目線の先には巨大なシルエットが洞窟の通路を塞ぐようにして鎮座している。
いや、身体が黒い為、シルエットに見えるだけだ。
その姿は…体長は50m前後はあるだろうか、背中側は黒曜石のような鱗に覆われており、一列にならんだ棘のような物が立っている。
一対の黒翼は力無く折り畳まれているが、広げればこの広間の天井を覆い尽くす程に大きいのだろう。
頭部からは角が4本、耳に当たる場所には鰭のような物があった。
腕からは鋭利で長い爪が生えており、幾多の命を奪ってきたのか、うっすらと赤く色づいている。
極太で長く、見た目とは反して筋肉の塊である尻尾は、獲物を待つかのように左右にゆらゆらと揺らされていた。
そんな黒竜が、俺をじーっと真紅の瞳で睨んでいる。
鱗に覆われた顔から感情を読み取るのは難しいが、恐らく俺を食べようとしているのだな、という事だけは分かった。
《…ククク…どうした?、既に逃げる気も無いのか?》
黒竜が俺を嘲笑う、俺は逃げるべきなのだが、無性に悔しくなってきた。
多分俺は洞窟に入った時から黒竜の謀略にかかっていたのかもしれない。
シャッ…
腰からナイフを抜いて…もちろん勝ち目など無いのだが、どうしてもその身体にナイフを突き立ててやらないと、この悔しさは拭えないような気がした。
《…愚か者め…大人しくしていれば楽に死なせてやったのだがな…》
『うおぉぉぉぉ!!』
ナイフを振りかざし、平然と俺を睨みつけている黒竜に向かって走り寄り、その無防備な首に向かって刃を突き立てた…筈だった…
…ドサアッ!
『…ぐっ…!!』
刃は首に当たる寸前で見えない何かに阻まれ、そのまま横に逸らされた。
身体も同時に持って行かれ、そのまま地面に倒れてしまう。
《…フハハハ!!…無闇に急所を狙おうとするからそうなるのだ…》
地面に倒れてしまった俺を見下ろして黒竜は言った。
ナイフは倒れた時に手から離れ、遠くに転がってしまっている。
ジュルリ…
俺を見下ろしていた黒竜は、口先から分厚い舌を出して、目の前で舌なめずりをしている…
同時に、俺の身体に何かが触れた。
石のように冷たいそれは、先ほどまで左右に揺れていただけの尻尾だった。
足元から隙間なく、ゆっくりと巻きつけられていく尻尾を見て、俺は身体の力を抜いていた。
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