『いただきます…』
…ガバッ…
僕の目の前で口が開かれる、生臭い空気が吐きつけられ、思わず蒸せた。
唾液がねっとりと糸を引き、千切れて消える。
『大丈夫かな?』
滑った口内はピンク色をしており、白い牙が縁に沿ってずらりと並んでいる。
舌はその中央にあり、その奧には真っ暗な肉洞が続いている。
それらが言葉に合わせて蠢き、唾液が湿った音を響かせた。
…ベチャッ…ズチュッ…
舌が突然僕の顔に押し付けられた、粘着質な音が響き、ヌルッとした唾液が絡んだ舌が僕の顔にずりずりと擦りつけられる。
痛くはないが、顔全体が包まれるようにして擦り付けられているため、息が出来なかった。
じたばたと慌てて抵抗をする、と、一瞬だけ隙間が出来た。
ここぞとばかりに空気を吸い込む…が、たっぷりの生臭い空気を吸い込んだ上に、吸い込む最中にまたも舌を押し付けられ、濃い唾液までも吸い込んでしまう。
苦いような、甘いような、そんな味が口内で絡みつく、美味い訳ではないが、不味い訳でもなかった。
正直意外だと思った。
…シュルッ…ズリリ…
舌が離れたかと思うと、今度は首筋を舌先で舐められる。
暑い口内が眼前に広がったまま、そうして舐め回された。
服には唾液が染み込み、身体が重くなる。
舐められているだけなのに、身体には疲労が蓄積されていった。
『君はなかなか美味しいね…』
それは誉め言葉なのだろうか…今までそんな感想が自分に降りかかる事はなかった。
獲物としての立場、それを実感した一言だった。
ジュルル…
身体を擦るようにして、しっとりと濡れた僕に、みっちりと舌が巻き付けられる。
そして、そのまま迫る口内。
…バクン…
暗闇に閉じ込められる、生臭さの充満した口内で、僕は舌から解放される。
解ける緊張、強張る恐怖、暗闇はそれらを同時に生み出す。
…ズジュッ…ズリュッ…
暗闇で身体が回る、飴玉のように、僕は口内を転がされる。
唾液が絡み、身体をコーティングしていく。
独特な心地良さに身を任せていると、突然声が響いた。
『…なんで君が此処に来たか分かる?』
『…それは君がボクの事を知っていたからだよ、何でだろうね?』
クスクスと、エイプリルは笑う。
[5]
前編へ [6]
続編へ
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想