『…ボクの事は1年前に知っている筈なんだよ、どこかで、ボクの事を知ったんだ』
僕はその話を聞いていたが、分からなかった。
でも、懐かしさを感じるのはそのせいかも知れない。
『…忘れる事って簡単だけど、覚える事は難しいよね…』
そう言ったエイプリルの口調は相変わらず笑っていたが、悲しそうでもあった。
『…ごめんね、ちょっと暗い話して』
『そろそろ現実に返してあげる』
エイプリルがそう言うが早いか、口内が傾き、喉に向かって少しずつ頭から落ち始める。
逆さまに落ちるのは怖いが、目を瞑って耐えようとした。
クチュッ…ニチャッ…
喉肉に顔が包まれ、優しい温もりが僕の身体を少しずつ包み込んでいく。
逆さまになりながら、足までも包まれてしまった。
少しずつ、じっくりと、胃袋に向かって飲み下されていく。
不思議と息苦しさは感じない。
ズリュッ…グジュゥ…
噴門から絞り出されるように、胃袋へと出された、暑い。
目を開ける。
エイプリルの柔らかい腹の中だ、耳を澄ますと、粘着質な音と共に力強い心音が聞こえる。
僕はゆっくりと、身体の力を抜き、大の字になって仰向けになる。
ギュゥ…
胃袋の空気が抜けて、空間が無くなる。
僕の形に胃壁が密着し、柔らかさを伝える。
胃液も身体に絡む、消化はされないが、意識が薄らいでいくのが分かる。
『…また会えるといいね、その時には…遊ぼうね』
いつの間にか聞こえる音はエイプリルの心音だけになっていた。
『僕は夢の中でしか生きられないし、4月の間しか活動が出来ないんだ…』
僕は目を閉じる、寂しそうなエイプリルの声。
エイプリルの腹の中、とても居心地が良い…暖かくて…安心出来る空間…
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