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No.04

もう逃げられないのだから、抵抗をする意味も無い。

そう考えている内にも、尻尾は俺を巻き取り、顔以外は窮屈な蜷局の中へと収められてしまう。

グイッと持ち上げられる時に、一瞬だけ黒竜の腹が見えた。
先ほどまではうずくまっていた為、腹を見る事は出来なかった。

腹は白く、見た目でしか分からないが、とても柔らかそうなイメージがする。
一般的な蛇腹ではなく、一枚の皮膜で出来た腹だ。

《…少し前にも人間を喰らったが、抵抗などほとんどしなかったぞ…》

耳元で囁かれる言葉、同時に生暖かい吐息が吐き付けられる。
吐息に混じって叫び声が聞こえたような気がした。

今もあの腹の中に居るのかもしれない、と俺は思う。
生きているのかは知らないが、黒竜の言葉が本当ならば、今頃、少しずつ消化されている頃だろう。

《貴様は若くて美味そうだ…》
グバアッ!!

目の前で見せつけるかのように大口が開かれる。
半透明に白く濁った唾液が牙と牙の間にねっとりとラインを引き、千切れて消える。
ずらりと並んだ鋭い牙の中心には、幅広く、分厚く、柔らかそうな舌が蠢いていた。

ピンク色の口内の奥に見える暗黒は、獲物を待ち受けるかのように、閉じたり開いたり、その度にくちゃっ…にちゃっ…と嫌な音を立てた。

ジュルッ…ベチャッ…

突然、黒竜が舌を俺に押し付けてくる。
べっとりと唾液に濡れたそれは、柔軟に形を変えて俺の顔を優しく包み込んでしまう。
濃密な生臭さとねちゃっとした唾液、それと独特な生暖かさが合わさって、思わず吐きそうになってしまう。

『んぐ…』

息苦しい、気道を舌に塞がれてしまいながらも顔を動かし、抵抗をする。

密着した舌はズリュッと顔を擦り、唾液を塗り重ねるようにして何度も何度も擦り付けられた。

《…なかなか美味いではないか…》

舌が突然離れる。
ずーっとねばねばした唾液を擦り込まれてぐっちょりと濡れていた顔に空気が触れて、寒い。

《どうした?、寒いのか?》
《寒いのならば直ぐにでも温かい場所に連れて行ってやるぞ?》

そんな俺の様子を見て、黒竜は口を開けたまま言い放った。
その《温かい場所》は目の前にある。
とろりとした唾液が黒竜の舌裏に溜まり、唾液溜まりを作っていた…
12/02/23 00:35更新 / ラギア

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