森を抜け、ぬるい風がほほをかすめる。
草原が広がる。ずっと向こうには、学校の赤い屋根がかすんで見えた。
3人はほっと溜息をつき、遠くに見える学校を眺めた。
やっと帰ってこれた。
3人とも、胸に重いものを抱えたような気分ではあったが、それでも嬉しいのは間違いなかった。
「娘よ。……そう、クラッズの娘、お前だ」
竜の声に、急に現実に引き戻されたように、クラッズの意識がはっきりしだした。
振り向くと、竜がこちらをまっすぐに見下ろしていた。
クラッズは身震いをした。
最初見たとき、クラッズは小山のような巨体から威圧感を感じたが、今はそれだけではなかった。
何かもっと、不吉なものを感じる。背筋が泡立つような感じがする。
黙ったままこちらを見下ろす竜に、危険は感じられない。なのに、鳥肌が立った。
「……なんです?」
萎えそうになる足に力をいれ、クラッズは竜をまっすぐ見返した。
そして、なぜ竜の姿に恐怖を感じるのか、やっと理解した。
竜は笑っている。それも、とびきり残虐な笑みを浮かべている。
「さっきわしが訊いたことを覚えて居るか?スライムに敗れたものがどのようになるか。
……スライムに敗れたものの最期は悲惨でな。生きたまま、皮も肉も骨も溶かされ、吸収される。
敗れたものはあまりの痛みにその間意識を手放すこともできぬ。身動きがとれぬゆえ自死することもできぬ。
ただ生きながら溶かされ続ける痛みに耐え、息絶えるのを待つよりほかにない。
文字通り生き地獄というわけだ」
「……」
クラッズは絶句した。何を言っているのかは、さっぱりわからない。でもひどく嫌な予感がする。
明るい陽の光の下だというのに、やけに寒い。
逆光でもないのに、竜の瞳だけがギラギラと輝いて見える。
黄色く光るそれを、3人ともまるで魅入られたように見つめていた。
「消化も似たようなものでな。竜に呑まれたものはこうなる」
そう言って竜が口をあけた。
舌の上には、ドワーフがいた。
息を呑む三人の前で、ドワーフがもがいていた。もがきながら、なんとか竜の口から出ようとしている。
粘液にまみれた腕。
毛皮はところどころはげ赤く血がにじんでいる。
ドワーフが顔をあげる。粘液でぐしゃぐしゃの顔をこちらに向ける。
誰かが、ひ、と小さな悲鳴をあげた。
ドワーフの眼は真っ白に濁り、もはや何も見えていなかった。
指が、やっと牙に届く。だが、竜の舌がうごめき、たちまち口内奥深くへ運ばれた。
竜が口を閉じ、喉を動かした。
「奴が早く楽になれるよう祈ってやることだな」
竜がそういった時、口内にはドワーフの姿は見えなかった。
茫然と立ちつくす3人の前から、竜は砂埃を上げながら飛び立った。
そして視界が戻るころには、もうどこにも竜はいなかった。
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