「……で、話ってなぁに、レナードさん?」
残念ながら今日は立ち話だった。のそのそと住処の洞窟から出てきた森の主のベロベルトは、穏やかな春の景色をバックに佇んでいた親友のマフォクシーに質問する。
「あぁ。単刀直入に言うと……お前さんと結婚したいとか抜かしているロマンチストが約一匹いるから紹介してやろうと思ってなぁ」
半ば諦めかけていただけに衝撃だった。彼は目の色を変えてマフォクシーに迫る。
「どっ、どんな子だい!?」
「この春から俺の店で働き始めた雌のベロリンガさ。名前はベロニカ。歳はジャローダの彼女と同じくらいか。気配り上手な面倒見のいい子だ。知ってのとおりのグルメな種族だから料理の腕もピカイチだぞ!」
完璧だった。ベロベルトは鼻息を荒くする。
「彼氏が欲しいって言うもんで、お前さんの話をしたら、これが大ウケでなぁ。街で何一つ不自由なく育った奴が野生で暮らすのは大変だぞ、と言ってはいるんだが……ちっとも聞く耳を持たないんだ。……興味あるか?」
困り顔で笑うマフォクシー。彼は何度も首を縦に振る。
「あるに決まっているでしょ! それで、それで!? オイラは何をすればいいの!?」
マフォクシーは指を立ててみせる。
「そんなお前さんを信用して一つ頼み事をしたい。しばらく彼女を預けるから野生の厳しさを叩き込んでやって欲しいんだ。もし気に入るようなことがあったら、付き合うなり何なり好きにするがいいさ。どうだい、悪い話でもないだろう?」
今すぐ引き受けたいところだったが、一つだけ問題があった。腕を組んだベロベルトは難しい顔をする。
「そりゃ悪い話じゃないけど……レナードさんはいいの? お店で働く子が一匹いなくなっちゃうワケでしょ? なんだか申し訳ないなぁ……」
マフォクシーはフンと鼻を鳴らす。
「ほぉ? 俺の心配をするとは随分と余裕があるんだな? もう形振り構っていられる歳じゃなかった筈だが?」
だらしないブヨブヨの腹を肘で小突かれた彼は顔を真っ赤にする。
「わっ、分かってるってば……。そういうことなら喜んで協力させてもらうよ。で、いつ連れて来てくれるの?」
待っていたと言わんばかりの顔だった。マフォクシーは白い歯を覗かせる。
「……明日にでも。お前さんの返事次第だ」
「決まりだね! それじゃあ……明日で!」
二匹は固い握手を交わし合う。
「ありがとう! やはり持つべきものは友だ! ……どうしても野生の環境に馴染めそうになかったら引き取りに行くから安心してくれ。遅かれ早かれ音を上げるだろうからな」
そんな彼の不安を打ち消すかのようにベロベルトは力強く胸を叩いてみせる。
「大丈夫! オイラが一から手取り足取りベロ取り教えるから心配ないよ! きっと立派なベロベルトに育ててみせるさ!」
これ以上の言葉はなかった。マフォクシーは空を見上げて大笑いする。
「ははっ、そいつは頼もしい限りだ! ……ということで、これから大急ぎで帰って支度させてもらうよ! では、また明日!」
傍らに置いてあった巨大なリュックサックを背負うなり、くるりと踵を返したマフォクシーは、矢のような速さで森の小径を駆け抜けていったのだった。
「……なるほどね。お茶している時間がないワケだよ」
急速に小さくなっていく背中に手を振りながらボソリと呟くベロベルト。それに比例して大きくなっていったのは明日への不安だった。頭を抱えた彼は右往左往し始める。
「たっ、大変なことになったぞ……。大見得を切ったはいいけど、こんなのオイラに務まるのかなぁ? ……こうしちゃいられない! 早くオイラ
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