僕はフルーツポケモンのトロピウス。トロピコという立派な名前も付いている。この熱帯の小さな島で、島に住む人々と一緒にのんびりとした日々を送っている野生のポケモンの一匹だ。
今の時刻は、お昼を過ぎてから少し経ったくらい。ちょうど島の子供達が“ガッコー”という場所から帰ってくる時間だった。
今日も僕の中では全てがいつも通りに進んでいる。朝早くからジャングルの中を歩き回って好物のフルーツをお腹いっぱいになるまで食べて回った後、島の南側にあるビーチに出て、気持ちの良い南国の太陽の光をたっぷりと浴びながら、うたた寝をする……。目が覚めたのも、やはりいつも通りの時刻。別に予定が狂った所で良くない事が起こるなんて事はない。だけど、どういう訳か、何事もいつも通りに動いている方が自然と落ち着くのだ。
そんな僕は今、砂浜を後にして再び木々がうっそうと生い茂るジャングルの中をのんびりとした足取りで歩いている。次の予定をこなすためにある場所に向かっているのだ。のんびりのペースで歩いているとは言え、歩き始めてからもう大分経っている。だから……もうそろそろの筈だった。
……聞こえて来たぞ。ジャングルの奥からかすかに自分の名前を呼ぶ声が響いて来る。それに気が付いた僕は、歩みを止めてじっと耳を澄ませた。
声が聞こえてくるのはちょうど僕の真正面からだった。段々と僕の名前を呼ぶ声が大きくなってくる。声に加えて、落ち葉を踏み分けて僕のいる方へと駆けてくる足音も徐々に聞こえ始めていた。
やがて、そんな僕の前にジャングルの木々を大きく揺らしながら現われたのは、よく日に焼けた肌をした、真っ白なワンピースを身に着けた一人の少女だった。そんな少女と僕の目が合う。途端、少女は目を丸くして大きな歓声を上げた。
「やっぱりトロピコだ! うわぁい! 今日もあたし達と遊びに来てくれたの?」
少女はジャングルの木々をかき分けて僕の元に全速で駆け寄って来ると、僕の長い首の根元に勢い良く飛び付いて来た。一方の僕は、少女の頬に自分の顔をすり寄せて挨拶の代わりとする。
「ねぇね、トロピコ! 今日はたくさん集まっているんだよ! 早く、早くぅ!」
そう言うが早いか、彼女はしがみ付いていた僕の首を伝って、僕の背中の上に乗っかって来た。僕は彼女に向かって笑顔で頷いて見せた後、彼女を背中に乗せたまま、彼女が暮らす村に向けて歩き始めた。しばらく歩いて行くと、ジャングルは幅の広い水路に差し掛かかった辺りで途絶える。ようやく村の入り口に差し掛かったのだ。
そしてこの水路はと言えば、村に住む人間達が生活のために近くの川から水を引いてきて作られたものなのだ。時々、水を汲みに来ている人を見掛ける事があるのだが、今日は誰の姿も見えていない。水路には丸木橋が架かってはあるものの、人間に比べて体の大きい自分がその上を渡ろうなどとすれば、真ん中の所でへし折れてしまうのがオチというものだ。
「トロピコ!ジャンプ、ジャンプして!」
僕の首元にしがみ付く少女の手に力がこもる。少女の言う通り、ここを通過するのならば飛び越すしか手段はないのである。僕は前を向いたまま一つ大きく頷くと、そのまま背中の四枚の葉っぱを大きくはばたかせて水路を飛び越しに掛かった。背中の上の少女は興奮を抑え切れないようで、僕の体が宙に飛び上がる瞬間、大きな歓声を上げる。
無事に水路を飛び越した後、首を後ろに向けて少女の様子を見ると、少女はプーッと頬を膨らませていた。
「心配してくれなくても大丈夫だよぉ。もーっ、早くみんなの所まで行こうよぉ!」
背中の上の少女
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