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表裏一体 影の深淵 − 旧・小説投稿所A

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表裏一体 影の深淵

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「神獣さまっ!」
少女の声が彼を眠りを妨げる。
「っく・・またお前・・ん?」
と、彼は気付く。
何かを喰った気はないのだが腹が膨れ、力が満ちていた。
「神獣さま・・?」
「な、何でもない。どうしたのだ?なにやら村が慌てている様子だが・・」
「昨日から帰ってこない人がいなくてみんなで探してるの。」
「探している?なら、お前はこんな所で油を売っていていいのか?」
「私は・・いい・・」
少女の顔が沈む。
深くは尋ねないほうが良いと判断した彼は再び口を開く。
「途方にくれた奴らは恐らく我を頼るだろう。その時にお前が見つかれば面倒な事になるだろう・・隠れておいた方が良いぞ。」
「・・うん・・」
少女の表情は沈んだまま。
相当な事情がない限りはこのような表情はできない。
特に彼は知ろうとしてはいないが、いずれは少女のほうから話してくれるだろうと彼は気に留める。
「神獣さま・・」
「今日も遊べというのか?」
「うん。」
「・・ほら、行くぞ。」
短く溜息を漏らし、微笑みを浮かべた。
この微笑みは意識したのではなく、心から自然に生まれた物だった・・

 * * *

「行方不明な者がいることはご存じですか?」
「あぁ・・知っている。」
「どこに行ったのかは分かりませんか?」
「知らん。我とて知らんことはある。」
「・・そうですか・・それじゃ・・私の子を知りませんか?」
「いないのか?」
「はい・・どうやら家出してしまったみたいで・・」
この人間の子供・・彼の所に訪問する少女の事だろう。
彼女はいま神獣の尾に巻き取られ眠っていた。
「・・・・・・」
彼は答えに詰まる。
このまま返せばこの仔と人間の為になる・・
が、それと同時に彼の信仰を高める手段が無くなる・・
「・・見ていないな・・もし、見つけたら我からも言っておく。」
「はい・・ありがとうございます・・」
その礼も心からではなく畏怖を持った態度だ。
素直に礼をすることも叶わないのか・・
彼は人間が去ったのを見届けると、尾を前面に運び巻き取っていた少女を地面に優しく降ろした。
「う・・ぅん?」
「起きたか?」
小さな呻きを上げ少女が重い瞼を開き、目を擦る。
「どうして家出した?」
彼は話してくれる事を待っていたのだがあんな話を聞いた後だそれは叶わない。
どうして? と言うような表情を浮かべた彼女は思わず目線を逸らす。
「神獣さまに会いに行ったからって・・酷く怒られて・・・それで・・」
「そうか・・なるほどな・・」
 ー我への信仰は乏しいー
彼がそう納得するのには十分だった。
それなら力の衰えと供物や生気で力を補っても回復しないのにも合点が行く。
もう・・消えかかっているのだ。
「くっ・・我は・・屈するものか・・」
それと同時に本能が理性をねじ伏せる。
“生きたい”という本能が叫んだ。
生気や供物では足りない。
もっと高純度のエネルギー・・命、魂そのものを喰わなければ生きられない。
失われる命を繋ぎ留めるにはそれしかない。
だが、彼にそうすることはできなかった。
神獣であるが故に命を弄ぶようなことは許されていないのだ・・
命を簡単に奪う事は出来ないのだ。
「くぅ・・少し・・出かける・・」
「・・?私は?」
「家に帰るのが嫌なら・・ここに・・いろ・・」
彼は苦しそうに言葉を吐き出すと洞穴から去っていった。



<2011/05/13 23:18 セイル>消しゴム
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