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迫る恐怖

「すまない、遅くなった。……何か変わったことは?」
 場所は洞窟の入り口から数十メートル離れた木立の中。どこかから戻ってきたらしい。腹這いの姿勢で洞穴の中の様子を窺っていた二匹の真っ白いキュウコンの右隣に腰を下ろしたのは――同じく純白の毛皮に包まれたキュウコンだった。真ん中の一匹が前を向いたまま口を開く。
「今のところは特に何も。……報告してくれ」
「……了解」
 軽く頷いた彼は二匹と同じ姿勢になる。
「良いニュースと悪いニュースが一つずつ。どちらから聞きたい?」
「良いニュースに一票!」
 高々と前足を上げる左端のキュウコン。真ん中のキュウコンも縦に首を振る。
「では良いニュースから。……有志連合の最後の生き残りが降伏した。俺達の完全勝利だ」
 左端のキュウコンが口笛を吹くも、真ん中のキュウコンは冷静な反応だった。彼は表情ひとつ変えず質問する。
「捕虜と女子供は?」
 右端のキュウコンは洞窟を顎でしゃくる。
「それなら奴の親父の元に一匹残さず。最後まで我々に盾突いた罰だとか!」
「素晴らしい! すぐ奴らにも後を追わせてやろう! 喉首を掻き切ってくれる!」
 復讐者と化した彼らの辞書に正々堂々の文字はなかった。前足に装着したナイフをベロリと舐めた彼は、哀れな獲物が血しぶきを上げて絶命する様を想像しながら、不気味な笑みを顔いっぱいに浮かべるのだった。
「お次は悪いニュースだ。心して聞いてほしい」
 本当に悪いニュースらしい。右端のキュウコンは声を低くする。
「別動隊の連中がサツにパクられた。俺達についてゲロするのも時間の問題だろう」
 二匹の視線が彼の顔に集中する。
「んなっ!?」
「はぁっ!?」
「……しっ! 声がデカい!」
 口に前足の爪を立てる右端のキュウコン。頭を抱え込んだ真ん中のキュウコンはギリギリと歯噛みをする。
「不甲斐ない犬どもめ……! いつどこで抜かった!?」
「知るか。こっちが聞きたいくらいだ」
 不機嫌な声で返す右端のキュウコン。真ん中のキュウコンは怒りが収まらない様子だった。わなわなと全身を震わせた彼は、前足のナイフを雪原にザクリと突き立てる。
「それは百歩譲って仕方なかったとしよう! なぜ返り討ちにできなかった!? 壊滅状態ではなかったのか、街の警察は!?」
 右端のキュウコンは明後日の方を向いてしまう。
「その件だが……アカデミーで訓練を積んだ優秀な奴らを前倒しで投入してきたらしい。お前も知っているだろう? 奴の腰巾着のルカリオを? 何匹かはそいつにボコられたんだと!」
「あの薄汚い乞食のガキめ! 舐めた真似を! 今に思い知らせてくれるわ……!」
 額に血管を浮かび上がらせた彼は殺意を新たにする。
「まぁまぁ、落ち着けって。ここは前向きに行こうや」
「どう前向きに行こうってんだ?」
 速攻で右端のキュウコンに突っ込まれるも涼しい顔だった。含み笑いを漏らした左端のキュウコンはこんなことを打ち明ける。
「決まってんだろ。帰るんだよ、島に。あのメスガキを母親もろとも消した後でな。有志連合も滅びちまったんだし、もう誰も逃れてきやしないさ。ここに居るだけ無駄ってもんじゃねぇか。帰って一休みしようぜ」
 信じがたい台詞だった。右端のキュウコンは言葉を失ってしまう。
「いっ、居るだけ無駄って……。お前さんよぉ。じゃあ、聞かせてもらうが、アイツはどうするつもりだ? まさか置いて帰る気じゃないだろうな?」
「は? アイツって誰よ?」
 ポカンとした顔をする左端のキュウコン。強烈な目眩に襲われた彼は雪原の上で大の字になってしまう。
「おいお
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