降り積もった新雪の上に点々と残された大きな足跡と小さな足跡。辿った先にあったのは――横一列に並んで雪原を行くベロベルトとキュウコンの姿だった。
夜半から本降りになった雪も明け方には止み、徐々に天気は回復に向かいつつあるようだった。雲の切れ間から差す朝日を全身に浴びながら北に向かって歩き続ける二匹。ニット帽、ミトン、ブーツの完全装備に身を包んだベロベルトが唐突に口を開く。
「そうだ、コユキちゃん。あの後はよく眠れたかい? ごめんね、こんなブヨブヨの気持ち悪いデブの相手なんかさせて……」
何やら後ろめたいことでもあるらしい。頭の後ろに手を回して頬を赤らめるベロベルト。隣を歩いていた真っ白いキュウコンは大笑いする。
「もぉ、ベロベルトさんったら! 自虐が過ぎますわ! もっと自分に自信を持ってくださいな! ……えぇ、ぐっすり! 抜群の寝心地でしたわ、ベロベルトさんのお腹の上! チルタリスの羽毛にも負けない暖かさと柔らかさでしたもの! でも……」
「ありゃ!? でっ、でも……?」
足をもつれさせた彼はガックシと肩を落とす。
「……やはり一番はカビゴンのお腹ですわ。あれは断トツです」
真剣な顔で告白するキュウコン。遠くの雪山の頂を見つめた彼は少し複雑そうな顔をする。
「……なるほど。うん、正直でよろしい。オイラも彼に勝てるとは思わないよ。一日に四百キロも食べたら胃袋が破裂しちゃうもの!」
お腹をさすりながら苦笑するベロベルト。彼女も同じ表情をする。
「本当! 一体全体どういう仕組みになっているんでしょうね、彼の胃袋は! 考えるだけで夜も眠れませんわ!」
「ははっ、オイラも! ……まぁ、アレだね。上には上がいるものさ」
下を向いた彼は白い息を吐き出すのだった。
「食べるといえば……改めて、ごちそうさまでした! とっても美味しかったですわ、ベロベルトさんに作っていただいた朝ごはん! まさか森の真ん中でフルブレックファストが楽しめるなんて思ってもみませんでした!」
ペロリと口周りを舐めて満足の意を表明するキュウコン。頭の後ろで手を組んだ彼は鼻を高くする。
「えへへっ、お粗末さまでした! 美味しいものは食べるのも作るのも大好きだからね! お気に召したようで光栄だよ! お腹いっぱいになってくれた!?」
マナー違反と知りながらもゲップを漏らした彼女は大きく頷く。
「うふふっ、もちろん! ……そう言うベロベルトさんはいかがです? 大食いコンテストで準優勝を狙えるほどの食べっぷりでしたけど!?」
不動の一位が誰であるかは言うまでもなかった。食事の模様を思い出した彼女は吹き出してしまう。
「うーん、あれで腹四分目……いや、三分目ってところかな。このところ太り気味だから控えめにしているんだ!」
耳を疑う台詞だった。全身の毛を逆立てた彼女は飛び上がってしまう。
「えっ!? あんなに食べても!?」
「そう! ビックリするでしょ!? ……あと一つ驚かせてあげる! ここに耳を当ててごらん!」
立ち止まって手招きするベロベルト。もう片方の手でポンポンと巨大な腹を叩いた彼は、口周りの食べカスをベロリと舐め取る。
「えっと……こうですか?」
言われたとおりにするキュウコン。ブヨブヨの分厚い贅肉越しに響き渡ったのは――雷鳴と聞き紛うほどの腹鳴だった。
「こっ、これって……もしかして……?」
耳を押し当てたまま呆れ笑いを浮かべるキュウコン。彼は小さく頷く。
「そう! 腹の虫の音だね。実はもう腹ペコなのさ!」
一歩下がってお座りの姿勢になった彼女は深々と頭を下げる。
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