから逃げつつ、Fは彼の隙を伺っていた。
Fにとって今この場から逃げ出すことは簡単なことなのだが……
目線の先……捕まったままのロキ達がヘルカイトの腕の中で藻掻いている。

「はみゅ〜! 竜さんはなして〜!」
「きゅる! F様がピンチですぅ〜!」

自分を助けようと必死になっている彼らを、Fは放っては置けなかったのだ。
助ける隙を探し、様子をうかがっていく。

対してヘルカイトは、大暴れするロキ達に手を焼いていた。
小柄な見た目より遙かに強い力を持つ彼らは、さしものヘルカイトも手に余るようだ。

「あぅあぅ……ちびさん達暴れないで、余計にお腹が……
 こうなったら……ブツブツ……ダ〜ル!」

暴れるロキ達をヘルカイトは逃がさないようにしっかりと押さえつけ、
速やかに眠りの魔法を唱える。
魔法をかけられたロキ達は直ぐに動かなくなり、夢の世界へと落ちていった。

「ふぅ……」

大人しくなったロキ達を抱えたまま、ヘルカイトがため息をついた。


ギュルルルル!


途端に今までで一番大きくヘルカイトのお腹が鳴った。

「……もう駄目……限界……」

それは唐突だった。
ヘルカイトは動くのを止め抑揚のない口調で喋り始める。

「ヘル……カイトさん……?」

動きを止めたヘルカイトは隙だらけ……
絶好のチャンスのはずなのだが、
Fは彼の手からロキ達を取り返すために近づくのを躊躇する。

この一瞬の間……ある意味Fは正解していた。
自分が犠牲になる時間を先延ばしにするという意味では……

Fの目の前で、ヘルカイトが一気に巨大化する。
先ほどまでお互いに同じ大きさほどだった体が、天井につかえる程まで大きくなり、

「……あ……ああ……」
「……先にリュちゃんとロキちゃんとマスター先に頂くね」

こうなっては何も出来ず、Fは惚けたように声を出し続ける。
そんな彼を一瞥すらせずに、ヘルカイトはガイルの体を手に取った。
今のヘルカイトには自分以外の生き物は、食べ物としか思えていないのだろう。

「……まずはマスターから」

この騒ぎの中、未だ幸せそうに眠っていたガイルは、
軽く宙に放り投げられ……


……パク…………ング……ゴックン


落ちてきたところをひと呑みにされる。
大きな膨らみが喉を通り、胃の中へ落ちてお腹を膨らませた。

「へ、ヘルカイトさん! やめてくだ……!」

我に返ったFが制止のために手を伸ばす。
しかし、

「・・次は・・リュちゃんね」


……パク……ゴックン……


「最後は……ロキちゃんね」


……パク……ゴックン……


ガイルと同じようにロキ達も、
次々と口に放り込まれ呑み込まれていった。
小さな膨らみが喉を通り、胃の中へ落ちて僅かにお腹を膨らませる。

「プハァ〜……美味しかった……」

膨れあがったお腹……
僅かばかり蠢いているお腹をヘルカイトは満足そうに撫でた。

ただ一人残されたFはその膨らみに手を伸ばし、

「ああっ……みんな……」

不用意に自らも後を追うかのようにヘルカイトに近づいていった。
それを今のヘルカイトが逃すはずもなく、

「フフフ……Fさん……捕まえた〜」
「あぐぅっ ヘルカイトさん……離してください!」

巨大な両手がFの体を鷲掴みする。

「大丈夫……優しく……食べてあげるから……」
「うぁ……ぐぅぅっ!」

巨大な手を押しのけようと、Fも必死に抵抗していく。
しかし、その間にもヘルカイトはゆっくり口を開らいていき、


ベロリ…ピチャ……ヌチャ……


伸びてきた肉厚の舌がタップリとFに唾液を擦りつける。
ネットリとした唾液は絡みつくように体にまとわりつき、Fの自由を奪っていく。

「ひぅっ……あぅ……くっ…ぅぅ!」

Fの悲鳴が部屋のなかに響きわたる。
ボタボタと体から唾液を滴らせ、目の前にはヘルカイトの大きな口が迫るが、
それでも、Fはまだ抵抗を続け牙を素手で掴み、
咥え込まれそうなのを必死に押し止めていた。

拮抗する力が状況を硬直させる……が、
それは一時的なことだった。

「ぅぅ……ハァハァ……ヘル…カイとさん……」

巨大な口を押し止めていても、ヘルカイトの舌は止まらない。
体を絶えず這い回る舌にFは悶え、力を失っていく。
ヘルカイトはただゆっくり、Fが弱るのを待つだけで良かったのだ。
すでにFの手は震え力尽きる寸前……

「グフフ……Fさん……大分疲れているみたいですねぇ〜」
「……ハァ……ハァ……」

つかれきっているFには、その声に返す力は残されていなかった。
ヘルカイトは弱り切ったFの体に舌を巻き付け、

「だから……今日僕のお腹の中で寝てね……」
「うぅ……あぁ……」

舌で軽く引っ張るだけでスルリとFの手が牙から離れた。
そのまま巨大な口に吸い込まれるようにFの体が舌に引きずられていき……


……パクッ! ……ング……ゴックン


「ひぅっ! うわあぁぁぁ!」

Fの体に合わせ歪にヘルカイトの喉が膨らむ。
呑み込まれたFの叫び声が薄く開かれたヘルカイトの口の奥から響き続け、
次第に小さくなっていった。

ジュリジュリと食べ物が食道滑り落ちる感触にヘルカイトは満足そうに呟く。

「ん〜 Fさん食べたの……初めて……美味しい……」

ヘルカイトようやくありつけたメインディッシュ……
Fの味を堪能し酔いしれた。

「……おっと涎が」

ヘルカイトが気が付くと口から涎が溢れていた。
一度、ジュルリと舌なめずりをしてそれを腕で拭い取る。

その頃にはようやくFが胃へと滑り落ちた。
デップリと膨らむヘルカイトのお腹……
その中に詰め込まれたF達は、折り重なるように胃の中で倒れている。

「あぅぅ……ヘルカイトさん酷いです……」

その中で、唯一意識を保っていたFの批難の声が波打つお腹から響いてくる。
大きく膨れ蠢くお腹、食べ物を詰め込んだ胃の重さ、
それらの感覚にヘルカイトは満腹感を味わいつつ、お腹を撫でながらゆっくりと横になる。

「はふぅ〜 ……Fさんとマスターとリュちゃんとロキちゃんが……僕のお腹の中にいる。
 みんなとても美味しかったよ……」

次第にヘルカイトの声が掠れていった。
目蓋も不安定に閉じたり開いたり……襲いかかる眠気。

ヘルカイトは目を閉じる前……最後に呟いた。

「みんな……ご馳走様です……」

閉じられるヘルカイトの目蓋、直ぐに寝息が口から漏れだし……
部屋の中では彼が一人で眠っている。

しかし……

動きが止まった彼のお腹では、諦めたFとガイル、ロキ、そしてリュンカが、
それぞれ抱き合い、折り重なって眠るているのだった。



    *   *   *



そして、翌朝のガイル家の門前にて……

「それではガイルさん、どうもありがとうございました」
「はみゅ〜 ありがとうございました〜」
「きゅるる〜 ありがとうございましたですぅ〜」

無事にヘルカイトのお腹の中から生還した三匹が、
ガイル達にお別れの挨拶をしていた。

「あぅ……Fさん……ゴメンね」
「いえいえ、ちゃんと無事でしたし、
 ガイルさんそんなに頭を下げないでください……」

昨日の出来事を謝るガイル。
ヘルカイトのマスターとしてそれなりに責任を感じているのだ。

そして、騒ぎを起こした当人はと言うと……

「ほら、ヘルカイトお前も頭を下げて」
「あぅ……Fさん……ゴメン……」

ガイルに促され頭を下げたヘルカイト。
ただその体は宙に浮いている。

「まったく、お前もこりねぇな〜て」
「うぅ……だって、とっても美味しそうだったんだもん」

呆れているガルーラに胴体を鷲掴みにされたまま、
ヘルカイトは言い訳をする。
これにはさすがのガイルも……

「はぁ……ガルーラ……」
「おしっ! マスター了解!」
「へぇっ!? 何、何するの……?」

いきなり肩に担ぎ上げられ、ヘルカイトは荷物のように家の奥へと運ばれていく。

「罰として、今日から一月お前だけで家の掃除だとよ。
 今から始めないと、今日中に終わらないぞ?」
「あぅあぅ! マスターご免なさい〜! ちゃんと謝るから許してぇ〜!」

最後のヘルカイトの叫び声も空しく……
ピシャッと玄関の戸口が閉められ、家の中へと連れ去られていった。
その一部始終を見届けたFは……

「ははは……まぁ、それでは私達はこの辺で……」
「すみませんFさん。 これに懲りずまた来てくださいね……」

苦笑いをするFに、ガイルが改めて頭を下げた。
一拍の間を開け……

「ええ……喜んで……♪」

笑顔と共にそう答え、
今日も騒がしいガイル家を後にしたのだった。





最後の雑談会


F「と、今回も感想をやらせていただきます。
  書き始めて早、5ヶ月…長らくお待たせしました。
  途中で、まぁ色々と大変なこともありましたが、ようやく完成し。
  こうやってオマケまで手伝ってくれてどうもありがとうございます♪」

ガ「いえいえ〜おまけだなんて初めてですので上手く言ってませんがw」

F「私は都合3回目ですが、ガイルさんも中々お上手でしたよ。
  今回の小説はいかにガイルさん達を動かすか色々と悩ませられましたが
  満足していただけましたでしょうか?」

ガ「はい!勿論大満足です!嬉しいっす!ありがとうっすFさんw」

F「満足していただいて光栄です…♪
  どうもありがとうございました」

ガ「Fさんも小説かいてくれてありがとうございます〜!」




最後に、今回もここまで読んでくれた皆様、どうもありがとうございます。
毎回長々とした小説で、出すまで時間をかけてすみません。
今回のお話も気に入ってもらえたでしょうか?

アンケートではトップ3に私の小説が入っていてビックリしました。
どうも、ありがとうございます。

次回作もどうぞお楽しみにしていてください。 F より。



True The End


<2011/06/14 21:48 F>消しゴム
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