それから何年もの月日が流れた後。末っ子の娘も無事に巣立って育児から解放され、果樹園の経営も従業員に任せられるようになり、森の主のベロベルトとその妻のベロニカは悠々自適のセカンドライフを送る毎日だった。そんな二匹が訪れていたのは森の奥深く。夫婦の仲を深めるため、そして、熟年の域に達しても衰える気配のない旺盛な食欲を満たすため、ハンティングに来ていたのだった。
「準備はいいかい、ベロニカ? それじゃあ、いくよ?」
こんもりとした茂みの中に身を隠しながら、同じく隣で身を隠していたベロニカに呼びかける森の主のベロベルト。互いに頷き合って前を向いた二匹は、
「せーのっ! ベロォォォォォン!」
広場の真ん中の八匹掛けのテーブルに座っていた獲物めがけて舌を伸ばす。その距離なんと二十数メートル。森の主のベロベルトの舌はエーフィ、ブラッキー、リーフィア、グレイシアの四匹に、ベロニカの舌はシャワーズ、サンダース、ブースター、ニンフィアの四匹に向かってぐんぐん伸びていく。
八匹の正体は違法キャンプ場のオーナー。誰の許可も取らずに土地を開拓して資材を運び込み、飲まず食わずの強行軍でキャンプ場を完成させていたのだった。しかし、この森の実質的な持ち主であるベロベルト夫妻の承認を得ていない以上、それは食物連鎖の最底辺として彼らの領域に足を踏み入れたのと同じ。完成祝いのご馳走を冷えたジョッキで胃袋に流し込み、歓喜の絶頂にいたところを――
シュルシュルシュルシュルッ! ギュムッ!
訳も分からぬまま長い舌で絡め取られ、
……グパァァァァァァッ!
粘着質の唾液で溢れ返る巨大な口の中に放り込まれ、
バクンッ!
そして閉じ込められる。
四匹もの獲物を口いっぱいに頬張りながら向かい合うベロベルト夫妻。手と手を取り合い、軽く目を瞑り、うんと口をすぼめた彼らは、
ブッチュゥゥゥゥゥッ!
熱々の接吻を交わすと同時に舌を入れ合い、互いの口の中の獲物を舐め回す。瞬く間にネバネバのベトベトにされてしまう獲物たち。それが強力な溶解液であることを忘れるべきではなかった。獲物たちは舌の上でチョコレートのように溶け始める。
「んんんんんんんんっ……!」
口の中いっぱいに広がる濃厚な脂肪のコクと芳醇な肉の旨味に舌鼓を打つベロベルト夫妻。そんな二匹の舌を楽しませるほどに姿形を失っていった獲物たちは、たった数分でベトベターのようになり、その後の数分でベトベトンのようになり――やがて完全に溶け尽くしてヘドロのようになる。
ドピュッ!
そこで喉奥のベロ袋をギュッと縮めて唾液を溢れさせ、一つに混ざり合うまでクチュクチュと舌を絡め合ったら出来上がり。ベロベルト夫妻の愛情とイーブイズの栄養がたっぷり溶け込んだブイヤベース、もといブイズベースの完成だった。それを半分ずつ口に含んで舌を引き抜き、
ちゅぷっ……。
静かに唇を離す二匹。固く口を閉じ、少し上を向いた彼らは、
ゴクッ、ゴクッ、ゴキュッ! ……ゴックンチョ!
美味しそうに喉を鳴らしながら、出来立てホヤホヤの生温かいスープを飲み下す。百キロ超の肉で身も心も幸せでいっぱいにした二匹は、
「ゲェェェェェップ!」
「ゴェェェェェップ!」
特大のゲップで満足の意を表明し合うのだった。
その後ですべきことは一つだけ。二匹は申し合わせたかのように仰向けに寝転がる。
「大成功だったね、ベロニカ! さぁ、お腹いっぱいになったことだし、あとはゴロゴロして過ごそう! それじゃ、おやすみなさぁい!」
静かに目を閉じる二匹。猛烈な睡魔に襲われつつあった
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