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娘よ【残】【血】【小】

「あぁっ、綺麗! 本当に来てよかった……!」
 氷に覆われた急斜面を軽々と駆け上がり、切り立った霊峰の頂を四本足で踏み締めたのは――真っ白い毛皮に全身を包んだキュウコンの少女だった。見渡す限りの絶景を視界に収めた彼女は目を輝かせる。
 天候に恵まれたのは日頃の行いが良かったからに違いなかった。長い冠毛と九本の尻尾を風になびかせながら大パノラマを堪能するキュウコン。やがて港町の向こう、水平線の彼方の一点を見つめた彼女は表情を引き締める。
「待っていてね、みんな! 今はダメでも、いつか必ず……!」
 さぁ、帰ってすべきことをしましょう! 慣れた足取りで山を下り始めた彼女の表情がフッと緩む。
「でも……その前に温泉、温泉っと! 美味しいものも食べちゃいましょう! あぁっ、何を食べようかしら!? 食後のデザートも外せないわ!」
 浮いた小遣いの存在を思い出した彼女は、嬉しい悲鳴を上げるのだった。
 それから数十分後。八合目付近の崖道を進んでいた時だった。サッと血の気が引く感覚に襲われた彼女はピタリと足を止める。
 誰かに見られている。それも私の死角から。少なくとも味方でないことは明らかだった。大きく息を吸って、そして吐いて心を落ち着かせた彼女は――勇気を振り絞って背後を振り返る。
「……誰!?」
 が、目に入ってくるのは氷と岩ばかり。怪しい影がないことを確認した彼女は小首を傾げる。
「おかしいわね、気のせいかしら……?」
 そう思い、再び歩き始めようとした――次の瞬間だった。ある考えが彼女の脳裏をよぎる。
「まさか……上!?」
「グオオオォォォーッ!」
 そのまさかだった。咆哮と共に数十メートル上の崖から飛び降りてくる茶色い影。落下しながら丸太のように太い腕を高々と振り上げた彼は――キュウコンの少女をハンバーガーのパティにするべく、着地と同時に力いっぱい両拳を叩きつけてくる。
「……くぅっ!」
 行李を降ろして横っ飛びに回避するキュウコン。あと少しでも遅かったら挽き肉にされているところだった。轟音と共に行李は木端微塵に砕け散る。
「こっ、こいつは……!?」
 素早く起き上がり、元いた場所に目を凝らすキュウコン。そこに立っていたのは、巨大な体躯に鋭利な手足の爪、そして腹部の大きな黄色い輪っか模様が特徴的な熊のポケモン――リングマだった。
「あっ、あぁっ……穴持たず……!」
 それも冬眠に失敗して凶暴化した個体と見て間違いなさそうだった。彼女は腰を抜かしそうになるのを必死で堪える。
 今すぐ背中を見せて逃げ出したい衝動に駆られるも、ここが逃げ場のない一本道であることを忘れるべきではなかった。全身の毛を逆立て、牙を剥き出しにして精一杯の威嚇をした彼女は――乾坤一擲の大勝負に打って出る覚悟を決める。
「……戦うしかなさそうね! 今度は私が攻撃する番よ! 計画性のない間抜けなクマさん!」
 大豊作だった年の冬に外出している時点で明らかだった。軽蔑の眼差しを向けると同時に胸いっぱい大きく息を吸い込み、そして――
「凍りつきなさい! こごえるかぜ!」
 氷点下百度の冷気に作り変え、一気に吐き掛ける。
「グアァァァァアッ!?」
 両腕でガードするも、ドライアイスの暴風を前に為す術などなかった。足元から氷漬けにされていったリングマは――やがて氷柱の内側に閉じ込められ、一ミリも体を動かせなくなってしまう。
「からの……コォォォォォォン!」
 トドメを刺すまで一瞬たりとも油断はできなかった。遠吠えをして気合いを高めた彼女の瞳が青い輝きを放ち始める。母から教わったばかりの神通力
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