時は流れて夏の盛り。鬱蒼とした森の奥深くを三匹の野獣が汗に塗れながら走っていた。しきりに背後を気にしていることから察するに、何者かに追われているらしい。やがて体力を消耗し尽くした三匹は、倒れ込むようにして湿った腐葉土の地面に腰を下ろす。
「はぁっ、はっ……撒いたか?」
走ってきた方向を凝視しながら呟いたのは、二本の尻尾に両腕の青いヒレ、そして何よりも、ゴムボートを彷彿とさせる黄色い浮き袋が特徴的なオレンジ色をした鼬のポケモン――フローゼルだった。
「あぁ、ここまで逃げれば大丈夫だろう」
そんな彼の言葉に小さく頷いたのは、黒と青の毛皮に全身を包んだライオンのポケモン――レントラー。舌を出しながら肩を上下させていた残る一匹に注目した彼は、三本の黄色い縞模様が入った前足を差し伸べる。
「……水筒を貸せ。近くに小川が流れていた筈だから汲んできてやる」
「恩に着るぜ、リーダー」
礼を述べながら腰の水筒を手渡したのは、深紅と白の毛皮を身に纏った、おとぎ話に出てくるような人狼のポケモン――ルガルガンだった。水筒を受け取った彼は即座に立ち上がって二匹の顔を見回し、
「十五分後に出発するぞ。今の内に体を休めておけ」
そう言い残して小川へと駆けていくのだった。
「あぁ、チクショウ。女だ。こういう時こそ女を抱きてぇ……」
ゲスな台詞を呟くなり仰向けに寝そべるフローゼル。隣で聞いていたルガルガンの凶悪な顔に下品な笑みが浮かぶ。
「げへへっ、俺様もだ! 想像するだけで興奮するぜ……!」
同じく横になるかと思えば違った。ボリボリと股座をかいた彼は二本足で立ち上がる。
「ちょっとウンコしてくらぁ。すぐ戻るわ」
「好きにしな。風上ですんじゃねぇぞ?」
「分かってるっての!」
両手を頭の後ろで組みながら面倒臭そうに返すフローゼル。軽く頷いた彼は駆け足で茂みの奥に消えていくのだった。
「……けっ、テメェは女じゃなくて男だろ。バレてんだよ。このクソホモ野郎が」
耳に届かない程度の声で悪態を吐いた彼はキュッと尻の穴を引き締める。
「クソッ……マッポどものせいで何もかも台無しだ。またイチからやり直しかよ。せっかく大枚叩いて豪華な隠れ家まで建てたってのに……」
ぶつくさ言いつつ、枝葉に切り取られた空を見上げるフローゼル。仮眠のつもりで目を閉じた彼は――不覚にも深い眠りへと落ちていったのだった。
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